2-4 慕情と諦観 ※アッシュ視点
クアドに到達。
今後の展望に思いを膨らませて気合を入れるミズキ。
領主様へ報告を上げに走っていく中でオレは先程までのやり取りを思い返していた。
「バドロス、威圧を収めなさい。その方らと話しをしてみたく思います」
森の中における突然の会合、そして威嚇。
更には思ってもいなかったところに女性の声が響いた。
いや、女性というより少女といった方が近しいかもしれない。
ただ一つ言えるのは、この声を聞けば誰だって聞き惚れてしまうんじゃないかってことだ。
「わたくしの護衛が礼を逸したようですね。この者はバドロス、その方らに無暗に危害を与えることはありません。楽にして構いませんよ」
鈴の音がなる声って言葉は聞いたことがあったが実際に聞くと脳が蕩けてしまうのだろう。
この感情も落ち着いてから思いついたのだから、続くその後の言葉に対応できてたのは日頃から堅物と言われ続けてきたからこその反射だったと思う。
歳も35を過ぎたオレが言うのは憚れるが、姫様と呼ばれていた貴人は少なくとも平民ではあり得ない。
衣装についても高級さが伺えるし、所作だって良いとこの商家の娘なんぞ相手にならないほどに洗練されている、と思う。
王侯貴族なんて会える立場ではないから予想でしかないが・・・。
何よりそのお姿から後光がさしているように見えたのだ。
そんな方が王族だと言われればオレのような平民は、「はい、分かりました」としか言いようがない。
そのような方を歩かせて街まで案内するのも悩んだのだがお付きの女性も護衛騎士らしき男性も文句を言わないので、可能な限り退屈させない様にと話題を考えて話すのは非常に疲れた。
それも領主様に報告を上げさえすれば後は上役が何とかするだろう。
つまり姫様をお会いすることはもうない。
若い連中ならいざ知らず、この年で少女に見惚れるなどどうかしている。
街中で騒ぎにならぬように渡したロープをいそいそと被る姿も可愛らしかった。
ああ、だめだ。
今日はもう仕事にならぬだろう。
帰っていつもの酒場でいつも以上に飲もう。
そして今日のことを忘れてまたいつもの日々を過ごすのだ。
オレはただの兵士だからな。