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第25話 闇属性魔法

「──久しぶりだな。エストも揃って三人で都外に向かうのは……」

「あのー、私は本当にご一緒してよかったんでしょうか……?」

「いいに決まってるわよ〜! だって、私がエンドリィちゃんと仲良くなりたくて提案したんだから!」


 学校のアホみたいなソレと違い、揺れを殆ど感じさせない馬車の中。

 オレを膝の上に乗せたリーズさんに肩を揉まれ、苦笑いを浮かべる。


「はぁ……付き合わせてしまって申し訳ありませんわね、エンドリィ」

「いえ! 『花咲の丘』にはずっと前から行きたかったので!」

「なら、いいのですけれど……」


 特段、花に興味があるというわけではなかったが、前世のくたびれていた頃も『絶景』という単語には心躍ってた気がする。


「うふふっ、久しぶりのピクニックだから張り切ってお弁当も作っちゃった〜」

「えっ、リーズさんが……?」


 カゴいっぱいに入れられた料理を見る。てっきり使用人に作らせているものだと思ってた。


「あらっ、意外だった〜? これでも、結婚する前は自分で作っていたのよ〜?」

「それに、お母様は今でも週に一度は料理を作ってくださいますのよ! それがとても美味しくって!」

「うふふっ、嬉しいわ〜」


 ここだけ切り取ってみれば仲睦まじい母娘のように見えるが……。


「あははっ、楽しみです」

「うふふ、お楽しみに〜……あっ、そうだ、エンドリィちゃん、この辺りを通るのが初めてなら、いーっぱい外の景色を見るといいわ〜!」

「はいっ、そうします!」


 ……見上げて返事をする際に、リーズさんの頬の傷が見えた。

 オレがスー家に行ったとき、日程調整が終わった後にお風呂に入らせてもらったのだが……。

 その背中には頬のソレとは比べものにならないほどの裂傷痕があった。

 このときもオレは触れないようにしたのだが、逆に不自然だっただろうか。

 それと、エストはリーズさんと一緒にお風呂に入ることを頑なに拒んでいた。

 彼女たちの過去に何事かあったことは明白だが、オレがその真実を知るときは来るのだろうか。


「……わぁ」


 ともあれ、ゆったりと変わっていく外の景色を見る。

 ゼレスディアの花……前世でいう薔薇に半分くらい似ている花が辺り一面に咲き誇っている。これでもまだ『花咲の丘』には辿り着いていないというのだから、期待が高まる。

 ……それにしても、この花を見るとこれを模した髪飾りをつけているユーティフルのことを思い出す。

 ケアフたちに、スー家と一緒にピクニックに行くことになったと話していると横から入ってきて『羨ましいっ!!』とギャーギャー騒ぎ出したのだ。

 後で『ユーティフルさんも行きたがっていた』的な話をエストにしておくと彼女に伝えたら複雑そうな顔をして何処かへと走り去っていったが……。

 あ、そういえばまだ伝えていなかったな。


「エストさん、そういえば私と同学年のユーティフルさんもこのピクニックに行きたがっていたんですよ……もっと早く伝えればよかったです」

「えっ、そうなんですの? ……むしろ知ったのがこのタイミングでよかったですわ」


 エストが苦笑する……どうかしたのだろうか。


「ユーティフル……クトレス家の御令嬢か。彼女を保護下においてその身に何かあればFランクや、ともすればGランクに落とされる可能性もある」


 ……BランクがFランクやGランクに? やっぱりSランクの家はスケールが違うな。

 というか、そんな彼女の担任をしているナウンス……思ったより重い責任を抱えているんだな。いや、王都学校だし、どの学年にもだいたいSランクの子供や親族はいるんだろうけれど。


