第21話 前世の夢
「──え、えっと……す、好きな食べ物はなんですか?」
「鰹のタタキとか好きですね。地元なんで……って、これは言っちゃダメでした」
「ああ、に、ニンニクやみょ、ミョウガと合わせると最高ですよね。それで、えっとー、しゅ、趣味は……」
「ふふっ、なんだかお見合いみたいな話しますね。趣味はゲームです。ファンタジックなアクションゲームとか好きでー……隠密行動型のアクションゲームなんかもたまにやりますねー。『ノリタマ』さんは?」
「オレもふぁ、ファンタジックなあ、アクションゲームはよくやっています。隠密行動型のヤツはし、正直苦手ですけど……あ、暴れ散らかしたくなっちゃって」
「ふふっ、やっぱり相性ってありますよねー」
オレは今、VRトーク内の寂れた酒場ワールドにて、一人の女性と話していた。
……いや、女性アバターで声もそれっぽいが、今時はボイスチェンジャーも高機能なのがあるから女性だと断言はできないか。
……こういうときも言葉が吃ってしまうのが本当に恥ずかしくて情けない。
「……あの、す、すみません『シー』さん。お、オレ、こ、こんな感じでど、吃っちゃうので、は、話しづらいですよね」
「えぇ? たしかに『吃ってるなぁ』とは思いますけど、それだけですよ? こういうことを言って『ノリタマ』さんを不快にさせたら申し訳ないですけど……私はそういう個性だと思いますけどね?」
「個性……」
円滑なコミュニケーションができない個性、か。そんな個性ならオレは無個性でいいのだが。
「ああ、えっと、個性って言われて嫌、でしたかね……すみません!」
シーさんが手を合わせて謝罪のポーズを取る。
「ああ、いえ、き、気にしないでください……そそれよりも、ど、動作がし、自然ですね。デスクトップだと決められたポーズしかできなくて……」
「うふふ、フルトラッキングですからね」
フルトラッキング……全身の動きをアバターに反映することで、それを可能とするための機材はけっこう良い値段がする印象だ。
「フルトラ……そもそもゔ、VRゴーグルも持ってないオレからすると、と、遠い世界の人間って感じがしますね」
「うふふっ、遠くなんてありませんよー! まあ、VRトークを始める時に奮発して買ったんで、お財布は大打撃をくらったんですけど……」
肩を竦めるシーさん。相手の動作が見えるというのは現実だと当たり前だが、ゲーム上だとなんでこんなにも感動できるのだろう。
「始める時に……!? で、デスクトップ版とか試さなかったんですか?」
「ふふっ、馬鹿な話なんですけど、私には好きな人がいまして……その人がVRトークを始めるということだったんで、よく調べないまま慌てて機材を揃えちゃったんです」
「へー……そのあ、相手の人、ビックリしてませんでした?」
凄い話だ。それだけ想われて相手は幸せ者だな、なんて無責任に考える。
「うふふっ、ええ、ええ。してましたね」
「……ちなみに、VRトークをは、始めてどれくらいになるんですか?」
「まだ二週間くらいですかねー」
「……あっ、は、始めた時期自体はオレよりもさ、最近なんですね」
まあ、オレは画面酔いが酷いタイプなのでそんなに高密度でこのゲームをやってはいないのだが。
「……おっと、フレンドから呼び出しが来ました。またお会いしましょうね。私からもフレンド申請、送っておきますから」
「あっ、ありがとうございますー」
フレンド申請を承認する……これでまた一歩美少女アバターのアップロードに近づいたな。
「ではではー!」
「えっと、ありがとうございましたー!」
オレは両手を振るシーさんに礼をして見送った。
「──またVRトークの夢……」
目を開ける。
ここは王都学校の寮の自室で、オレはエンドリィ・F・リガールだ。
「……オレの人生でそんなに重要じゃなかったんだけどな」
前世の夢ということなら家族と行った旅行や何気ない日々を見てもいいとは思うが、不思議なことに前世関係で見た夢はどちらもVRトークのソレだった。
……なんで? いや、疑問に思ったところで仕方ないんだけど。
「……まだこんな時間かぁ」
時計を見ると、まだ午前三時半くらいで。
「……もう一回寝よ」
なんだかんだ、二度寝する瞬間というのは気分が良いものである。なんてことを考えながら、再び目を閉じた。