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第31話 老人再び

「ふんふっふっふふーん!」


 海、楽しかったなぁ!

 あまりにも楽しかったので帰ってきて一日経った今でも陽気に鼻歌なんか歌って街中を歩いている。

 ……寮に引きこもるのとこうやって歩くの、どちらが安全かというのも考えてみたけれど、どっちもどっちだと思ったので堂々と行動している。

 王都内なら何かあったら教員たちも瞬間移動とかですっ飛んでくるだろうし。


「ふふふんふーんっ!」


 ケアフとカインは筋肉痛と魔力を使いすぎたことによる疲労で部屋で寝ている。

 今のところオレは平気だが……。

 ……え、中身がオッサンだから筋肉痛も来るのが遅いとか、ないよな?


「ふふんふふーんっ!」


 まあいいや。カフェでゆっくりしよう。

 初めて行ったときはユーティフルが居て驚いたが、居心地の良い店だった。

 幸い、ゼションからの小遣いもそこそこ貯まっているし、通いまくるのもいいな。


「……ん?」

「ママー! あのヒトなにしてんの〜?」

「シッ、きっと何か考え事をしているのよ! 邪魔しちゃダメ!」


 デジャブのような会話……と思いきや、母親の反応が違う。

 公園のベンチを見ると、あの日と同じように老人が座っていた……のだが。

 あの日の浮浪者然としたソレではなく、上品に身なりが整えられた老人で。


「……えっと、人違いだったらすみません。もしかして、前にお話ししたおじいちゃんですか?」

「……おぉ! そうそうっ! よくわかったなぁ!」


 ニカっと笑うその表情は爽やかで。オールバックという髪型がソレを更に助長している気がする。

 あの長かったヒゲも全て剃っているためか、好々爺という印象もある。

 前に会ったときとは比べものにならないくらい若く見えるな。


「雰囲気とか全然違うので、このベンチに座ってなかったらわからなかったですよー!」

「わっはっは! そうかそうか! 見違えたろう?」

「ええっ、本当に! 着ている服だって多分上等なものじゃないですか!」

「わははっ、お気に入りの一張羅だっ!」


 前世でいうオーダーメイドスーツを思い起こさせるような、見るからに高そうな服だ。

 あの時とは別ベクトルで声がかけづらいかもしれない。


「……あのときはどうしてあんな格好を?」

「今の人間社会は差別的だ。身なりを見て奴隷や浮浪者と判断するや軽蔑を示される。FランクやEランク……とにかく、下のランクへの差別は昔からそれとなくあったが、今は更に悪化している。その現状を、身をもって体感しようとしたのさ」

「……どうして、そんなことを?」

「……人間の国を思い切って嫌いになろうと考えたんだ。後腐れなく、全て終わりにしようと」

「全て終わりにするって……どうやって?」

「少し前に王城を乗っ取ったテロがあったろう? アレに誘われたのさ」

「アレに……!?」


 しかし、今老人はここにいる。

 結局誘いは断ったのだろう。


「浮浪者のような格好で歩いていたからな。政府に何か思うところがあったように見えて……こんなジジイでも居ないよりはマシだと思ったんだろう」

「……おじいちゃんが参加しなくて本当によかったです。家族の方も悲しむでしょうし」

「……もうおらんよ」

「あっ、すみません!」

「わははっ、気にするな……それに、ワシはお嬢ちゃんにお礼が言いたかったんだ!」

「お礼……?」


 オレが何かしただろうか? ただ話をしただけだろう。


「こんなジジイに話しかけてくれて心底嬉しかったんだ。それに、綺麗な格好をしていたら、もっと話してくれると言ったじゃないか」

「たしかに……言いましたけど」


 それだけのことで?


「それだけのことで、という顔をしているな。まあ、一生わからない方がいい感情だ……ともかく、お嬢ちゃん、キミが話しかけてくれたから、ワシは思い直すことができたんだ。ありがとうッ!」

「……あはは、おじいちゃんが考え直す助けになったのなら、よかったです」


 あの時オレが話しかけなければ彼はテロリストの一員になっていた……なんというバタフライエフェクトだろう。


「……そうだ、お嬢ちゃん、名前は?」

「『エンドリィ・F・リガール』です」

「F……学校ではいじめられていないか?」

「大丈夫です! たしかに最初は差別的な目で見てくる人もいましたけど……今はそういうこともなくなって、友達と楽しく過ごしています」

「そうかそうか。逞しく生きているようだな……改めて、馬鹿な真似をしなくてよかったなぁ」

「……あの、おじいちゃん。もしよかったら、これからもたまにお話しましょう?」


 彼は家族はもういないといった。その寂しさが彼を凶行に走らせようとしたのだろう。

 それならば、その寂しさを少しでも埋めることができたら……。


「わははっ、もちろんいいさ! そう言ってくれて嬉しいぞ、エンドリィちゃん!」

「……あっ、そうだ。おじいちゃんの名前は?」

「わははっ、そのままおじいちゃんと呼んでほしいなぁ! それとも、何か不都合があるかな?」

「……たしかに」


 今世のオレにも祖父は両名いるが、まあ、王都で会うことはないだろうし……。

 おじいちゃんと呼んでほしいということは、彼にもかつて息子や孫がいて、ソレに面影を感じているのかもしれない。


「……さあ、エンドリィちゃんも何かの用事の途中だったんだろう? こんなジジイと話してくれるのは嬉しいが、自分の予定も大切にな!」

「はいっ、ありがとうございます!」


 オレはお辞儀をして老人の元を去る。

 ……いやぁ、思わぬことが人助けに繋がるもんだなぁ!

 ……本当に人助けになっていたらいいな。テロに加わるよりも何もしない選択をしたことを良かったと思ってくれていたら。

 なんて考えながら、オレはカフェの扉を開ける。


「……あら、エンドリィちゃん! いらっしゃいっ!」


 強面で筋骨隆々の店主に迎えられる。

 このギャップが良いんだよな。


「あらっ、エンドリィ、奇遇ねっ!」

「……ユーティフルさん!?」


 こちらは完全にデジャヴだ。

 何故、居る?


「……あっ、今回は完全に偶然よっ!?」

「今回『は』……?」


 じゃあ前回はオレが行くことを知った上で来てたってことか。まあ、楽しかったからいいけど。


「い、いやっ、今のは違くて……! あっ、そうだっ! そんな事よりもエンドリィ! 十月の二日から四日は空いてる!?」

「えっ、今のところは何も予定はありませんけど」

「そっ、そう。少し前にワタシの家に泊まらせてあげるって話をしたでしょう? でも、アナタの帰省やワタシのスケジュールの都合でなかなかその機会がなくて……」

「あははっ、泊めてくれるんですか? ありがとうございます! ……けれど、私、やっぱり誰かに狙われているっぽくって」

「オーホッホッホ! 心配いらないわっ! 腕利きの護衛が何人もいるものっ! それに、いざという時はワタシがアナタを護ってあげるっ!」

「あはは……ありがとうございます」

「ちょっと、何よその苦笑いっ!」


 マズい。ユーティフルの『オレを護る』という台詞に対する不安感が思わず顔に出てしまった。


「いえ、何でもないですよー?」

「……とにかくっ、決定ね! 決定! 何か予定を入れたら許さないからっ!」


 そんなこんなで、早くも十月の予定が入ったオレであった。

 ……まあ、素直に楽しみだな!

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