第51話 新入生
「にゃー! とうとうこのひがやってきたな〜っ!」
ケアフがキラキラとした表情で腕をワキワキさせている。可愛いね。
何をそんなに楽しみにしているのかというと、今日、新一年生が入寮してくるのだ。
「ボクたちもついにセンパイになるんですね! たのしみです……!」
「わははっ、昨日からソワソワしていたのはそういうことかよ! どーんと構えていればいいんだよッ!」
落ち着きのない様子の二人を笑い飛ばすストレンス。彼はすっかりこの寮に馴染んでいる。
「ふふ、しょうがないですよ。初めての後輩なんですから!」
「ははっ、そういうお前は落ち着いてるよな。流石、神童様だッ!」
「もうっ、ストレンスさんまでやめてくださいよ〜!」
「わははっ、わりぃわりぃ!」
少しだけドキリとした。
そりゃ落ち着いているさ。小中高大……なんならこの世界には無いが幼稚園でも。
後輩が入ってくる機会は何度もあったのだから。
「私は皆さんよりも先に新入生の子一人とお話する機会があったので……それで心の準備ができているというか」
「あ、そうなんですね」
「にゃ! やっぱりエンドリィのこうゆーかんけーはひろいなっ!」
「ま、別に驚きはしねぇよ。なんたって奴隷にも分け隔てなく話しかけてくる奴だもんな!」
「何で少し自慢気なんですかストレンスさん……」
『はぁ、ふぅ……おーい、みんなぁー、新入生の子達がやってきたよぉ〜。エントランスに集合〜』
オレが苦笑いを浮かべていると、新寮長の声がヴィジョンを通じて廊下に響いた。
「わっ、おもってたよりはやいですね!」
「にゃっ! いくぞみんなっ!」
「おーい、危ねぇから廊下は走んなって……」
「あっはは……」
少しでも早く新入生を見たいのか走り出したケアフの後を追う形で、エントランスへと向かう。
「──……あっ」
エントランスに到着してまず目に入ったのは、既に集まっていた寮生と楽しそうに会話をしている一人の新一年生と、寮生に囲まれて居心地が悪そうな表情をしているアリスジセルの姿だった。
「エンドリィせんぱいっ!」
アリスジセルはオレの姿を捉えるなり、寮生の間を通って此方へ駆け寄ってきた。
「久しぶり、アリスちゃんっ!」
「おひさしぶり、ですっ」
ホッとした表情を浮かべたあと微笑むアリスジセル。
先ほどまで彼女を囲んでいた寮生からすると気分の良いものではないだろうと思い、彼らの方を見ると微笑みながら手を振られた。
……よかった。そこまで気にしていないようだ。
「おぉ! おみゃーがさっきエンドリィがいってたしんにゅうせーか! よろしくな〜!」
「……っ。よろしく、おねがいします」
ケアフの気さくな挨拶にアリスジセルはピクリと身体を震わせて。
オレの背後に隠れたあと、おずおずと挨拶をする。
「……ズイブンとはずかしがりやみたいですね?」
「ははっ、可愛らしいじゃあねぇか!」
「うぅ……エンドリィせんぱぁい」
アリスジセルが困った声を出しながらオレのワンピースの裾を掴む。可愛いね……『わたしのほうがかわいいもん!』という声が聞こえてきた気もするが。
「はぁ、ふぅ……みんな揃ってるね? それじゃあ、自己紹介をしてもらうから、一年生の子は中央に並んで〜」
「……ほら、行っておいで、アリスちゃん!」
「うぅ……はい」
寮長の言葉を聞いてもまだオレのワンピースの裾を掴んでいたアリスジセルに促すと、彼女はしぶしぶと言った様子で中央へと向かう。
「それじゃあ、自己紹介をやっていこうか〜、まずはキミから〜」
「ひゃい!? ……あぅ、えっと、ぼ、ぼくは『アリスジセル・F・ワンダーランド』です。その、しゃべるのはにがてで……えっと、えっと……よ、よろしくおねがいしましゅっ!」