「……あっ、エンドリィちゃんの身に何があってもいいって意味じゃあないからね〜?」

「ええ、それはわかっています……えっと、ユーティフルさんには『私が伝え忘れていた』ことをしっかり伝えておきますね」


 スー家が彼女の願いを断ったと思われるのも都合が悪いだろう。ここは子供同士の問題にしておこう……伝え忘れていたのは事実だし。


「ああ、そうしてもらえると助かる」

「……えーっと、あまり心配しないでね、エンドリィちゃん、今から行く『花咲の丘』は良いところだから〜!」

「良いところ、ねぇ……」


 エストがため息を吐く。

 やはり『花咲の丘』で何かがあったのだろう。



「──わ、あぁ……!」

「うふふ、凄いでしょう〜?」

「圧巻、としか言いようがありません……!」


 馬車を降りて少し歩くと、ゼレスディアの花一面だった景色が変わる。

 ヒマワリや、百合、紫陽花に朝顔、月下美人その他諸々といった花が咲き乱れていて……。

 感動よりも先にカオスだなという感想が先に出てしまったが、圧巻だ。

 この開花時期や生息域が全く異なる植物たちが同時に花を咲かせることは、この丘を管理している耳長族の特殊能力に関係があるとされている……つまり、前世では絶対に見られない景色ということで、テンションが上がる。


「……まあ、エンドリィが楽しそうでよかったですわ」


 一方でエストはというと、何かを警戒するようにキョロキョロと辺りを見回していた。


「……エスト、そんなに警戒しなくてもいい」

「わかっては、おりますけれども……」


 ソレをラボーさんに指摘され、エストは肩を竦める。


「さあ、この辺りでご飯を食べましょ〜! 使用人の方たちも、適宜用意したものを食べてちょうだいね〜」


 別の馬車に乗ってきた使用人達にそう言って敷物を広げるリーズさん。なんだか、お母さんって感じだ。


「……はいっ、どうぞ! エンドリィちゃん!」

「ありがとうございますっ! いただきまーす!」

「はい、エストに、ラボーさんも!」


 渡されたサンドイッチを頬張る。

 鶏肉をスパイスに絡めて焼いたものとレタスのシンプルなものだが、ソレゆえに肉の旨みがストレートに伝わってくる。

 肉自体の臭みも無く……そもそも良い肉を使っているのだろうが、下拵えもちゃんとしているのだろうなという印象を受けた。


「ん〜っ! 美味しいですっ!」

「うふふ、よかったわ〜!」

「ん、ふふ……っ」

「とても美味しいよ、リーズ」


 リーズさん特製のサンドイッチを食べると、エストの表情も弛緩する。

 ……周囲を見回すとオレたちの他にも観光客で賑わっていて、明るい雰囲気に包まれていた。

 ……いったい何を警戒していたというんだろう?



「──御馳走様でしたっ!」

「うふふっ、いっぱい食べてくれてありがとう〜」


 お腹いっぱいだ。寮の食事といい、美味しすぎてついつい食べすぎてしまうのは気をつけなければいけないな。せっかくの美幼女なんだから前世のように太りたくはない。

 ……そよ風が吹いて花々が揺れる。

 それにしても、ふわふわと心地の良い気分だ。許可を得られたらこのまま横になりたいくらいに。


「……何か御用ですか?」


 オレが口を開こうとした時、一人の中年男性が此方へと近づいてきて、スー家の護衛達に囲まれた止められる。


「……『小闇属性追跡貫通魔法ダークストークペネトレイト』」

「……え?」

「ッ!」


 瞬間、使用人達が膝から崩れ落ちる。

 ダーク……? 闇属性、魔法?

 たしかに、その存在は御伽話にも出てきて、昨今でも犯罪者が使っていることは知っていたが……。

 それをこの目で見るのは初めてで。

 混乱のあまり、思考の海に落ちていく。

 ……闇属性魔法の特徴は『当たれば相手は死ぬ』こと。

 前世でいえば、少しでも掠れば死ぬ銃弾といえる。

 魔物相手であれば有効であるが、使い続けていれば力に溺れるため、無いものとして扱われる闇属性魔法……。

 そんなものを、他者に対して使用するだなんて……。

 それに、いきなり魔法を唱えたということは、どこかで『宣言(レディー)』をしていたようだ。やり方が手慣れている。暗殺者の類いだろうか。

 でも、暗殺者がこんなに大っぴらに……?


