第18話 歩み寄る二人
「……あ、ところでせんせー! みゃーたちがきてるせいふくってすごいんだなっ! あっ、ですね!」
「ええ、ボクやエンドリィがほとんどきずつかなかったのはこのセイフクのおかげですからっ!」
「でも、そんな凄い機能があるなら、事前に説明があっても……あ、そっか」
「うむ。気づいたか、『エンドリィ・F・リガール』。十数年前までは事前に説明していたのだが、興味本位で自ら危険な行動に出る馬鹿者が現れたのだ」
「なるほど……」
それで制服の機能を伏せる事になったと……迷惑な話だ。
「今回の件で一年生に知れ渡ることになったのは想定外であったが……元より、生徒の安全な学校生活を護るのは教員の定め。貴様らが余計な怪我をせんように注意を張り巡らせておく」
この三週間ほどで実感している事だが……良い教師だな! ナウンス!
「にゃっはは! いいきょーしだなっ! ナウンスせんせーはっ!」
オレが思ったことをケアフが笑いながら言う。が、ナウンスは彼女をギロリと睨んで……。
「要注意人物は貴様なのだぞ、『ケアフ・E・アール』。先ほども、幸いにも『アニマルポゼッション』の副作用が出ず、結果的にキングゴブリンを行動不能にする道筋を立てる決定打になっただけで、貴様の危険な行動で三人まとめて共倒れになる可能性もあったのだ」
「にゃ! それは、そう……ですけど」
「あの状況ではそうする以外突破口がありませんでしたから……」
「それは小職も理解している故に心苦しい……が、『ケアフ・E・アール』、貴様はマイナス20点だ。一度自分の行動を見直すがよい」
「にゃ……はい」
「……それでは、これより王都へと帰還する! 小職の元へと集まり並ぶように」
ナウンスがオレたちと他の生徒たちの間へと歩んでいく。
「あまりキをおとさないでください、ケアフ。あのコウドウはリッパでしたよ……たしかに、アナタのしたことはあまりにもキケンでしたし、ニドとやってほしくはありませんが、そのブン、ボクもつよくなりますから」
カインが珍しくケアフに対して優しい声色でそう言う。
……彼が彼女の名前を呼んだの、初めてじゃないか?
「……あ、ありがとな。カイン」
それを受けてのケアフの反応がどこか照れ臭くくすぐったそうで、思わず笑みが漏れてしまう。
「……それと! ボクだけがつよくなるんじゃなくて、アナタにもマホウをおぼえてつよくなってもらいますからねっ!」
「お、おう! がんばるぞっ!」
「……コツくらいならおしえてあげますよ」
どこか初々しい距離感の二人をニコニコと見守りつつ、オレは列に並んだ。
「……よし、全員居るな。それでは、また馬車に乗ってもらう」
「……げ」
声を出したのは隣に並んでいるユーティフルだった。完全にあの御者のおじさんたちにアレルギー反応が起きているな。
「大丈夫ですか、ユーティフルさん?」
「バカにしないでくれる!? 大丈夫よ!」
馬車へと進む道。オレは彼女に声をかけてそう返されるも、その手は震えていて。
「……そうですか? 手でも繋いでいたら楽になるかなーと思ったんですけど」
取り巻きの子が二人もいるんだ。少なくともどちらかはやってくれるだろう。
「……そ、そう? どうしてもアナタがそうしたいなら、してあげなくもないけれどっ!!」
あ、言葉足らずでオレが手を繋ぐって話になってる。こうなると訂正しずらいな……。
「はいっ、私が手を繋ぎたいんですっ!」
ここは入学前のカインにやったように笑顔を見せよう。
「……それじゃあ仕方ないわね〜っ! 手を繋いであげる!!」
ドヤ顔で手を繋いでくるユーティフル。黙っていれば本当に美人なのだが、動くとコミカルな可愛さがあるな。
「それじゃ、乗りましょうか!」
「ええっ!」
「──それでは、各自解散とするが、しばらくは王都の外に出ようなどと考えるなよ? まあ、門番にもその旨を伝えているので大丈夫だとは思うが」
「はーいっ!」
王都の入り口に到着して。
ナウンスの言葉にみんなで返事をする。
「よろしい。それでは、解散!」
「……オーホッホッホ! ワタシは専用の、丁寧な御者の馬車で帰るわよ〜!」
丁寧な、を強調しつつ、ユーティフルが迎えの馬車に乗る。
……馬からして明らかに違うな。車部分もコンパクトながら高級感が漂っている。
「エンドリィ! 今日の行動は褒めてあげるっ!! おかげでワタシは気分良く帰れるわ〜!!!」
なんだかんだではぐらかされて終わるもんだと思っていたら、少しひね曲がっていながらも感謝の言葉を告げられる。まあ、悪い気はしない……。
……というか、勘違いでなければ、オレ、彼女に懐かれているんじゃないか?
「それでは、オジョウサマ、またアシタ!」
「おつかれさまですっ!」
取り巻き二人が礼をして、ユーティフルの馬車を見送る。
「……それじゃ、かえろっか〜!」
「うんっ! せっかくだからおかいものしてりょうにもどろ〜!」
馬車が曲がり角を曲がると、取り巻き二人もリラックスした様子でどこかへと走っていく……年頃の幼子だなぁ。
「さあ、ボクたちもかえりましょう、エンドリィ」
「よりみちは……つかれたからなしだなっ!」
「ですねっ!」
ケアフの言葉に頷くカイン。
この数時間で仲良くなったものだ。でもまあ、仲良きことはいいことだからな。
「ふふっ、じゃあまっすぐ歩いて帰……んん?」
オレだって疲れているので、早く帰りたかったのだが……。
一人の少年……首輪を身につけた奴隷が目視界に入ったのだ。