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第48話 平和な日常へ

「──あっ! エンドリィッ!!」


 王都に入って馬車を降りるなり、オレはユーティフルに抱きつかれた。


「……ごめんなさい。心配、しましたよね」

「当たり前よッ! あぁ、ワタシがいたらゼションなんてイチコロだったのに!」


 ゼション、下限が無ければオレの友達に対して好感度がマイナス五億くらいいってそうだもんな。心拍数三百億とかになって即死しそう。


「駄目ですよ、ユーティフルさんの身に何かある可能性が高かったんですから……」


 目が合えば、というトリガーを知っていればアイツなら難なくユーティフルを殺せるだろう。


「ワタシが誰かに心配されるのと同じくらい、アナタも心配されなきゃダメなのっ!」

「あはは……」


 ユーティフルがぷっくりと頬を膨らませる。

 Sランクの娘とFランクを比べてはいけない。それに、オレは十分過ぎるほど心配してもらったし、協力もしてもらえた。


「あいかわらずエンドリィにベタベタしてますね、ユーティフルさんは」

「なによっ! 悪いっ!? というか、ベタベタって言い方やめてよねっ! 可愛くないッ!」

「はいはい……」

「カインさんッ! 協力してくれてありがとうございました!」


 前まではユーティフルの剣幕に圧倒されてたカインだったが、今では慣れたものでクールな対応をしている。


「ユウジンのためならおやすいゴヨウですよ! それにコンカイ、エンドリィをのぞくボクたちのなかでイチバンカラダをはったのはケアフですから!」

「にゃっ! みゃーがんばったぞ〜!」

「うんっ! 本当にありがとうっ! ケアフちゃん! でも、部屋にまで入ってこなくてよかったんだよ?」


 下手したら死んでいるところだっただろう。

 本当に、本当に無事で良かった。


「ええ、ボクもキモをひやしましたよ……」

「にゃっ! だって、エンドリィ、いたそうだったから……!」

「あっはは。うん、たしかに痛かったけど……ケアフちゃんの身に何か起こることの方が嫌だからね?」

「はーい……」

「……でも、そうやって頑張ってくれるところも好きだよ!」


 オレはケアフの頭を撫でる。


「にゃ〜! えへへ〜っ!」


 喉をゴロゴロと鳴らすケアフ。可愛いね。


「……!」


 ユーティフルのオレを抱きしめる力が強まる。


「ワタシは〜?」

「……へ?」

「ねぇワーターシーはー?」

「もちろん好きに決まってるじゃないですか」

「ふふーん、そうよね〜? そーうーよーね〜っ!」


 ゼから始まるアレを経験したばかりだからか、若干重いものを感じる。

 ……まあ、まだ子供だから可愛いもんだ。

 大人になる頃にはこういうムーブも減ってくるだろう。頭撫でとこ。


「まあまあ! 仲睦まじいですわねっ」

「わははっ、仲良きことは良いことだッ!」

「そうだなぁ、ひいじーちゃん!」


「にゃっ!? エストにエンドリィのともだちのおじいちゃんに……どれいっ!? どういうことだっ!?」

「話すと長くなるし、きっと驚くと思うけど……」

「あッ! おいッ、ストレンスーッ!」

「ストレンスーッ!」


 奴隷監視員とストレンスの祖父がやってくる。


「お前どこほっつきやがって……って、お嬢ちゃんは──」

「ああっ、お嬢ちゃんッ! 大丈夫だったかいッ! ほら、やっぱりこの子の事が心配で抜け出してしまったんですよッ!」


 オレの顔を見て、奴隷監視員とストレンスの祖父が目を合わせる。


「はぁ、どうやら、そのようだな……なあ、お前が行ったところで何の役に立──」

「おぉっ、アベルーッ! 会いたかったぞぉーッ!!」

「わっ!? お、お爺さん、どちら様ですか!? 私はアベルという名ではなく、アトレスという名前でして……!」

「にゃっ!? なにがなんだか……!」

「……儂から都民へ説明しよう」


 状況がカオスになっていく中、ランブルロックが馬車から現れる。


「あっ、ランブルロックこうちょうせんせー!

