第44話 自己犠牲
「エンドリィ! いけませんわッ!」
「五月蝿いなぁ。レディー『キーログラヴィティ』!」
「あっ!?」
「な……っ!?」
エストがオレの名を呼ぶ……が、彼女らに『重力』が襲い、全員地に膝をつく。これも聞いたことがない魔法だ。
……コイツの奥の手は何個あるんだ?
「ゼションさん!」
「大丈夫、もう殺しはしないよ。良い子だね、エンドリィ」
ゼションがオレの頭を撫でる。気持ち悪くて気持ち悪くて仕方がない、が。
ここで抵抗しても無駄だろう。
「やるなら闇属性魔法で一思いにやってください」
「ふふ、そっか。でもかなり手こずらされたから、君は『真全属性混合魔法』で殺すね」
「……ッ!」
……いやだ。逃げたい。あんな風に死にたくない!
でも、あんな風に死にたい人間なんているはずなくて。
それでも、オレを護りに来たから死んでしまった。
「ああ、でも、前世みたく妬みだけじゃないよ。『真全属性混合魔法』で殺したら君は砂になるだろう? ソレを吸って死ねるなんてロマンチックじゃないか! 僕たちは一つとなるッ!!」
ゼションが恍惚とした表情を浮かべる。本当に気色の悪いやつだ。
「……ッ! いいから、早く!」
「心臓を狙ったら即死しちゃうから……うんっ、今度も右肩を狙おう!」
「……っ!」
全身が震える。怖くて怖くて仕方がない。
「……ッ! エンド、リィ!」
「エンド、リィ!」
「エンドリィ、F……リガール!」
みんながオレの名前を呼ぶ。
やめてくれ。そんなことをされたら、まだ生きたいと……思ってしまう!
「それじゃ、さよなら、また会おう。レディー『小真全属性混合魔法』!」
「……ッ!」
漆黒が迫る。
オレの肩を穿つほどの大きさであるが、きっと闇属性魔法と同じく掠ったら死ぬのだろう。
……死にたくない、が、これを避けてしまったらきっとみんなが殺されてしまう!
「……!」
……パキ、と何かが割れる音が微かにした。
漆黒はオレの肩に当たる直前に虹色の光に変わり。
「うっ……!」
オレは後方に吹っ飛ばされる。
「ぐ、ううぅぅぅぅぅッ!!」
また右腕が吹っ飛ばれる感覚があった。
ブシャ、と血が溢れ出る音が聞こえた。
けれど、それは考えてみれば……。
オレが、生きてるってことで。
「な、なぜだ……!? はッ!」
「前列は小職にタイミングを合わせてくれッ! 三、二、一ッ!」
「レディー、『極大光属性魔法』ッ!」
「レディー、『極大火土魔法』ッ!」
「レディー、『極大風無混合魔法』ッ!」
「レディー、『極大水属性魔法』ッ!」
「レディー! ──ッ!」
五つの方向から極大級の『全属性混合魔法』が発射される。
その隙にオレは右腕を拾って魔法が当たらない場所へと移動する。
「レディー『キーロプロテクション』ッ!」
ゼションは防護魔法と思われるものを発動し、攻撃を防ごうとする……が!
「ぐ……ッ! うおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!」
そのダメージに耐えきれず、防護魔法が破壊されてゼションが吹っ飛ぶッ!!
「前列は後方へ移動ッ! 中列ッ! 合わせるぞッ! 三、二──」
「は、ぁ……! レディー! 『キーログラビティ』ッ!!」
「……ぐ、うぅッ!」
再び、ゼションの重力魔法が発動され、オレ以外の全員が地に膝をつく。
「そんなに死にたきゃァッ!」
ゼションが叫ぶ。
マズい、これは大技……下手すれば極大級の『真全属性混合魔法』がみんなにッ!!
「殺してやるよォッ!」
こんな状況だっていうのに、オレは二度にわたる大量出血のせいで意識が朦朧としている。
……まだだッ! オレはまだッ!!
「レ──」
『……ねぇ、みんなをたすけたい?』
やけに時の経過がゆっくりに感じて。
……え? なんだこの声? やけに聴き慣れた、それにしては違和感があるような、声。
……もちろん、助けたいに決まっているだろッ!
『それじゃあ、ちからをかしてあげるねっ! おにいちゃまっ!』
力を貸す? おにいちゃま?
『“わたし”のとくしゅのうりょくはね──』
そうか、この声……もしかして。
もしかして、キミはッ!
「ディー──」
……今なら、ゼションに対抗できるッ!
「『極大真全属性混合魔法』……あ? 何故、発動しな──なァッ!?」
オレは既に左手を上に掲げていて……
漆黒の光が天へと発射されていた。
「……はっ! ハァ、ハァッ!!」
コレが、オレの……。
いや、『エンドリィ・F・リガール』の『特殊能力』ッ!
その名も、『ユアーレディーゴー!』ッ!