第12話 キングゴブリン
「あ、あれッ! あれあれあれあれッ!! キングゴブリンですよねッ!?!?」
「おってきてるぞっ!」
カインが取り乱すのも無理はない。
音もなく跳んできたのは、キングゴブリン。ゴブリン達の王だからだ。
魔物達にもランクというものがあり、ディシィゴブリンは『極小級』、ゴブリンは『小級』、キングゴブリンは『中級』……ある例外を除けば、それぞれ『一撃で倒せる魔法のランク』に対応している。
「にゃっ! でも、エンドリィの『しょうきゅう』まほうをじゅっぱつあてれば、たおせるんだよなっ!?」
小級魔法は極小級魔法の10倍の威力。中級魔法は小級魔法の10倍の威力。
ここだけ考えるならば、そうとも言えるが……。
「だからアナタはバカなんです! モノゴトはそうタンジュンじゃないッ!」
キングゴブリンの大柄で筋骨隆々な肉体とヤツを覆う防具……そう、ゲームでいう『防御力』が関係してくる。
カインの言う通り物事はそう単純でないのだが、あえて簡略化してみるなら……
ヤツのHPが90、防御力が5、小級魔法の威力が10、中級魔法の威力が100だとする。
その場合、小級魔法が与えられるダメージは5。中級魔法が与えられるダメージは95になり……小級魔法でヤツを倒すには18回は当てなければいけないのだ。
これを当たりどころ等考えると……。
「20発は当てないと倒せないかも……!」
「にゃにぃ……!? って、そんなにか!?」
「ええ! それまでボクたちがブジでいられるとおもいますか!?」
「……むりだなっ!!」
走りながらチラッとだけ後ろを振り向く。
うわああああぁぁぁ! 槍を持って凄い形相で追いかけてきてるよぉぉぉぉ!!!
「……分かれ道っ!!」
「みぎだっ!」
「ヒダリですっ!」
こんなときでも相変わらず息が合わない二人だ。
右が山を登る道、左が緩やかな迂回路といった感じだが……!
「……って!」
走りながらどちらにしようか考えていたそのとき、キングゴブリンが右の道へと跳んできた。
「もうヒダリに行くしかありませんっ! いいですねっ!!」
「しかたないなっ!!」
「…………」
オレたちの前に軽々跳べるキングゴブリンに疑問を覚える。だったら何故……。
「またわかれみちだぞっ!! ひだりだっ!」
「いいえ、コンドはミギですッ! ……あっ!」
言い争いが発展する前にキングゴブリンが左の道を塞ぐように跳んだ!
「やっぱりミギに……!」
「……待ってカインさん! 引き返しましょう!!」
オレは一つの解答に辿り着いた。
「にゃっ!? ひきかえすだって!?」
「……ゴブリンの特性を思い出してくださいッ!!」
「……エモノをおいこんでたのしむシギャクセイ!」
そう、明らかに誘導されている。おそらくこの先は行き止まりか……ともすれば。
「もしかしたらこの先にゴブリンの巣があるのかもしれませんッ!!」
「なるほど……! でも、おとなしくもどらせてくれますかね!?」
言いながら立ち止まるカイン。
戻る道は次の分岐路まで一本道だ。容易く塞がれてしまうだろう。
「……それも、そうですね! だから、えっと!」
その先の言葉に詰まる。
できればやりたくないことだから。
「……だから?」
「ふ、二手に別れませんか! 囮と逃げる人に別れて……! お、囮役は私がしますからっ!」
「なにいってるんですかエンドリィ!」
オレだって何を言ってんだって思ってるよ! こえぇよ!!
でもオレは、保護者としてこの子達を護らなければ……ッ!
「わかったわかった! そういうことならみゃーが『おとり』になってやる!」
「ケアフちゃん!?」
「ダメです。なにかやらかしてシッパイするコウケイしかソウゾウできませんっ!」
「にゃんだとぉ!?」
「そもそも、オトリというかんがえは……わっ!?」
「グオオオオオオオオオォォォォッ!!」
左の道の先で待ち構えたキングゴブリンが痺れを切らしたのか叫び出した。
すると、右の道の先からゴブリンがわらわらと現れて。
ならばと振り返れば戻る道にもゴブリンがわらわらと……!
……見事な袋小路だ。
「……ど、どどどどどどうしよう!?」
「こ、こんなの、どうしようもないですよ……!」
「……みゃーにかんがえがある」
「だーかーらー、アナタのかんがえな……」
いつものようにケアフに突っかかろうとするカインだったが、その言葉が止まる。
ケアフの表情がこれまでにないほどに真剣だったからだ。
「エンドリィ、ちょっとみゃーのことをささえててくれ」
「ささ……える?」
「……べ、ベンキョウもできない、マホウもつかえないアナタになにができるというんです」
もたれかかってくるケアフの身体を支えるオレと、問いかけるカイン。
「……みゃーはいまから『とくしゅのうりょく』をつかうっ!」
「……ッ!」
宣言の後、ケアフの体重が重くかかる。
……これは、意識を失ったのか!?
「……いったいどん──ッ!」
ケアフの特殊能力を推測していたカインであったが、キングゴブリンが一跳びしたことで言葉に詰まる。
「あ、わ……!」
オレも驚愕の声をあげる。
何故ならキングゴブリンが戻る道にいたゴブリン達の方へと跳び、数体のゴブリンを踏み潰したからだ!
「こ、これは……」
手に持った大槍でゴブリンを貫くゴブリンキング。
ソレを止めるべく、ゴブリン達が群れで抵抗しようとするが、強大な力で薙ぎ払われる。
「これが、ケアフちゃんの、特殊能力……!?」