「カイン、『ヴィジョンハイジャック』で儂を視界に入れてくれるかの?」

「えっ? あっ、はいッ! うつしますよ〜!」

「えー、儂じゃ。王都学校、校長のランブルロックじゃ。今日は都民の皆に伝えておきたいことがあり、しばらくヴィジョンを乗っ取らせていただいた」


 いつもならピースくらいしそうな彼だが、今日は至って真面目に話し始める。


「本日正午辺りのヴィジョンの映像……王都学校の生徒が『ゼション・S・オブトーカー』に暴行されるものが流れて心配している者もおったじゃろう。その件については、無事解決した」


 街中のヴィジョンを見ている都民がオレに気づいてめちゃくちゃ見てくる。

 ……ちなみにユーティフルはまだ離れてくれていない。無敵か? この子。


「……が、その道のりは険しかった。我々教員と、騎士団員が束になっても『最強』と言われる彼には叶わなかった」


 ここまでは事実だ。そしてここから……。


「幾人が彼の凶弾に倒れていったそのとき、二人の救世主が現れたのじゃ」


 オレの活躍は端折られるわけだ。まあ、能力が能力故にそう簡単に明かせないわけだが……ゼション邸前でも箝口令が出たし。


「一人は、誰もが存じておるであろう魔王討伐者、勇者『エイバー・SS・ウーパー』!」

「えっ!」


 手でエイバーさんを指すランブルロック。

 思わず声が漏れたカインが口を手で覆い隠しながら目線をエイバーさんに移す。

 エイバーさんは息子を抱きしめるのを既にやめており、キリッとした表情でカインを見る。

 ……このユーティフルって子とは大違いだ。


「そしてもう一人、訳あってその存在が秘匿されていた、勇者の曽孫『ストレンス・G』ッ!」

「えぇっ!?」

「なッ!?」


 再びカインが口を手で覆いながら視線をストレンスに移す。

 彼は気をつけの姿勢でピシッと立っており、真顔でカインを見つめていた。

 ストレンスの祖父と奴隷監視員も驚愕の声を上げ、都内が騒めき出す。


「Gというランクの通り、彼は奴隷……として数年間身分を隠してこの都内で生活をしていた。それは、この国の現状を伺うためであり、都民たちを見定めていたのじゃ」

「えっ……」


 ストレンスの祖父が困惑の声を上げる。そりゃそうだろうな。デタラメなんだから。

 ちなみに、こういった説明をするってランブルロックが言った時にエイバーさんはバチバチにキレていた。クソほど怖かった……が、エストとオレとストレンスの三人でなんとか説得したワケだ。


「『最強のSランク』である『ゼション・S・オブトーカー』は罪人の身に堕ちた。内務省トップ不在という事態になってしまった……だが、都民よ、勇者が『呪い』を克服し、この国に帰ってきたッ! 伝説が帰ってきたのじゃ!」


 歓声が上がると共に周囲に人だかりができる。

 ……ユーティフルさん? ユーティフルさーん!

 ……ちなみに、この『呪い』という噂を使うことに対してもエイバーさんはバチバチにキレていたし以下省略だし。


「三日後、帰還した彼を内務省のトップに就任させるかの投票を行う。都民の皆は参加するように。それではな……!」

「……はっ、はぁーーーー! ま、まさかおじいさんが勇者様だなんて!」


 役目を果たしたカインが大きく息を吐く。


「わははっ、驚いたか!?」


 ニカッとカインに笑いかけるエイバーさん。周囲に人が群がっている事に気づくと、彼は見回すように大きく手を振った。

 驚いたと言えばユーティフルの吸引力の落ちなさもそうなんだが……まあ、いいや。嫌でもないしこのまま大人しくしとこ。

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