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第49話 進学式

「──それでは、王都学校、本年度の進学式をこれにて終了いたします」


 時は四月の二日。

 ランブルロックの定番のクソ長い話を拝聴し、壇上に上がる代表生をボーッと見る時間は終わった……いや、オレも代表生だったんだけど、それはさておき。



「──貴様らも二年生になった。誰一人欠ける事なく学年を上がることができて小職は嬉しいぞ。では早速、気になっている者もいるようなので、編入生を紹介する。『ストレンス・C・ウーパー』、前へ」


 最後列のストレンスが立ち上がり、教壇に立つ。


「知っての通り、彼は勇者の曾孫だ。今までは身分を隠し奴隷として暮らしていたため、十一歳だが二年生として編入する運びとなった……さあ、挨拶を」

「ご紹介に預かった『ストレンス・C・ウーパー』だ。二年生からの編入でお互い慣れねぇところもあると思うが、気楽にやっていこうぜッ! あと、力仕事も任せてくれよな。身体が鈍っちまって仕方ねぇんだッ! よろしくなぁッ!」


 腕を曲げて力こぶの部分を制服の上から叩くストレンス。

 奴隷の頃と違って、印象が良い挨拶だ。本来の彼はこうなんだろう。



「──いやぁ、久しぶりの学校、マジで緊張したぜぇ!」


 ホームルームが終わった直後の教室。

 自然といつもの面子が寄ってきて。


「そうは見えませんでしたけど? 良い挨拶だったじゃないですか」

「はははっ、滑ってないみたいでよかったぜ」

「にゃーっ! みゃーのかばんもいっしょにもってかえってーストレンスー」

「力仕事ってそういうのじゃねーし、軽ぃし」


 ケアフの鞄を軽々と持ち上げるストレンス。いらんものをだいぶ詰め込んでるので他の生徒に比べたら重いと思うが……まあ、二年生の鞄の重さなんて高が知れているか。


「ソレはザツヨウっていうんですよケアフ。ジブンのものはジブンでもたないと!」

「はーい……」

「オーホッホッホッホッホッ! 寮暮らしは慣れたかしら、ストレンス!」

「おぅ! 奴隷の頃に比べたらマジで天国だぜッ! お湯に浸かれてベッドもフカフカ! 他の奴隷たちもよぉ、そんな生活が出来たらいいんだけどなぁ」

「完全に寮のソレと一緒、というのは少し難しいかもしれないですけど、エイバーさんが内務省のトップになったことで、待遇は徐々に良くなっていくと思います。いつかはそんな暮らしも出来るといいですね」

「おうッ、そうだなッ!」


 そうなると奴隷という言葉が示す意味も変わってきそうだ。

 ちなみに、エイバーさんの秘書はAランクに上がった息子さん、つまりストレンスの祖父で……ボディガードは浮浪者としてエイバーさんを問い詰めていたあの警備員らしい。

 時折身分証を見せて揶揄っていると話していた……お茶目なのか根に持つタイプなのか。多分両方だな。そもそもボディガードいらないだろ。


「ストレンスはまだいらっしゃいます?」


 エストとセツナが教室へと入ってくる。


「おう、居るぜー!」

「エストさん! Aランクに昇級、おめでとうございますッ! セツナさんもAランクに上がっておめでたいですね!」

「ありがとうございます、エンドリィ様。貴女様のご助言のおかげです」

「うふふっ! ありがとうッ! これでまたお父様達に追いつきましたわね! 次はSランクを目指しますわよ〜!」


 Sランク、遥かな高みだ。

 いや、『ユアーレディーゴー!』は強力な能力だから、それだけでSランクは見えるかもしれないが……アレはオレのものじゃないからな。

……そう、元々はこの身体だって。


「……エンドリィ?」

「……え?」

「浮かない顔をしていますけれど、大丈夫ですの?」

「……ですね、サイキンのエンドリィ、ちょっとゲンキないです」

「にゃ! だいじょうぶかエンドリィ?」

「あんなことがあったんだもの。簡単には元気になれないわよね……何かあったら言うのよ、エンドリィ?」


 みんなの視線が集まる。

 けれどこれは、オレとエンドリィの問題だから……。


「ええ、大丈夫です!」


 こう言うしかない。

 そもそもみんなにとって信じられる話じゃないし。


「そうか? ユーティフルも言ってるけどよぉ、何か悩んでんなら遠慮なく言えよな……で、俺になんか用かぁエスト?」

「今から少し稽古しませんこと? エイバーさんはまだしばらく手が開かないようですし」


 稽古というのは、魔法の……ではなく、武器を使ったものである。エストは槍、ストレンスは拳、それとセツナが剣を用いてエイバーさんに弟子入りしているのだと。

 まだ本格的な指導は殆ど始まっていないらしいが、そもそも、『もう弟子は取らない』とか言ってなかったか? ……ちなみに、俺もエイバーさんから誘われているんだよな。

 ……何事も経験だ、と言いたいところだが、武器を使った訓練ということは、この身体が傷つく可能性も高まるだろう。

 オレは……。


「あー、わりぃな、今日はみんなでカフェに行く予定なんだッ! 俺、一回行ったことがあるかどうかだからよぉ、楽しみで楽しみでさぁ!」

「あら、そうなのっ! それなら……ワタクシ達もお邪魔していいかしら?」

「にゃっ! 『けいこ』はいいのか!?」

「まあ、ワタクシとこの子はやろうと思えば夜にも家で出来ますからっ!」

「そういうことなら、ことわるリユウはありませんよねっ!」

「オーッホッホッホッホッホッ! それじゃ、そろそろ行きましょっか!」


 みんなが教室を出ていく。


「……おっ、そうだッ! エンドリィ、ほらよっ!」


 オレも置いてかれないようにしようと立ち上がると、最後に残ったストレンスからハンカチを差し出される。


「……あっ、すごい! 綺麗になってる!」

「おう、何回も洗ったからなッ! ……あの時は立場上言えなかったけどよ! ハンカチを貸してくれてありがとうなぁッ!」

「ふふっ、どういたしまして!」


 晴れやかな笑顔を見せるストレンス。

 ……本当に、見ることができてよかった。


「エンドリィ! ストレンス! 遅いわよ〜ッ! このままだと置いていっちゃうんだからッ!」

「わっ」

「おわっ」


 ユーティフルがわざわざ教室に戻ってきてオレたちの手を引く。

 なんだか、青春だな。

 そう思うと、つい笑みが漏れる。


「……ふふっ!」

「ははっ!」

「ちょっと、なによ〜っ! 何か面白いことでもあったの〜!? ワタシにも教えなさいよ〜!」


 ……きっと、オレは今年度も楽しく過ごせることだろう。

 でも、あの子は……?

次回、第一部最終話となります。

また、明日から一日一話更新(7:10更新)に切り替えさせていただきます。

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