第33話 合同遠足
「さて、貴様ら、夏休みは楽しめたか? まさか夏期課題を終わらせていない者はいないだろうな?」
クラス全員の視線がケアフに向く。
「にゃ……!? ちゃんとおわってまーす! って、エンドリィにカイン! なんでおみゃーらまでみゃーをみてるんだ!」
そう、オレたちもケアフの方を見ていたが、一緒にやったので彼女が夏期課題を終わらせていることはわかっていた。
「ふむ、よろしい。では、授業を始めていきたいところだが……その前に一点伝えなければならないことがある」
ナウンスが神妙な顔で言う。なんだなんだ?
「例年、一年生は学期ごとに遠足に行っているのだが、今回は九年生と合同で行うことになった」
物騒な事件が多く、オレが狙われているかもしれない件も片付いていない。
「本来ならば中止も視野に入れるところであるが……我が校の九年生の成績上位者であれば大抵の事象には対処できるようになっているとして、このような運びとなったのだ。なお、班についてだが、一年生六名と九年生の成績上位者二名で一班とする。各々、調整して後ほど小職に申し出るように」
六人か……オレとケアフとカインと、後は誰を誘おうか?
「──エンドリィたち、どうせアナタたちは三人で固まるんでしょ? それならワタシたちと一緒に組まない?」
「ユーティフルさんたちと……? たしかにアリかも」
昼休みが始まるや否や、ユーティフルに話しかけられる。
いや、でも、ただでさえ狙われるかもしれないのに絶対に怪我をさせられない彼女がいるだなんて、一緒に組む九年生は大変だろう。
「あらっ、ワタクシは別に構いませんわよっ?」
「エストさん!?」
「エスト様っ!?」
「うふふっ、早く合同遠足の話がしたくって飛んできましたわっ! ……ユーティフルも参加したいという話ですわよね?」
「ええっ、そうなんです! あのエスト様と組めるなんて光栄です!」
「あのー、ボクたちのイシは……」
「ま、みゃーはべつにいいけどなっ!」
カインは若干嫌そうな顔をしているが……まあ、我慢してもらおう。
「……もう一人の九年生の方は大丈夫なんですかね? ユーティフルさんが居るとなると責任重大じゃないですか」
「問題ありませんわ! ねっ?」
「……ええ。このセツナ・C・ガーディン、命にかけてお護りいたします」
いつの間にかエストの後ろに立っていた人が頷く。
……この人、海に行ったときに不審者を捕まえたスー家の使用人だ。王都学校の九年生だったのか。
「それでは、決定ですわねっ!」
そういうわけで、オレたちの班は決まったわけだが……果たして大丈夫だろうか。
「──さあ、貴様らの班は小職が引率する。行くぞ」
歓迎遠足の時よりも更に大きな山。
分けられた六つの入り口からそれぞれ山頂を目指すようだ。
ナウンスが引率するのは想定外だったが、まあ、考えてみればそりゃそうだって話だ。
「……わわっ!」
突然コケるカイン……歓迎遠足を思い出すなぁ。
「だいじょうぶか、カイン?」
「ええ、ありがとうございます」
でも、もうあのときのカインではない。差し出されたケアフの手を掴み、立ち上がる。
「治療いたしましょう。レディー、『極小土属性回復魔法』!」
セツナが駆け寄り、カインに回復魔法をかける。
「そ、そこまでしなくてもダイジョウブなんですが……ありがとうございます」
「いえ、容易いことです」
セツナは微笑むと列の最後尾へと戻る。
……カッコいいなぁ。
「ふむ、問題ないな。このまま山頂に向かって進むぞ」
ナウンスはこちらを見て頷いた後、歩みを進める。
「──だいぶ、疲れてきたわ……」
「オジョウサマー、アタシもつかれましたー!」
「わたしもー!」
山の中腹辺りでユーティフル達が弱音を吐き始めた。まあ、たしかに道も悪く、前世の六歳七歳で考えれば虐待とも取られかれない行程だが……。
「ふむ、それでは一旦休憩としよう」
