第35話 前世と事件解決と奴隷
「──こ、この前占い師の人から『女難の相がある』とかい、言われたんですよ。あれは偽物ですね」
「あら、どうして?」
「いや、だ、だってオレ、こ、こんな感じですし、そもそも、モテませんから……」
「『ノリタマ』さんが知らないだけでモテまくっているのかもしれませんよー?」
「へ、変なこと言わないでくださいよ『シー』さん!」
「うふふっ、私は『ノリタマ』さんとこうやって話せて嬉しいですけどねー?」
ねー、と言いながら僅かに上体をこちらに倒すシーさん。動作がいちいち可愛い。
「そ、それとモテるのは話が違いますよー! お、お世辞でもそう言ってくれるのは、う、嬉しいですけど……」
「ふふ……あっ、そういえば、信頼ランク、上がりました?」
「まだですねー。も、もう少しだと思うんですけど……」
ゲームが定める信頼ランクが上がれば、自分が所有するアバターをアップロードできる、という仕組みらしい。
フレンドは原戸とシーさんの二人で、プレイ時間は二十時間にいっていないくらいなので、ネットの噂からすればそろそろランクが上がってもいいはずだ。
「うふふ、美少女になった『ノリタマ』さんを見るのも楽しみですねー」
「こ、声を変えるつもりはないので、へ変な感じがするかもしれないですけどね……」
「いやいや、VRの世界ならそんなの普通ですよ、ふ、つ、う!」
ふ、つ、う、と言うのに合わせて指を動かすシーさん。
「ま、まあ、たしかに……」
「『ノリタマ』さんが女の子になるなら私は男のアバターになってみようかなー?」
「な、なんでオレにあ合わせるんですか!?」
「ふふ、なんとなくっ、です」
「なんとなくって……あ、そ、そろそろオレ寝ますね。明日も仕事なんで」
「了解ですっ、それでは、またお会いしましょうね!」
ピシッと敬礼をした後に手を振るシーさん。
「ええ、またー」
「……はっ!」
……またVRトークの夢かよ! もういいよ!!
そう言いたくなったが、一つ思い出したことがあった。
オレ、この後VRトークにログインしてないや。
信頼ランクが上がったはいいものの、アバターのアップロードに手こずってもうどうでもよくなっちゃったんだよな。
またお会いしましょう、というのはきっと社交辞令だろうけれど、シーさんには悪いことをしてしまった。
まあ、あの人にも原戸と同じく友達が沢山居るだろうから、特に支障はないんだろうけれど。
「ん、うぅ……なぁに〜?」
オレが上体を起こしたことで手持ち無沙汰になったユーティフルが声をあげる。
「おっと……何でもないですよ〜」
ソッとユーティフルの頭を撫でる。
「……えへへ」
すると、オレの胴に抱きついてきて……。
……めちゃくちゃ可愛いな。
『わたしのほうがかわいいもん』という気持ちが湧かないでもないが、いや、流石に今のユーティフルの方が可愛い。
オレ、幼女でよかったよ。幼女じゃなかったら彼女が言ってたクソロリコン野郎になってたよ。
「……ふぅ」
……それにしても、立派なベッドだ。あの、なんかアレ、名前パッと出てこないけど、屋根がついてるタイプのやつ。
金持ちだからといって無駄にクソでかいわけではなく、大人が一人と半人分くらい余裕持って寝られるくらいのサイズだ。
……風呂はもう物凄く広かったけど。そこそこの銭湯みたいな寮の風呂なんて目じゃない。ウォータースライダーとかもあって、なんかもうそういう施設かと思った。
「……」
ユーティフルの両親の反応といえば……事件のことは大層驚いていたが、ソレと同じくらい彼女がFランクのオレを連れてきたことに驚いていて。
外注業者を誤ったミスだとして、オレは特に責められもせず、学校の話をした。
スー家の雰囲気が和気藹々で賑やかだとすれば、クトレス家は静かで穏やかなもので。
だからこそ初めは緊張したものの、慣れてしまえば居心地が良かった。
「……ん?」
寝直そうと思ったが、ユーティフルにガッツリホールドされたこの体勢じゃ眠れなくないか?
……まあ、いいか。しばらくこの可愛い幼女を撫でておこう。
「──オーッホッホッホッホ! おはようみんな!」
「おはようございまーす……!」
ユーティフルが『まだ居なさいよ!』と駄々を捏ねて二泊してしまったので、クトレス家から馬車に乗って登校することになった。
二人で一緒に登校してきたことについて、クラスのみんなは少し驚いた顔をしていたが、『まあ、そんなこともあるか』と瞬時に興味を無くしていた。
なんでだよ。
「エンドリィ! ユーティフルさん! ……ブジだということはしっていましたが、カオをみてあらためてアンシンしました!」
「にゃ! ぶじでなによりだ!」
「オジョウサマー! シンパイしましたー!」
「よかったですおじょうさまー!」
カインとケアフ、ユーティフルの取り巻きたちが駆け寄ってくる。
「オーッホッホッホッホ! あのくらいどうってことないわ〜! ねっ、エンドリィ?」
「あははっ、そうですねっ!」
嘘つけ、震えるほど怯えていただろ。
……まあ、そんな彼女の弱い部分を知っているのはクラスでオレだけだと考えると、悪い気はしないが。
「あっ、そうだ! 今日もこのままウチに来なさいよ! パパもママもアナタのこと気に入ったみたいだしっ!」
「えっ……」
「こらーっ! エンドリィを『どくせん』するなー!」
「なによっ、エンドリィはワタシのなんだけどっ!?」
「違いますけど?」
「……あっ、流石に物みたいに扱うのは違うわよね。悪かったわ」
心の底からの『ちがいますけど』が出た。
というかユーティフル、もうツンの部分が殆ど消えかかってないか?
