第45話 『ユアーレディーゴー!』
「どういうことだ!? 何故、エンドリィが『真全属性混合魔法』を撃っているッ!?」
「これはいったい……!? しかし、今が好機に違いな──」
「させるかッ! レディー!」
……『極大重力魔法』が来るな。
……『ユアーレディーゴー!』第一の能力!
他者が魔法を宣言した瞬間にその名前を知ることができる!
「『極大重力魔法』ッ! ……ぐ、ううぅぅぅぅぅぅぅッ!!」
オレは左腕を振り下ろす。
ゼションは『重力魔法』で押しつぶされるように地に膝をつく。
……『ユアーレディーゴー!』第二の能力!
他者が宣言した魔法を、ワンランク下級の魔法として宣言無しで発動できるッ!
「これはまるで……いいや、考えている場合ではないッ! 前列、合わせるぞッ! 三、二、一ッ!」
「レディー、『極大土光混合魔法』ッ!」
「レディー、『極大火属性魔法』ッ!」
「レディー、『極大無混合魔法』ッ!」
「レディー、『極大風水混合魔法』ッ!」
「レディー! ──ッ!」
先ほどと同じように五方向から『全属性混合魔法』がゼションへと飛んでいくッ!
……次はきっと『防護魔法』を発動するだろうが、それは見逃して──。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ! レディーーッ!!」
……『極大上昇魔法』ッ!? コレをオレが発動してしまえば勝ちは決まるだろうが、ゼションは確実に消滅する!
「『極大上昇魔法』ッ!」
ゼションは浮き上がり、ギリギリのところで『全属性混合魔法』を回避する。
……ゼション邸はもう完全に破壊されてしまったが、彼は今更気にしないだろう。
「レディー『極大重力魔法』ッ!」
「ぐ……!」
オレ以外の全員が三度重力に襲われる。
今のは不意を突かれて能力を発動できなかった……それに。
「……エンドリィ、わかったよ、その能力!」
ゼションが声高らかに叫ぶ。
「『他者が宣言した魔法を一つ下のランクで放てる』ッ! ……僕がくらった『重力魔法』を『極大上昇魔法』が上回った事がその証拠だッ!」
「……」
返事はしない。が、当然のように能力がバレている。
「レディー……」
……『極小火光混合魔法』!?
オレは右腕を掴んで走り出す!
「『極小火光混合魔法』ッ!」
「……ッ!」
間一髪のところで躱したが……!
「なるほど! 『魔法名検知』と同じ……つまり、『魔法発動前にその魔法の名称がわかる』んだねッ! それじゃあさっき僕が『極大上昇魔法』を使ったときは見逃してくれたんだッ! エンドリィは優しいなぁッ!」
「貴方なんかでこの手を汚したくなかっただけですッ!」
そう、この身体は借り物だ。汚してなるものか。
「ははっ、そうかい! それと、さっきのあの反応を見るに……その能力、『極小級』魔法は下のランクがないから自分のものにできないんだね!」
「……どうでしょうねッ!」
その通りである。流石の推察力と言うべきか。
「……ああ、そっか。三回目の『重力魔法』を見逃してくれたことにも理由があるのかもしれないね! 『相手の宣言を奪る前に魔法を発動される可能性がある』、それと、『消費魔力』だッ!」
……痛いところを突かれた。
「君の魔力量が『極大真全属性魔法』を発動できるほどだとは考えにくいから、消費魔力もワンランク落とした量になっているッ! ただ君の幼い身体の魔力量を考えれば、大級魔法を数十発も撃つのは厳しいだろうッ!」
「……ッ!」
オレの魔力量は鍛錬の成果もあってか一年生としては破格の大級魔法二十発分だ。
しかし、『重力魔法』も何らかの混合魔法だと考えると、もう半分くらいしか使えないだろう。
「僕の状況は絶望的だけど、君の魔力を尽かせる行動を取ればいいわけだッ! レディー!」
まずい、『極大火光混合魔法』がくるッ!
オレは……能力を発動するッ!
「……うん、返してきたか。そうだよね。まともに受けてられないもんね。レディー!」
次は『極大上昇魔法』かッ!
回避はさせないッ!
オレは宙を飛んだ……が。
「レディー『極大水属性魔法』! ぐ、うぅ……ッ! これも返してきたかッ!」
大級の火光属性魔法と水属性魔法の衝撃程度ではゼションはまだ倒れてくれないようだ。オレが着ている制服のように、何か耐性がある装備をして……そうか。あの工房で特殊なコートを依頼していたんだったか。
……ゼションが闇族性魔法を唱えなかったということは、『重力魔法』は闇属性と何かの混合魔法である可能性が高い。人を即死させない闇属性魔法もあるんだな? いや、ブラフの可能性もあるな。
「貴方も『重力魔法』の持続には相当の魔力を使い続けているんじゃないですか!?」
「ふふ……どうだろうねッ! 僕は天才だからさァ!」
これについてはブラフかどうかわからないな。魔力量も既に馬鹿げている気がするが、それ以上の化け物の可能性もある。
しかし、どうする? これ以上の能力使用は『極大真全属性混合魔法』を返せない可能性があるぞ……!
「こ、これ以上は……!」
ここは魔力が尽きたようなブラフを仕掛けよう。掛かってくれるといいが……ッ!
「ふふ……!」
「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉッ!」
「な、なんだッ!?」
「……ッ!」
……『重力魔法』で地に膝をついている人々の間を通ってこちらに走ってくる一人の男。
「……は? おいおい、重力魔法の範囲内だぞ?」
「す、ストレンスさん!?」
まさか彼がやって来てくれるとは! という感動の前にゼションと同じ疑問を抱く。たしかに重力魔法の範囲内に入ったのに……!
「レディー……」
「返しますよッ!」
「……ッ!」
「オラアアアアアアアアッ!!」
ブラフだ。だが、ゼションの判断を遅らせることができ……ストレンスの拳が彼の顔面に当たる。
ボゴンッ! と重い音がし、ゼションが吹っ飛ぶ。
「来てくれたんですね!」
「ハンカチ返す前に死なれちゃ夢見が悪ぃだ……って、おいッ! エンドリィお前ッ! 右腕ッ! 大丈夫かよッ!?」
「ふふっ」
「いや、笑ってる場合かよッ!」
驚愕の表情を浮かべるストレンスに思わず笑いが漏れる。
……うん、何とかなりそうだ!