2-2 赤毛の隊長との会合
クアドの街のアッシュ登場。
彼の視点で語られるバドロスの風貌。
突然の会合に戸惑い焦るアッシュに掛けられた声とは。
「バドロス、威圧を収めなさい。その方らと話しをしてみたく思います」
ボクはお腹に力を込めて良く通るように、されど大声にはならぬように気を付けて声を通す。
こんな発声方法なんの役に立つかと思って受けていた王族教育には感謝しておこうかな。
「はっ!」
否とも遮ることもせずバドロスはその場から少し離れて首を垂れる。
その立ち振る舞いを見てバドロスも過去の経験を自身のものとして使える様で安心した。
これならどんな悪意や障害からも護ってくれると信じられるから。
さてっと、それではかのえの提案通りに事を進めよう!
心に仮面を被り、いつも通り王女として対応してみせましょう。
「わたくしの護衛が礼を逸したようですね。この者はバドロス、その方らに無暗に危害を与えることはありません。楽にして構いませんよ」
本当はごめんなさいって謝りたい!
それをするとボク等としては立場が弱くなるからしてはいけないんだ。
でも・・・これちょっと、うん、楽しいかも。
でもさ、相手の人固まってない?
おーい、ここで何か言ってくれなきゃ話が進められないでしょ!?
「姫様の御前であります。兵ならば礼を尽くしなさい」
混乱気味のボクの横からかのえが咎める。
その声にぴしりと止まっていた先程まで話してた赤毛の人がビクリと動いた。
バドロスもそれに反応しているようだけどこちらは一切動いていない。
「は、ははっ!失礼致しました」
そう言って赤毛の人が慌てて膝をつく。
他の人達より装備が立派だし、この人が部隊の隊長さんかな?
今度はその赤毛さんに指示されて他の人達も膝をついていく。
うん、たぶんそうに違いない。
「姫様がその方に聞きたい事があるとのこと、直答を許します」
かのえが赤毛の人に向けて声を掛けてくれ、場を整えてくれた。
ボクとかのえの視線が合わさって「もう良いですよ」と教えてくれる。
「その方、いえ、まずはお名前を聞かせて頂けますか」
赤毛の人は頭を下げたまま「アッシュと申します」と強張った声で返答をする。
なんだろう、過去でもこういう経験あったけれどここまで緊張されたことはなかった気がする。
最初に脅かし過ぎたせいかな?
「そう、ではアッシュ。貴方の所属と目的を話しなさい」
こうして幾つかの質問を交えて情報を集めていく。
まずこの森の外にはクアドという領主が治める街があること。
クアドの前にオレニアって言ってたからそれが国の名前なんだろう。
アッシュさんは衛兵分隊長であること。
他にも小さな情報は手に入ったけれど、元々かのえからどこの国かだけ聞ければそれで良しって聞いてたからこれで十分だと思う。
頃合いだという事でかのえに場を仕切って貰う。
これでボクの役割はほぼ終わったからね!
「アッシュ分隊長、貴殿に姫様をクアドまでの道案内を望みます」
「はっ、かしこまりました。ただ」
そう言ってアッシュさんは言葉に詰まる。
「構いません。所感を述べなさい」
「はっ、ご無礼を承知で申し上げます。わたくしめでは貴人の方々がどこからいらしたのか皆目見当も尽きません。その為、何か身分を証明頂けるものがあれば、と」
あ、やばい。
いまのボクってそういうの持っていたっけと考えようとした瞬間にバドロスがさっと立ち上がる。
「ほう、姫様を知らぬと言うか。アーレスティアの威光が届かぬ場所があったとは嘆かわしい」
「まさかアーレスティアもご存じないとは言いませんね?」
バドロスに続いてかのえも畳みかけるように声を掛ける。
待って、この展開はボク聞いてないんだけど・・・。
困惑するボクを置いて状況は変化し続ける。
アッシュさんは物凄い焦った様子でしどろもどろになりながらも弁明をしている。
「つまり貴殿では判断が出来ぬという事ですよね。それであれば分かるものを連れてきなさい」
かのえ、それ無茶ぶりが過ぎない?
だってこの世界とボク達の世界が一緒かどうか分からない・・・あっ、そっか。
それを確認するためのやり取りだったんだ。
ボクがぼーっと考え事をしているうちに二人がアッシュさんを言いくるめて近場の街まで連れて行ってくれることになった。
なんていうか、うちの二人が本当ごめんなさい。