「エンドリィ、気持ちはわかりますがボーッとしている場合ではありませんわよッ! 相手が闇属性魔法使いならば……!」

「……ッ! はいッ!」


 そうだ。闇属性魔法に相反する魔法は光属性魔法。これならば即死攻撃を打ち消すことができる。


「「「「レディー!」」」」


 エストは人差し指を口の前に立て。

 ラボーさんは指をパチンと鳴らして。

 リーズさんはただ一人残った使用人が差し出した弓の弦を引いて。

 そしてオレは胸に手を当てて宣言する。


「『大水属性追跡魔法ウォーターストークヘクティア』!」

「『大土属性追跡魔法ソイルストークヘクティア』!」

「『大無属性追跡魔法ノーンストークヘクティア』!」


 スー家の三人が追跡魔法を唱える。


「レディー、中闇属性追跡魔法ディキャダークストーク


 中年男性は迫り来るソレらに動揺もせずに闇属性魔法を放つ。

 中級魔法……!? オレでは防げない!

 そもそも誰を狙った……!?

 なんてごちゃごちゃ考えていたら、宣言していた『小光属性魔法(ライト)』が発動できなくなって。


「リーズッ!」

「お母様ッ! レディー、『大上昇魔法ウィンドアップへクティア』ッ!」

「エスト、ダメよッ! このままだと二人とも……ッ!」


 狙われたのはリーズさんだった。

 彼女はエストに抱えられ、風属性魔法を使って逃げているが、追いつかれるのも時間の問題だろう。……どうにかして、彼女らを護らなければッ!


『────っ!』


 こんなときに頭痛がした。

 しかし、ソレと同時に、今なら『中級魔法を使える』という根拠のない自信が湧いてきて。


「レディー……」


 想像するんだ。今までのソレよりも強い光を……ッ!!


「『中光属性魔法(ディキャライト)』ッ!」


 オレはリーズさんたちを追う闇属性魔法に向かって光属性魔法を放つッ!

 ……どうやら、無事にかき消すことができたようだ。


「エンドリィ!? その歳で中級魔法を……!? と、ともあれ、助かりましたわッ!」

「ええ、エンドリィちゃんは命の恩人ねっ!」

「エンドリィ、心より感謝する……!」

「そ、それで、襲ってきた人は!?」


 降り立ったエストが驚愕の表情を浮かべていたが、今はそれよりも襲撃犯の動向が気になる。


「きゃあああああああぁぁぁッ!!」

「な……ッ!」


 叫び声がした方向をみると、一人残った使用人の元に襲撃犯がナイフで襲いかかっていて!

 鮮血が見えたと思った途端、彼を追う三種の追跡魔法にぶっ飛ばされて使用人もろとも丘を転がり落ちていく!


「そ、そんな……!」

「……くッ!」


 逃げ惑う人々とは反対方向に後を追うオレたち四人。

 何故最後に残った使用人まで巻き込んだ……!?


「グオオオオオオオォォォォォッ!!」


 なんて疑問に思っていると、オレたちが進む方から咆哮が響く。


「な……っ!? この、鳴き声、は!」


 困惑の表情を浮かべるエストを見て、前方を見る。

 すると、一頭のドラゴンがそこに居て。

 よく見ると、その口元から襲撃犯と使用人と見られる脚が見えていた。


「そ、そんなッ! そんなはずは、ありませんわ……!」

「エスト、落ち着くんだ……! だが、ああ、そんなはずはないッ!」

「アレは、九年前にこの丘で倒されたはずの……!」

「「「エンシェントドラゴンッ!!」」」

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