2-6 クアドの夜
領主からの使いに予想しない扱いを受ける。
かのえにとってはそれも想定内の出来事であったようだ。
次の目的とは。
かのえの言う通りこのままこの街に居ても良い事なんてないのだろう。
ボクも同じ考えだったし、何よりアッシュさんにも迷惑を掛けてしまいそうだしね。
「とはいえもう夜も近くなってくるでしょう。姫様を野営させる訳には参りません。一晩落ち着ける場所はありませんか」
かのえはアッシュさんに聞くと、ちゃんと案内をしてくれるとのこと。
それにしても不思議なのはアッシュさんである。
紋章官とやらはあんな態度を取ったのにボク達への態度は変えてこない。
他の兵士さんとかは多少なりとも視線の変化はあるにも関わらずである。
うん、ボクは結構こういう人は好きだ。
周りに流されず自分の価値観で生きている人はかっこいいと相場が決まっているんだ。
「姫様参りましょう」
またもボクがひとりで考えを巡らしている間に話しがまとまっていたようだ。
かのえが頼りになり過ぎる!
ボクは次こそと気合を入れてついていく。
アッシュさんに紹介されたのは営舎近くの宿屋だった。
何かあればすぐに対応できるし、そこそこご飯も美味しいという事でここになったらしい。
「それでは朝に宿の主人へモレナに滞在している上官への紹介状も渡しておきますのでお受け取り下さい」
アッシュさんは「失礼致します」と言って宿から離れていった。
お代や交渉もしてくれたので本当にありがたい事である。
何かお礼がしたいな。
ボク達は宿の主人に勧められて部屋に案内されてそこで食事を摂ることになった。
「二人とも今日の出来事ってどう思う?」
食事も済ませて落ち着いた頃にかのえとバドロスへ今日のことを聞いてみたいと思った。
バドロスはかのえに視線を送り、ボクの方へと戻す。
「姫様、本日のことですがある程度予想はしていたのです」
道中の会話でアッシュさんから聞いてたことや兵士の様子などから察していたので、事前にかのえと相談していた行動に移したとのだった。
「ただあそこまで無礼な対応をされるとは思いませんでしたので、かのえ殿の言葉がなければ彼の者を打ち首に処していたかもしれませんな」
やっぱり怖い事を考えていたようだ。
「バドロスだめだよ。ボク達の居た世界と同じかどうかも分からないんだから、それにボクはそこまでして欲しくはないかな」
今後のことも考えて釘を刺しておこう。
昔からバドロスはボクに甘いから、ボクに関する事は過剰に反応してしまうことがあるからね。
「分かりました。後はアッシュ殿のことですがあれは良く出来た者です。我が騎士団があれば新米から推薦しても良いかもしれません」
どうもバドロスもアッシュさんには好意的なようだ。
「あれくらいは当然です。姫様の威光を間近で見てあの程度の対応はして当たり前なのです」
かのえとしてはあれで当たり前なんだ・・・。
その後で少し今後の方針を決めていったのだけど、ボクがこくりと舟をこぎ始めるとかのえから後はバドロスと話しておくので寝て下さいと言われてしまった。
こうなるとかのえは引いてくれないし、ボクも我慢しても我がままになってしまうので大人しくすることにした。
明日は明日で何とでもなる。
二人と一緒ならそう思えるからボクは前を向いていけるんだ。
それしか出来ないんだけどね!
それじゃあ、おやすみなさーい。