第16話 友人
「すぅ……『小光属性魔法』ッ!」
オレは魔法を使って出入り口の土砂を退けようとするが、上手くいかず。
「ひっ……!」
もう動かなくなったキングゴブリンの脚を捥いで丸呑みにしたグリフォンがオレたちの方を見る。
「う、わ……!」
大級モンスターをこの目で見るのは初めてで、その眼光に思わず萎縮してしまう。
「ピュイイイイイィィィィーッ!!」
「……っ! あぶないっ!!」
グリフォンが翼を羽ばたかせると、ヤツの正面に風が渦巻いて……それが此方へと飛んでくるッ!!
さっき洞窟の出入り口を塞いだあの風魔法だッ!
「う、わ……! あっ!」
「カインさんッ!!」
「エンドリィ! カインッ!」
カインが走り出そうとして、こけて……。
オレは咄嗟に彼の前に立ち、背中で魔法を受け止める。
「エンドリィ……!? なにを……!」
「う、ぐ……!」
カインが驚愕の表情でオレを見る。
……仕方ないだろ! こんなに小さな子を見殺しにはできないッ!
それに、この制服にはダメージに対する何らかの対策が施されている……はずだ。
それなら既に制服がボロボロであるカインが受けるよりもオレが受けた方が……!
なんて理由をつけて必死に恐怖心を誤魔化す。
「「うわああああぁぁぁぁぁ!!」」
押し寄せる衝撃に耐えられず、オレたちはぶっ飛ばされる。
「とんでくるぞっ! きをつけろ! ふたりともっ!!」
倒れたオレたちの元にグリフォンが飛んできて。
恐怖で頭が真っ白になって。
不意に、その白をあのときのゼションの言葉が染めていく。
──何かあったら僕に助けを求めるんだ。
……いや、バカか! オレは何を期待しているんだ。
今ここで助けを呼んだところで、アイツが来てくれるなんて都合のいい展開はありはしない!
オレがオレを……そしてカインを助けなければ!
「レディー、『小閃光魔法』!」」
「グギャアアアアアアアアアアァァァァッ!!」
飛んでくるグリフォンに向かって、眩い光を放つ!
するとヤツは墜落し、バタバタと翼をはためかせ身悶え始めた。
「い……! 今のうちに距離を取りましょうっ!!」
頷く二人とともにグリフォンとは反対側の壁の方へと逃げる。
「うわ、うわわわわっ!?」
「とにかく避けてっ!」
「そんなむちゃな!? にゃにゃーっ!?」
目が見えずヤケクソになったのであろうグリフォンが、メチャクチャに風魔法を撃ってくる。
オレたちは必死で避けながら壁際へと辿り着く。
魔法がある以上安心とは言えないが、グリフォン本体とは距離をとることができた。
「ピュイイイイイイィィィィッ!!」
「レディー…………!」
視力が回復したであろうグリフォンが竜巻のような風魔法と共にこちらへ突っ込んでくる。
さっきのように『閃光魔法』で対処したいが、グリフォンのトリッキーな飛び方と、展開された竜巻の対処に追われて命中させることができるか不安だ。
……でも、やるしか!
「『極大土属性追跡魔法』ッ!!」
オレが決心したそのとき、上空から大蛇のような土塊が竜巻を掻き消し、グリフォンに突っ込んでいく!
あんなに恐ろしかったグリフォンが今や土に埋もれていて!
……この世界にはこういう言葉がある。
『ある程度の魔法使い同士が戦う時、極小と中で相手がどちらを選択するかの瞬時の読み合いが発生し、小と語尾につく大でも同様のことが起こる。そして、極大と唱えられた場合は、余程の傑物でない限りは逃げ惑うだろう』
オレがたったいま目にしたのは、その『極大魔法』だ! スゲー! 初めて見た!!
「──貴様ら、よく持ち堪えたな。120点だ」
「ナウンス先生ッ!」
「すっごいまほうだーっ!!」
「ここまでたえることができたのは、エンドリィのおかげですっ!! ですから、その、センセイ……コートを、カノジョに」
「うむ……そうだな」
「んぇ?」
ナウンス先生が頷いて己が着ているコートをオレに被せる……ん? なんだなんだ?
「エンドリィ、おちついてきいてくださいね。こんなこと、オンナノコにいうハナシではありませんが……」
「にゃ! いいにくいなら、みゃーがいってやる! エンドリィ、おみゃー、せなかとおしりがはんぶんみえてたぞ!」
「……へ?」
ケアフにそう言われ、コートの下を触って確かめてみる。触れるとピリリと痛みが背中を伝うが、オレは確かに素肌に触れている。
そこから下にずらすと……たしかに尻も半分くらい出ていた。
「え……えええええぇぇぇぇぇ!?!?」
間違いなくカインを庇ったアレが原因だろう。
……カインの『ヴィジョンジャック』って、どこまでが範囲内なんだ? まさか、他の生徒にも見られてないよな?
やだ! オレ中身はおっさんなのに『無性に恥ずかしい』ッ!
「にゃははっ、『めいよのはんけつ』だなっ!」
「もーっ! 恥ずかしいこと言わないでよーっ!!」
「全く、あれほどの事をやってのけたというのに、気の抜ける者達だ……」
だって仕方ないじゃん!
尻が! 尻が半分見えてんだぞ!?
前世だったら公然わいせつ罪だからなっ!?
「……あははっ、たしかにそうですねっ! でも、カノジョたちはステキなユウジンですっ!」
焦るオレを前に、カインは照れくさそうな微笑みを浮かべていた。