第19話 奴隷
「……!」
「ちょっ、エンドリィ!」
「どこいくんだ……!?」
困惑する二人を置いて、オレは奴隷の少年の方へと走った。
「なあ! どうしてくれんだよッ!」
「…………」
「シカトしてんじゃねぇよッ!」
正確には、少年とそれに絡んでいる輩の元へ、だな。
「あの、お兄さんたち」
「ああッ!? んだよッ! ガキは引っ込んでろッ!!」
「お兄さんは、この奴隷のお兄さんにぶつかられたから怒ってるんですか?」
「ああ? ああ、そうだよ! ボーッと歩きやがってよぉ……!」
「…………」
「あれ? おかしいですね? 私にはお兄さんの方からぶつかったように見えたんですけど」
「……ガキ、痛い目に遭いたいか?」
「私を痛い目に遭わせるんですか? それって罪になりますよね?」
「……なっ!? そもそも奴隷は人じゃねぇんだから、人間様を尊重してだな!」
「…………」
「奴隷は国の所有物です。いたずらに傷つけた場合は罪に該当するって、習わなかったんですか?」
「お、おれはCラン……いや、その制服に上物のコート、王都学校の生徒かッ! チッ!」
怒りに顔を歪ませながら輩がどこかへと走り去っていく。
こ、怖かっったぁぁぁぁ!!! 頭が真っ白になってたよおおぉぉぉぉ!!
最後にランクの話が出たときはめんどくさいことになったなって思ったけど、制服を見て去ってくれたからよかったぁぁぁ!!
「……なぁ、チビのガキ、どうして俺を助けた?」
「え? なんでって……あんなところ見たら黙っていられませんよ!」
開口一番の呼び名が『チビのガキ』であることは触れないでおく。何故なら、それは事実なのだから。
180センチはあろうかという身丈に筋骨隆々なその体格。
顔立ちにはまだ幼さが残っているが、流石にオレよりはいくつか歳上であろう。
……相手の言いがかりで己が悪いような言い方をされる不快さをオレは知っている。だから、放っておくわけにはいかなかった。
今は吃音も斜視もないのに、話さないなんて選択肢はない。
「はっ、そりゃあ勇気があることでっ! ……けどよぉ、奴隷と話なんかするもんじゃねぇ。どっか行きな!」
「その量の荷物を持てるの、凄いですねっ! それにその体格……巨人族の血を引いてるんですか?」
「……俺の話聞いてたか? はぁ、答えを聞いたらどっか行けよ? オレは巨人族のクォーターだ」
「名前を聞いてもいいですか? ついでに年齢も!」
律儀に答えてくれるのが面白いので、追加で質問をしてみる。
「だーかーらーよぉ〜っ!! ストレンス・G! 10歳だッ!! ほら、どっか行けっ!」
「わかりましたわかりました! 最後にこれだけは言わせてください! ……えっと、ストレンスさん! さっきは所有物とか言ってすみませんでした!」
「は……? 別にいいぜ。間違ったことは言ってねぇ」
「……それでは、失礼しますね!」
オレはストレンスに礼をして、ケアフたちの元へ戻る。
「……まあ、ありがとな」
そんなオレの背中に向けて、ハッキリと、照れくさそうに感謝の言葉が放たれたのは勘違いではないだろう。
「──なーにやってるんですかエンドリィ。ドレイをかばうなんて」
「そうだぞっ! みゃー、ビックリしちゃった」
二人が呆れた目でオレを見る。奴隷の肩を持つことはやはり奇特に見えるようで。
「あはは……待っていてくれてありがとう」
「まあ、エンドリィはユウジンですから!」
「なー、エンドリィ! こいつ、すなおになったとおもわないか!?」
「あはは、そうですね〜!」
「ちょっ、ボクはモトからスナオですが〜!?」
「「あははっ!」」
笑いながら学校へと戻る。
「お願いしますっ! このとおり!」
「だーかーらー! アンタも毎日しつこいなぁ爺さんッ! 気持ちはわかるがソレは無理なんだって!
「ストレンスがッ! ストレンスが奴隷になるなんて何かの間違いなんですッ! まだ魔法が使えないだけでッ!」
その道すがら、こんな会話が聞こえてきて、興味を抱いたが……。
「どうしたんだエンドリィ?」
「なにかきになることでもありました?」
「ううん、行こう!」
これ以上友人を待たせるわけにも行かないので、ひとまず今日のところは帰ることにした。