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第5話 王都学校

「──うぇ、きもちわるいぃ……」

「無理して本を読むからですよ……いっそ外に吐きますか?」


 男の子はそれはそれはグロッキーな顔をしていた。慣れたと思って油断したな?


「ふ、ふん、そこまでシンパイされるスジアイはありません。おきになさらず……!」

「にゃはは、ごーじょーだなっ! まだほんをよむのやめないし! おみゃー、じつはおもしろいやつだろ!?」

「はっ、ヒトにわらわれるシュミはありませんよっ!」

「そーゆーいみじゃなくてだなぁー!」

「……ふふ、なんだかんだで話してくれてるじゃないですか」

「……は? それはアナタタチがからんでくるからで」

「一緒の馬車に乗ったのも何かの縁です。お話ししませんか? 本で酔ってしまっても、その内容の話はできますよね?」

「…………わかりましたよ。ボクが、じゃなくて、アナタがしゃべりたいから、しぶしぶ」


 たいそう仕方ないようなそぶりでため息を吐いて、頷く男の子。さっき喋りたそうにしててウズウズしてたところ、見てたからな?

 中身のオレは大人だから、こういうところに可愛げを感じてしまうな。子供らしくていいじゃないか。


「ええ、私が喋りたいんです!」


 両手を合わせて満面の笑みを浮かべる。どうだ、可愛いだろ!


「……『カイン・D・ウール』」

「……え?」

「ボクのナマエです! わからなければおはなしにシショウをきたすかもしれないでしょう!」

「……ふふっ、そうですね。よろしくお願いします、カインさん」

「よろしくなっ! カイン!」

「……べつにアナタはどうでもいいんですけど」

「にゃ、なんだってぇ……!?」

「まあまあ、ケアフちゃん、落ち着いて。カインさんも、勇者様のお話なら絵本の知識だけでも盛り上がれるはずですよ!」

「……いまボクがよんでたのはヒャクサンジュウページのジュウギョウメです」


 本を閉じてオレの方を見るカイン。何かを試そうとしている目だ。

 だが、問題ない。あの本は何度も繰り返し読んだからな。


「……あっ、勇者様が前代未聞のピンチに見舞われて覚醒するシーンですねっ! あそこの書き方ずるいですよね! 否が応でも興奮しちゃいますよー!」

「そう! そうなんですっ! イキヅカイのひとつからケンをにぎるちからづよさ! それにユウシャサマのコドウがきこえそうなほどのビョウシャ……!」

「その後のセリフを簡潔に済ますのもまたいいですよね。『いくぞ』の一言があんなに格好良く感じるなんて……!」


 パァッと表情が華やぐカイン。

 オレもこうやって語り合える人が欲しかったからな。素直に嬉しい。


「なるほどなるほど、さっぱりわからんな! それじゃ、みゃーはつくまでねてようかな!」

「あはは、ごめんね、ケアフちゃん」

「いいんだいいんだっ! エンドリィのひざかりるから!」

「私のぉ!? いいけど……って、もう寝ちゃった。早い……」


 なんだか本当の猫のようだ。可愛いから頭撫でとこ。


「……ベタですけど、やっぱりサイシュウケッセンもすきなんですよ!」

「ですよねですよねっ! 触れたら即死の闇の混合魔法を切り裂く女神様の剣……格好良すぎて!」

「そう! よけるでもなく、ケンできりさく……コレがたまんないんですよねっ!」

「あんなの読んだら近距離でしか闘えない剣に憧れを抱いちゃいませんか!?」

「あははっ、わかりますよっ! けど、ソレはユウシャサマだからできることです。このホンのチョシャもスイソクしてますけど、そういうトクシュノウリョクのもちぬしだったんでしょう」

「まあ、流石にそうですよね〜!」


 なんか普通に幼児と話で盛り上がってしまってるな。

 ま、俺も幼女だし、楽しいからいっか。


「それとですねー、もうおきづきかもしれませんけど、ハチページのー」

「伏線ですよねっ! まさかこんなところに仕掛けられてるとは──」


 と、そんな感じで。

 到着するまでケアフの頭を撫でながら勇者の冒険譚に花を咲かせていたオレ達だった。


「──おっ、もうついたんだなっ! エンドリィのひざ、ここちよかったぞっ!」

「あはは、痛くなかったならよかったよ」

「それじゃ、三人とも、気をつけて行って来な!」

「ツギはもうすこしやさしく……いえ、ありがとうございましたっ!」

「「ありがとうございましたー!!」」


 御者のおじさんにお礼を言って馬車を降りる。

 そこには想像通りの都会があった。

 デッケー建物。その壁面に映るヴィジョン……これは魔道具と言って魔法の力が込められた板らしい。

 まあ、オレのいた世界でいうテレビだな。村にはオンボロの一つしかなかったから圧巻だ。

 ……ちなみに映る内容は国が魔法を使って飛ばしているニュース番組がメインだ。


「改めて、自分の目で見ると凄い……!」

「にゃははっ、そうだなっ! ここがきょうからみゃーたちがすむところか!」

「まあ、ボクはナンカイもきたことありますけどね? ……せっかくだしアンナイしてあげますよ。エンドリィ。ついでにそこのも」

「にゃあああっ! せめてなまえでよべ!!」


 オレ自身はカインとそこそこ仲良くなれたと思うが、ここの溝は深そうだ。


「……わあ、ここが王様の住んでいるお城ですか!」


 王都内の中心に聳え立つ大きな大きな城。なるほど、立派だ。中に街が立ちそうなほど……。


「ははっ、サイショはカンチガイしちゃいますよね。ここが、ボクたちがかよう……というかすむガッコウですよ!」

「えっ、えええぇぇ!?」


 たしかに城みたいな建物とは聞いていたけど!

 こんなどデカい城とは思わないじゃん!

 すんごい城だよ! THE城だよ!


「じゃ、じゃあ王様の住むお城は……!?」

「もっとオクのほうにあります。イロイロなショウチョウがはいっていて、このタテモノとおなじくらいおおきいんですよっ!」

「ほぇー……!」

「はにゃ〜……!」


 流石は王都だ。スケールが違う……!


「……さ、とりあえずニュウリョウのテツヅキをすませちゃいましょう。といっても、はいってショウタイジョウとカオをみせるだけだときいていますが!」

「はーい!」

「りょーのごはん、たのしみだなぁ! なっ、エンドリィ! あとついでにそこの!」

「それじゃ、いきましょっか!」

「っておーいっ! なんかつっこめ〜!」


 ケアフの仕返しを華麗にスルーするカインに苦笑いしながら、オレ達は城の中へと入っていくのであった。

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