第41話 思惑
「──ご紹介に預かりました、ゼション・S・オブトーカーです。皆さん、ご卒業おめでとうございます。これから皆さんの進路は分かれていくかと思いますが、役職は違えど友は友。今後もその尊い友情を大切にしてください……」
壇上のゼションが教頭先生に目線を運ぶ。
教頭先生は腕で丸を作っていた。
……今日は三月十一日。卒業式だ。
といっても、もちろんオレたちが卒業するわけではなく、学年代表として式に参加している。
「はぁ……」
ゼションがため息をついて席に戻る。
その様子を見て会場から黄色い声が上がる。なんでだよ。
……アイツ、今回は瞬間移動魔法を使わなかったな。
「──以上をもちまして、今年度の卒業式を終了いたします」
オレたちは拍手を送った後、順番に退出する。
「……まさか『ゼション・S・オブトーカー』が入学式に続き卒業式まで参加するとはな」
「あの人、そういうの嫌いそうですもんね……意外なのはわかります」
オレたちと一緒に歩くナウンスが呟く。
それでも何故参加するのか、今なら理由がわかる。
「卒業……ワタクシも三年後には送られる側になりますのね」
「ええ、その日を誇れるように共に研鑽いたしましょう、お嬢様」
「ええっ! アナタも極大級魔法を習得しましたし、負けていられませんわっ!」
エストとセツナが将来を見据えて頷く。
……セツナが無事に極大級魔法を習得できた日にもう一度恭しく礼をされたことを思い出してくすぐったい気持ちになる。
「ねぇ、エンドリィ、この後時間ある? よかったらこの後カフェに……」
ユーティフルがオレに提案した……。
瞬間、空気が揺らぐ。
「やあ、エンドリィ」
「『ゼション・S・オブトーカー』!? なぜ……」
ナウンスの疑問に、ゼションが口元に人差し指を立てる。
「今日は時間があるんだ。いきなりで悪いけれど、食事でもどうかな?」
「えっ、本当にいきなりですね……えーっと」
オレはユーティフルを見る。
「…………いいんじゃない? 行ってきなさいよ。またとない機会なんだから」
若干不機嫌になったユーティフルに促される。彼女には悪いが……。
「じゃあ、是非!」
「ふふ、そっか。それじゃあ、失礼……『極大瞬間移動魔法』ッ!」
オレはゼションに抱き寄せられて……。
気づけばゼション邸の前にいた。
「おかえりなさいませ、ゼション様……エンドリィ様もいらっしゃいませ」
既に門前に立っていた老婆に迎え入れられる。
「食事の用意を二人分頼むよ。今回はコースじゃなくていい。いっぺんに出してくれ」
「ええ、かしこまりました。それでは、食事ができたらお呼びしますので」
「……さて、僕の部屋で待っていようか」
「はいっ」
……ゼションに手を引かれ、三階へと上がる。
「ここが僕の部屋だ。さあ、どうぞ入って」
階段を上がりきってグルリと回って辿り着いた扉をゼションが開く……一番歩数がかかるようなところを自室にしたんだな。
「失礼します……!」
いやに緊張してきた……このイケメンと密室で二人きりか。
「はは、そんなこわばらなくていいよ。何も怖いことなんてないんだから……」
ゼションの部屋は、これもう書斎だろってレベルであらゆる壁が本棚で埋め尽くされていて。そこに申し訳程度にベッドが置いてあった。
カーテンは閉まっているが、日中だからか問題ない明るさだ。
「あっはは、そうですよね!」
「……本当に休みが取れてよかったよ。こういう祝い事に出席したときは余程のことがなければついでに休みが取れる。悪く言えば卒業式を利用してしまったことになるけれど」
「あははっ、気にしてますー?」
「ふっ……いや、してないよ。僕にとってはどうでもいいことだからね」
まあ、入学式や今日の卒業式の様子を見てもわかる。『あ、ちょうどいいや』くらいにしか思っていないだろう。
「……でも、いいんですか? せっかくの休みを私に割いちゃって」
「いいさ。君にならいくらでも時間を割こう。僕はエンドリィとなら分かり合えると思っているんだ」
「分かり合えるって……?」
「天才故の感性っていうのかな……まあ、君が友達を作っていることに対しては分かり合えないけれど」
ゼションが大袈裟に首を横に振る。
「あはは……私はゼションさん程の天才ではありませんから、友達を作らないとやっていけないだけですよ」
「ん、そっか……それにしても、この一年で立派に育ったようだね」
「ふふっ、少しは一人前のレディーに近づけたと思いますっ!」
オレは胸に手を当ててドヤ顔をする。
「そうかいそうかい。君の成長が本当に楽しみだよ」
「あはは、その期待は重いですけど……」
「そんなことないさ、君はきっと、僕の期待に応えてくれる」
「……他のSランクの人はどうなんです? 分かり合えるといった意味では、同じランクの人と話すとか」
「だめだね。同じSランクと言えども天と地ほどの差がある」
人差し指を上下に動かすゼション。
「だめ、ですか」
「ああ、特にランブルロックとは分かり合えなくてね。あんな奴が校長の学校に通うことが心底嫌だったよ」
「あはは、そんなにですか」
「頭が硬いんだ、アイツは……四属性しか極大魔法を使えないくせに、どこか蔑んだ目で見てくる」
「流石に……被害妄想じゃないですか?」
ランブルロックには面白おかしくて優しいおじいちゃんという印象しかないので、ソレは少し意外だった。
それに、四属性『しか』極大魔法を使えないんじゃなくて『も』使えるんだよ。お前が特殊なだけで。
「ふっ、君もあの目を見たら同じことが言えなくなるよ……」
「でも、それを聞くとより一層期待が重く感じてきました……」
「ふふふっ、君は何もせずとも僕の期待に応えてくれるよ……」
「……私にはわからないんです。どうしてアナタがそんなに重い感情を抱いているのか」
「……」
「ねえ、『シー』さん……! 『中風属性拡散魔法』ッ!」
「……ッ!」
会話の途中に宣言しておいた魔法を放つ。
窓にゼションが叩きつけられ、広がる風でカーテンが開く。
……さあ、開戦といこうか。




