第37話 銀行強盗
「銀行って……結構待ちますよね」
「しかたありませんよ。ここはガッコウにイチバンちかいシテンですから」
「にゃ、みゃーはねむくなってきたぞ……」
番号札を持って座っていると、ケアフが眠そうな声を出しながら寄りかかってきた。可愛いね。
「……カインさんは本当にその本が好きですよね。私よりも熱狂的なファンなのは間違いないです」
「いやいや、エンドリィだってこのホンをアンキしているじゃないですか。どちらのホウがすごいとか、そんなのはありませんから」
なんて言いつつ嬉しそうな表情でカインは『勇者の物語』を読んでいる。
オレもたまには紙の本で読み直すかな。
「……魔法を切る女神エス様の剣、凄いですよね。そもそも、人間族で近接戦闘を仕掛けようとすること自体が凄いんですけど」
「ふふっ、そうですね!」
昔も今も、人間社会は魔法で戦うことが合理的だとされている。武器を取って闘うのは魔法が殆ど使えず筋力が突出して発達している巨人族くらいで。
前世のゲーム世界ならともかく、勇者が剣を持って戦っていたのは信じられない話だ。
「はぁ〜、メガミサマのツルギ……ヒトメみてみた──」
カインがうっとりとした表情を浮かべたその時。
「『闇属性魔法』!」
「え……?」
「「きゃあああああああああああぁぁッ!!」」
闇属性魔法の発動と共に受付に立っていた二人の女性が倒れる。
「ふー……」
周囲から聞こえる悲鳴にパニックになりそうになるが、深呼吸をして落ち着く。
闇属性魔法を発動した男と、その両隣に立っている男女。この三人が今のところ見えている『敵』だ。
いわゆる銀行強盗……この世界にもいるんだな。
「嘘でしょ!?」
「で、出られない……ッ!」
銀行の出入り口になだれ込む人々がパニックになる。
……何らかの特殊能力を使っている可能性が高いか。
腕に装着したヴィジョンで連絡を取りたいところだが、それで犯人を刺激するのは危険かもしれない。
「逃さねぇよ! テメェらをここで皆殺しにしてここの金庫を全部俺たちが奪ってくッ!」
強盗が高らかに宣言をする。めんどくさいタイプだが……。
「『絶対開錠』! 今です! 早く外の人に伝えてッ!」
「な……ッ!?」
ここは王都学校に一番近い支店だ。王城ほどでないにしろ、強力な特殊能力持ちがいる可能性が高い。
皆殺しを宣言したのも悪手だったな。それならみんな死にものぐるいで生き延びようとするに決まっている。
出入り口から人が逃げていき、強盗が地団駄を踏む。
「おいッ! テメェら! それ以上逃げたら殺すぞッ! レディー!」
「にゃ!」
「ケアフちゃん!」
ケアフが起きたかと思えば、再びオレの肩にもたれかかる……これは!
「ちょっとどうしたの! こっちに向けないでよ!」
闇属性魔法を宣言した男が振り返り、男女に手を向ける。
間違いない、ケアフの特殊能力、『アニマルポゼッション』だ。
「コイツまさか! 憑依されて……! おい! 押さえ込むぞッ! どうせ一般市民には闇属性魔法は撃てないッ!」
「……ッ!」
襲いかかる二人の男女の攻撃を避け、華麗に回し蹴りと手刀を喰らわせるケアフ。身体は変われど流石の運動神経だ。
「ぐ、ぅ……! バレたならどうせオレたち終わりなんだッ! どうせなら……ッ!」
「ちょ、ちょっと……! まさか!」
「うるせぇ! 死にたくねぇならテメェは逃げてろ! レディー!」
どうせなら、そう聞こえた瞬間に嫌な予感が過ぎる。
「ケアフちゃん! 解除して!」
カインと二人でケアフの身体を運びつつオレたちも出入り口に急ぐ。
……今、オレの脳裏には二つの最悪が過ぎっている。
一つはヤケになった男が闇属性魔法を乱射すること。
より最悪なもう一つは……。
この世界には闇属性魔法以外にも使ってはいけないと指定されている魔法が存在している。
それは、炎属性魔法の変化系の一つ。『自爆魔法』だ。
極小級なら発動者から周囲二メートル程を巻き込み爆発し、小級なら二十メートル、中級なら二百メートル、大級なら二キロメートル、極大級なら二十キロメートルと範囲が広がる。
自爆魔法は生涯で一度しか放てない魔法なので練習しようがないのだが、発動に成功すれば被害はこの銀行のみに済まない可能性もある。
「『大自爆魔法』! ……うっ!」
より最悪な方だった。
周囲の空気が急激に冷ややかになるのを感じる。
これは自爆者が周囲の熱を自身に集めるからと言われており……考えてる場合か!
とはいえ、走ってもどうにもならない距離なんだよなこれが!
「レディー『大水属性追跡魔法』」
オレ達がなんとか銀行から出た瞬間、膨大な量の水鉄砲が横を通っていく。
振り返ると、自爆魔法を発動した強盗へと命中しており……!
「レディー『極大土属性包囲魔法』」
続く魔法で強盗の周囲は土……いや、岩で囲まれており。
少しの間を置いて爆発音が聞こえた。
「……怪我はないかい?」
続く二回の魔法の発動者がオレたちの方を見る。
……ゼション・S・オブトーカー!
「は、はい……!」
「ヴィジョンを乗っ取って中の様子を伝えてくれたのは君だね? おかげで柔軟に対処できたよ。こういうケースは普通だと事が起きてからどうにかするしかないからね」
少し微笑みながらカインにそう言うゼション。
「こ、コウエイです……!」
カインがガチガチに緊張した様子で頭を下げる。
「……」
続いてゼションはオレを見て微笑んだ後、銀行の中へと入っていった。
「み、みましたかエンドリィ、ケアフ! ボク、あのゼションさんに『キミのおかげ』っていわれましたよ!」
「にゃ! それってすごいのか?」
「もちろんすごいですよ!」
興奮した様子でオレたちに語りかけるカインを見ていると、彼の凄さを実感する。
人が数人死んでいる事には思うところがあるが……。
まあ、今はとりあえず生存を喜ぶとしよう。