「……貴様ら、授業を始めるぞ。席に着け」
「はーい!」
それぞれ席について教壇のナウンスを見る。
「その前に一点伝えたいことがある……知っている者もいるだろうが、歓迎遠足、および合同遠足にて生徒を襲った犯人が捕まった」
アイツのことだろう……ここでふと、疑問が湧き上がる。
オレを金に変えたいんだったら、エンシェントドラゴンの件は異質じゃないか、と。
「ひとまずこれで、遠足の事件は解決したということになる。各自安心するように」
……アイツは、アレに関与していたのか?
……エンシェントドラゴンに殺されていたかもしれないのに?
「『エンドリィ・F・リガール』、この朝会が終わった後、少し話がある。職員室へと来い」
「話……」
一連の事件に関することなのは間違いない。
オレは深く頷いた。
「──ヤツが言っていた人物についてだが……」
「あ、金持ちの変態って人ですか」
「うむ……実は彼も捕まっている」
「……え?」
「それが内務省の職員でな、不祥事を明るみにしたくない者たちに公表を阻まれている状態にある」
「……なるほど」
内務省、つまりはゼションの部下か。
不祥事を隠そうとするのはどこの世界も同じなんだろうな。
「ただ、被害を被った我が校としては何としてでも公表するよう働きかけている。いずれ全てが明るみに出るだろう」
それは何より、なんだが……。
「ナウンス先生、花咲の丘のエンシェントドラゴンの件なんですが……」
「……ああ、心配するな。これで全てが解決したと気を緩めることはしない」
ナウンスがオレを見る。真摯な瞳だ。
──それから二週間の時が経ち、オレは今日も今日とてカフェに向かっていた。
「……おっと、またお前か」
「あっ、こんにちはストレンスさん!」
「毎度毎度リチギに挨拶してくんなよな……お前、他の奴隷にも挨拶してるんだって? やめとけよ、マジで」
道すがらストレンスとばったり出くわす。
「いや、でも挨拶は大事ですから!」
「大事ねぇ……お前もわかんねぇ奴だよな。あのクトレス家のガキの馬車に乗ってるかと思えば、こうやって奴隷にも話しかける」
「あっ、見られていたんですか」
「とっくにウワサになってんぜ。とんでもねぇ人たらしがいるって」
「ひ、人たらし……」
陰キャのオレが言われるようになったものだ。
「なぁ、奴隷をたらしこんで何のメリットがある? 上の連中をたらしこんでいりゃソレで十分だろ?」
「別に、たらしこんでいるワケじゃありませんから。私は私が思う接し方をしているだけで……あ、チョコいります? 今日学校で配ってたんです」
前世では上手くできなかった分人に優しくしたい。ただそれだけだ。
「そういうのをたらし込みって言うんじゃねぇのか? いらねぇいらね……むぐっ! って、おい! チョコを俺の口目掛けて投げんなっ! 落としたら勿体ねーだろうが!」
「あははっ、勿体無いって気にするなんて、やっぱり良い人じゃないですか」
「……良い人じゃねえ。俺は人を殴って奴隷になったんだぜ」
ここにきて初めて、ストレンスが己が奴隷になった理由を話す。
人を殴っただって?
「……大方、何か理由があったんでしょう?」
「……二年生にもなって俺は魔法が使えなくてよ。それでクラスメイトが揶揄うように集団で囲ってきて俺に魔法を撃ってきやがった。だからボコボコにした。そんだけだ」
「……なるほど。それでも人を殴っちゃいけないと言うべきなのでしょうか。先に仕掛けてきたのはクラスメイトの方なのに」
「お前は良い子ちゃんなんだからそう言やぁいい……ま、結局俺を囲ったクラスメイトも退学になったみてぇだけどな。喧嘩両成敗ってやつだ」
「喧嘩両成敗って……片方は退学処分で済んで、もう片方は奴隷だなんて、理不尽じゃないですか?」
「……さ、そろそろ奴隷監視員がやってくる頃合いだ。どっか行くんだな」
オレが憤っていると、ストレンスから顎で『どっか行け』と示される。
「……わかりました。それでは、また」
「……なあ。お前、名前は?」
「え? 『エンドリィ・F・リガール』です」
「……そっか。あまり変な行動を起こすんじゃねーぞ、エンドリィ」
「……それは、私が決めることです。それでは!」
ソレは彼なりの気遣いなのだろう。
なんだかんだで優しいな、と思いながら改めてカフェに向かう。
「──あ、おじいちゃん! 今日は会えてよかったです!」
公園のベンチには老人がいた。
たまにいない時があるので、会うのは久しぶりだ。
「わっはっは! 毎日居ればいくら小綺麗な格好をしていても警戒されるからな!」
「あの、おじいちゃん、これから私、カフェに行くんですけど、一緒に来ませんか?」
「おぉ、前もそうやって誘ってくれたな……そうだな、一度くらい行ってみるか!」
「えへへっ、嬉しいです!」
老人と笑い合って、カフェへと向かう。
「──あらっ、いらっしゃい。エンドリィちゃん! それと……そちらの方は?」
「仲良しのおじいちゃんです!」
「わっはっは! コーヒーを一杯いただこうか!」
「あら、そうなの! はーい、コーヒー一杯ですね! ……エンドリィちゃんは、いつもの紅茶でいい?」
「はいっ、お願いします!」
……今日はユーティフルはいないようだ。
どこか寂しく思う自分がいた。