容赦なく指名されたアリスジセルが挨拶をする……うん、可愛いからよし。
オレが真っ先に拍手をすると、ストレンスたちも拍手をして、寮生たちもそれに続く。
「あわわ……!」
アリスジセルはパニックになりかけながらも周囲に何度もお辞儀をする。
「はい、ありがと〜。それじゃあ、次はキミね〜」
続いて指名されたのは、先ほど寮生達と楽しそうに話していた子だ。
……獣人のハーフかクォーターなのだろう。兎のような耳が可愛らしい。
「はいっ! ワタシは『ラビィ・D・リオンイリネイション』です! そこのFランクとちがってはなすのがだいすきっ! みなさんといっぱいなかよくなりたいとおもっていますっ! ゴシドウゴベンタツのほど、よろしくおねがいします!」
「……うぅ」
引き合いに出されたアリスジセルが俯く。
「……にゃ、きょねんのカインをおもいだすなぁ!」
「ふふ」
ヒソヒソ声でケアフがそんなことを言うものだから思わず吹き出しそうになる。たしかに『Dランクとして、そこのEランクより〜』みたいなことを言ってたな。
「もう! やめてくださいよ!」
ヒソヒソ声でそんな事を言うカイン。本人の中では完全に黒歴史化していそうだ。
「──はぁい、ということで、総勢五名の新入生が来ましたぁ〜。みんなよろしくね〜……ふぅ、それじゃあ、解散〜」
「ボクたちがきたときはナナニンでしたから、コトシはフタリすくないですね」
「……まあ、私たちのときが少し多かったみたいですからね」
「にゃっ! おおかろうがすくなかろうがかんけいないっ! がんばっておせわするのみだっ!」
「わははっ、気合い入ってんなケアフ!」
「……うぅ、エンドリィせんぱぁい」
オレたちが談笑しているとアリスジセルがしょぼしょぼと近づいてきた。
「やっぱりじこしょうかい、かんじゃったしないようもとんじゃいました。おにいちゃんやおねえちゃん、パパたちともれんしゅうしたのに……」
「気に病むことはないよ、アリスちゃん! とっても可愛かったし!」
「もぉ、エンドリィせんぱい……」
やはりまだオレ以外の寮生には慣れないのか、オレの背後に隠れるアリスジセル。
そんな彼女の様子を見て、ラビィが鼻で笑う。
「ふんっ、なさけないヤツ! ただでさえFランクなのに、まともにはなせないなんて!」
「うぅ〜……!」
時に反論するわけでもなく悔しそうな声を出しながらオレのワンピースの裾を握りしめるアリスジセル。
「ラビィといいましたよね? そういうものいいは、あとでふりかえったときにはずかしくなってしまいますよ?」
先ほど恥ずかしがったばかりのカインが的確な注意をするが、ラビィはそっぽを向く。
「……ベツに、ワタシはまちがったこといってませんし! はなせないヤツをはなせないヤツっていってナニがわるいんですか?」
「にゃははっ、そっくりだな! カイン!」
「もう、やめてくださいよ、ケアフ……ラビィ、いずれアナタもわかりますよ」
「……」
「うぅ〜!」
黙って睨みつけてくるラビィに対して小動物の威嚇みたいな声を出すアリスジセル。
一見、二人の相性は悪そうだが、彼女たちもカインとケアフのようになるのだろうか……。
「……はぁ、ふぅ、そろそろいいかな。レディー、『小光纏魔法』」
そんな彼女たちを尻目に寮長は自身に魔法をかけ、コートを脱ぎ捨てて全裸になった。
そう、魔法で大事な部分は隠れてはいるが、彼女のグラマラスなボディが露になっており。
「「へ、へんたいだーーーーッ!!!」」
アリスジセルとラビィが声を揃えて叫ぶ。
うん、とりあえずここの息はピッタリだな。
せっかくなので第二部開幕も今日やっておこうと思い、予定を変更して投稿いたします。
明日から一日一話(7:10)更新となります。