第39話 食事会
「──ま、まさかゼション様がエンドリィの親戚だなんて!」
「たしかに、カレもサイショはEランクだったときいていますが……!」
「驚きましたわ……!」
「にゃー! おいしいものたべられるかなーっ!」
ゼション邸の前でケアフを除いた三人が驚きの声を上げる。
ゼション邸……Sランクとしては珍しく、都内ではなく王都から馬車で十五分かかる場所にある建物。
『極大瞬間移動魔法』を使えば王都にも海にもいける立地なので、瞬間移動魔法の使い手であれば良いところだと言えるだろう。
建物自体はクトレス家のようにバカデカくはなく、エスト家より少し大きいくらいの三階建てだ……いや、独身なのにそんなにスペースいるか?
「……いらっしゃいませ、エンドリィ様。御友人の方々。ゼション様がお待ちです」
オレたちを迎えたのは老年の女性だった。一つ一つの動作に品がある彼女の後をついていき、家へと入る。
「御客人なんて久しぶりですよ。婆はそれが嬉しゅうございます」
まあ、ゼションって友達居ないらしいからな。
ビジネス的な客がいてもおかしくはないと思うが……。
「さあ、ゼション様は二階でお待ちです」
しっかりとした足取りで老婆は中央階段を上がっていく。
「さあ、此方の部屋でございます」
階段を上がってすぐの大扉を開くと、正面にゼションが座っているのが見えた。
「やあ、いらっしゃい、エンドリィ。好きなところにかけるといい」
「こんにちは、ゼションさん」
オレはお辞儀をして奥の席……ゼションから見て左の席に座った。
「エンドリィの友人たちも、さあ」
「し、シツレイします……!」
「にゃ! し、しつれいしまーす」
ユーティフルは優雅にお辞儀をしてオレの隣へ。
エストは俺の正面……ゼションから見て右の席に座った。
ガチガチに緊張したケアフはエストの隣。
同じく緊張しているであろうカインはユーティフルの隣に座る。
「……誰かを招くだなんて久しぶりだよ」
「あはは、無理言ってすみません」
「いや、いいさ。可愛いエンドリィの頼みだからね」
いつも通りの何事にも無関心そうな口調で『可愛い』とか言ってくるゼション。
ソレに対してエストが驚いた表情をする。まあ、冗談でも可愛いとか言わなそうだもんな。
「えへへ、ゼションさんの名前が無くてもこれだけ友達が作れましたよって、貴方に見せたくてっ」
「そうかいそうかい……君達、今回の食事会は他の誰にも話さないでくれよ? 僕の名前目当てでエンドリィに近づくような連中はお断りだからね」
「……」
ユーティフルがギュッとオレの制服の裾を摘む。
……何かあったのだろうか。
「皆様、お食事をお持ちいたしました」
若い使用人達が部屋に入ってきてオレたちの前に料理を置く。
透明で細長いガラス皿の上にローストポークとピクルス、白身魚のカルパッチョが乗っており、その横には小瓶に入った豆腐。最後に水の入ったグラスが置かれた。
「さあ、食べよう」
「……ん!」
この豆腐、まるでクリームチーズが少し混ぜられているような甘みがあるな。上にかかっているソースとキャビアの食感が良い味を出している。
「それ、美味しいよね。僕も気に入っているんだ」
豆腐と表現してみたが、もしかしたら似て異なる料理なのかもしれない。それにしても美味い。
「どれも美味しいですわ!」
ニコニコと笑みを浮かべるエスト。隣に座るケアフも緊張が解けたかのように舌鼓を打っている。
「……あ。ふふ、ユーティフルさん、ソースが口についていますよ」
隣を見るとユーティフルの口元が少々汚れていて。
ナプキンでソレを拭いとる。
「……ありがとう。エンドリィ」
ユーティフルの目が泳いだ後、ぎこちない笑みを浮かべる。
やはり様子がおかしい。
「……続きまして、スープとパンをお持ちいたしました。こちら、芋のポタージュとチーズ入り揚げパンになります」
「……そういえばエンドリィ、花咲の丘の件、驚いたよ。まさかまたエンシェントドラゴンが現れるなんてね」
笑顔を浮かべていたエストの表情が沈む……まあ、思うところはあるだろう。
「ゼションさんが倒したエンシェントドラゴンの子供だって言われていますよね。親を倒したときって、やっぱり複数人で?」
「いや、僕一人だったよ」
「えっ、どうやって倒したんですか!? アイツ、四属性の魔法を撃たないと倒せないじゃないですか」
「四属性混合魔法を撃っただけだよ」
「え……」
指を四つ立ててオレに見せるゼション。
……おさらいになるが、本来、混合魔法は三つが限界だと言われている。たまに、特殊能力で四つ以上撃てる人がいると聞くが、彼もそれに当てはまるのだろうか。
驚愕と共にポタージュを一口、二口と飲む……美味い。
「……続きまして、魚料理をお持ちいたしました。こちら、鰹のタタキになります」
「にゃーっ! カツオ! ……あっ!」
興奮したケアフの身体がテーブルに当たり、揺れる。その拍子にテーブルの際に置かれていたケアフのグラスが床へと落ちていく。
「レディー『極小上昇魔法』」
しかし、グラスは床につくことなく、テーブルへと舞い戻る。
恐ろしく早い反応だ。それに、『宣言』の動作が彼には存在しない。入学当初は何も思わなかったが、今となってはソレがどんなに凄いことなのか思い知る。
「にゃっ!? ……ご、ごめんなさいっ! ありがとうございます!」
「気にしないで」
手を立ててケアフの方に見せるゼション。
何事もなかったかのように鰹のタタキを口に含む。
「……これ、タタキっていうんだな! そとがわがやかれていて、おもしろいなっ、エンドリィ!」
「あはは、香ばしさもあって美味しいよ」
「うん、僕が一番好きな料理なんだよ」
「ああ、そうなんですねっ!」
──その後も料理は運ばれ、オレたちは最後のデザートまで舌鼓を打った。
「──さあ、食事会はこれで終わり。帰りの馬車の準備も万端だから、暗くならないうちに帰るといいよ」
「はーい!」
オレたちは席を立ち、扉へと向かう。
「エンドリィ、ちょっといいかい?」
「はい?」
「……次は二人で食事を楽しもう。やはり僕は大人数での食事が苦手みたいだ」
「……わかりました」
お辞儀をして部屋を出る。
「──また皆様とお会いできることをこの婆は願っております。それでは」
老婆に見送られオレたちを乗せた馬車は出発する。
「いやぁ、キチョウなタイケンができました! ありがとうございます! エンド……あれ? どうしたんですか、みなさん」
満足気な表情を浮かべるカインとは対照的に、オレたちのソレは沈んでいた。




