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第24話 ピクニック

「そういう言い方はやめろといつも言っているだろう。私はリーズとエスト、どちらのことも大切に……」

「そう言いながらお父様はいつもお母様は悪くないと仰いますわよね? では誰が……」

「失礼いたします。紅茶とケーキをお持ちいたしました」


 言い争いが加熱するかというタイミングで、使用人が扉をノックして入ってくる。


「ご苦労様〜」


 手慣れた所作で紅茶と切り分けられたチーズケーキをオレたちの前に置いて、お辞儀をして彼らは出ていく。


「…………」


 エストは並べられたケーキと紅茶、そしてリーズさんとラボーさん、最後にオレの顔を見て。


「……少し頭を冷やしてきますわ」


 静かに扉を開けて部屋を出て行った。


「……すまない、エンドリィ。見苦しいところを見せてしまった」

「いえ……」

「…………エンドリィちゃん、貴女は純人間なのよね?」

「え? そうですね、純人間です」


 先ほどまでのふわふわとした表情から一転して、真剣な瞳でオレを見つめるリーズさん。

 ……これはおそらく。


「純人間なのにどうして特殊能力がないんだって、思ったことはある?」

「こら、リーズ……君も知っての通り、デリケートな話題なんだ」


 やはり、そういう話か。

 問題ない。心の準備はできている。


「いえ、大丈夫です……そう思ったことはもちろんありますよ。悔しいなって。でも、特殊能力が必ずしも使用者を幸せにするかと言われるとそういうわけでもありませんし、あくまで個性の一つに過ぎないと考えています」

「あらあら、その歳でしっかりしているのね〜……でも、個性の一つだっていうなら、私はあの子にソレを与えてあげたかったわ」

「…………」


 魔法の適性に種族差があるように、特殊能力の発現率にも種族差がある。

 前に読んだ本を参考にすると、こういったところだ。


 巨人族 筋力⭐︎魔法×感覚⚪︎  特殊能力20%

 人間族 筋力⚪︎魔法⚪︎感覚⚪︎ 特殊能力85%

 小人族 筋力×魔法⭐︎感覚△  特殊能力65%

 獣人族 筋力⚪︎魔法△感覚⭐︎ 特殊能力50%

 耳長族 筋力◎魔法△感覚◎ 特殊能力30%


 このように、人間族は特殊能力の発現率が最も高く、耳長族の発現率は三分の一程度だ。


「リーズ、君のせいじゃないさ……」

「それでも……あの子、魔法だって、一年生の後半までは使えなくて」

「えっ、そうなんですか」

「うむ、そのときはまだ『小級魔法』からいきなり使えるという前例がなかったからな。私達としても長く心苦しい時期だった」


 それは初耳だ。だからこそ、同じ状況に陥るかもしれないオレを放ってはおけなかったんだな。良い子だ。


「……今のエストも心配なんだけれどね〜。あの子、強さを求めすぎていて」

「そうだな。九年生のこの時期だ。自分のランクについて不安を抱くのは仕方ないが……」

「何かあったんですか?」

「……」


 他人の家の事情に深く関わるべきではない。ソレはオレもわかっているし、ラボーさんからもそのような雰囲気を感じている。

 しかし、エストには恩義がある。何か自分の力になれることがあったらと、思わず尋ねてしまった。


「……あの子ね、自分が耳長族のハーフであることに劣等感を抱いているみたいなの」


 リーズさんが少し躊躇した後に口を開く。


「もしも自分が耳長族の子供じゃなければ、今の時点で『極大級魔法』も使えたんじゃないかって……ゼション君みたいに様々な属性の魔法も使えたんじゃないかって」


 ゼションの名前が出て少しだけ顔が引き攣る感覚があった。

 ゼション・S・オブトーカー。現在27歳にして内務省のトップに立ち『Sランクの中でも最強』だと言われる男。

 なんでも、成人時に一つ使えればBランク以上、二つ使えればAランク以上がほぼ約束される『極大級魔法』を全属性使えるらしい……規格外すぎる。

 特殊能力は不明であるが、全属性の魔法が使えることはソレ由来なのではないかと噂されていて。

 ……冷静に考えてみるとヤバすぎるな。オレの親戚。


「実際、エストがそう言っていたのも聞いたことがあるの。『お父様が耳長族を伴侶に選ばなければ』って」

「リーズ……聞いていたのか」

「あのとき、ラボーさんは怒ってくれたけど、心のどこかで『本当にその通りだな』って思ってしまう自分もいて……」

「そんなことはない。そんなことはないんだ、リーズ! あの子もわかってくれるときがきっと来る!」


 ラボーさんがリーズさんの両肩を掴んで首を横に振る。


「……」


 難しい問題だ。たしかに、魔法で闘うことが推奨される人間社会には耳長族や獣人族、ひいては巨人族は適合しにくいだろう。

 もっと普遍的なファンタジー世界のように、もしくは、この世界に伝わる勇者のように……武器を取って闘う機会があれば。

 いや、それか、世界に目を向けて見るという選択肢もあるな。


「あっ、エンドリィちゃん、ごめんなさいね、こんな話をしてしまって……」

「いえいえ! ……私、少し考えてみたんですけど、エストさんに別の国に行ってみるよう勧めてみるのはどうでしょうか。例えば耳長族の国、は心象的に難しくても獣人族の国とか」

「……ああ、それは私も考えていた」

「……けれど」


 夫妻が難しい顔をしながら俯く。


「あの子はあまり王都の外に出たがらないんだ」

「……昔は『花咲の丘』にも毎年ピクニックに行っていたのだけれどね〜」

「花咲の丘! 聞いたことがあります。人間族の国と耳長族の国の国境付近にあって、名前の通り色とりどりの花が咲き誇っているところなんですよね」

「あら! よく知ってるのね〜!」

「えへへ、本で読んだので……私、いつか行ってみたいなぁと思っていたんです」

「あら、そうなの! それじゃあ……私と一緒に行ってみる〜?」

「……リーズ?」


 ……ん? なんかエストの話から会話が急展開したな。

 ラボーさんも驚愕の表情でリーズさんを見ている。


「だって、今日会えたのも何かの縁じゃない? 私自身も、エンドリィちゃんと仲良くなってみたいもの!」

「え、えっと、流石に迷惑になるんじゃ……」

「い、いや、リーズがいいのなら、私はいいのだが……」

「戻りましたわ……先ほどは申し訳ありませんでした」


 オレたちが困惑している中、エストが戻ってきた。


「あっ、エスト〜、私たち、エンドリィちゃんと今度『花咲の丘』に行くことにしたの〜」

「どうしてそうなったんですの!?!?」


 エストも驚愕の表情を浮かべる。そりゃそうだよな。


「お母様、わかっていまして!? あの場所は……」

「別に、エストは無理してついてこなくてもいいのよ〜? 私がエンドリィちゃんと仲良くなりたくてそうするんだから〜」

「……エスト、あの丘はもう安全だ。お前さえよければ、またもう一度家族で行ってみたい」


 ……昔、花咲の丘で何かあったのか? もしかするとソレが、エストが王都を出たがらない理由に繋がっているとか?


「……ああっ、もうっ! わかりましたわよッ! 不安なのでワタクシもついていきますわッ!! 日程はもう決まっていまして!?」

「うふふ、それは今から決めようと思ってたの〜」

「……それでは今度の土曜日は空いていまして?」


 若干キレ気味のエストが、日程調整を行う。

 ……というか、家族水入らずで楽しんでもらった方がいいんじゃないか?


 ──オレの疑問はさて置かれて、日程調整は着々と進んでいった。

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