「ありがとうございます、ナウンス先生……エンドリィたちはまだまだ余裕そうね?」
その場に座り、水筒を取り出したユーティフルがジーッとオレたちの方を見る。
「……いえ、ボクもそろそろキュウケイしたいなっておもってました」
「みゃーはまだへいきだぞっ!」
「私は夏休みの間にランニングとかしていたので……」
「流石は獣人の体力……そしてエンドリィはそんなことまでしていたのね」
前世のオレからすれば考えられないことだが、強くならないと周りにも被害がいくかもしれないからな。
「強くなろうと焦る必要はありませんわ、エンドリィ……アナタはまだ護られるべき子どもなんですから」
オレの心を見透かしたようにエストが微笑む。以前の己を見ているような気持ちなのだろうか。
「小職から言わせれば『エスト・B・スー』、貴様もまだ……いや、極大級魔法を使える者を子供扱いはできないか」
フッと笑って水筒を傾けるナウンス。
顔が良いとこういう動作も様になるんだな。
「──では、出発するぞ」
「ええ!」
水筒を鞄にしまって立ち上が──
「また落石かッ!」
「いきますわよっ!」
「「「「レディー!!!!」」」」
オレ、エスト、カイン、ケアフは各々の動作で宣言をし、魔法を放つ。
「『小風光混合魔法』!」
「『小火水混合魔法』!」
「『小土属性魔法』!」
「『小無属性魔法』!」
放たれた六属性の魔法は混ざり合い、虹色の光線となって岩をバラバラに砕くッ!
「「「レディー!!」」」
続いてオレとナウンスとエストが宣言し……!
「「『中風属性拡散魔法』!!」」
「『大風属性拡散魔法』!」
降り注ぐ岩を風魔法で相殺するッ!
「まだまだッ! 全力でいきますわッ!! レディー! 『大上昇魔法』ッ!!」
「む……! 待てッ! 『エスト・B・スー』ッ! レディー! 『中上昇魔法』!」
犯人を追うエストが飛翔するのを見るや否や、ナウンスは拳を握り宣言してその後を追う。
「ね、ねぇ! エンドリィたち! 今のっ!」
セツナに護られていたユーティフルが興奮した様子で近寄ってくる。
「ええ、この前海に行ったときに沢山練習したんです」
不慣れなカインとケアフがメンバーということもあって、『花咲の丘』で一発成功したのが嘘のように苦戦したが、数を重ねた結果……カウント無しでも『全属性混合魔法』を放てるようになったのだ。
「なっ、なかなかやるじゃないっ? 今度はワタシも混ぜなさいよっ!」
海のことを言ってるのか、『全属性混合魔法』のことを言ってるのか、はたまた両方かは定かではないが、ユーティフルがやや語気を強めながらオレの手を握る。
「あはは、機会があれば……!」
とりあえず笑って握り返しておこう。
「……またも逃してしまったか」
「流石に用意周到ですわね」
ナウンスとエストが地に降り立つ。
「……しかし、教員は既に各ポイントに待機してある。この山からは出られまい」
「……だと、いいのですけれど」
ナウンスがフラグっぽいことを言うので若干不安になるが……これで終わってくれ。
「しかし貴様ら、『全属性混合魔法』からの『風属性魔法』……手慣れていたな。生徒の身でそれだけの対策ができるとは、小職も舌を巻いたぞ。120点だ」
「うふふっ、やりましたわね!」
エストがオレたち三人に微笑みかける。
「しかし、『エスト・B・スー』、貴様は気がはやりすぎだ。もし相手が『闇属性魔法』を宣言していたらどうするつもりだった?」
「そうですよお嬢様……私、肝が冷えました。いつも旦那様が仰っているように──」
「う……」
この説教、長くなりそうだな、なんて思いながら苦笑いを浮かべる。
全員無事で何よりだ。
「……って、いつまで握ってるのよっ!」
「握ってきたのそっちじゃないですかっ!?」
ユーティフルに理不尽を押し付けられたが……まあ、それも一時の平和があってこそのものだろう。