2-1 響き渡る轟音 ※アッシュ視点
過去との決別を決めたミズキ達。
現在を生きていく決意を新たにする。
そこでかのえが考えた提案とは。
今日も門を通過する人々を検査していく日々である。
そう、思っていた。
「アッシュ隊長。少しお耳に入れたい事があります」
部下が規律良く敬礼をして報告を上げてきた。
狩人の一人が今日の南の森は何かがおかしいと言うのだ。
報告は密に行えと常々指導している手前でこう言ってはなんだが、何かがおかしいというだけでどう判断を下せば良いと言うのだ。
「それで何がおかしいと感じているのか」
狩人はハッキリした事が分からないが動物達が殺気立って動いていると言い、歩いて2,3時間ほどの辺りで何かしらの光を連続して見たとの事だった。
ふむ、光については分からないが森の動物達が殺気立っているだと?
それが本当だとしたら町を出る者達に注意喚起をせねばならんな。
「証言については一人だけか?他の者からの報告はないか調べてみろ」
部下に指示を下した時だった。
ガッガガガーーーン!!!
突如、雷が落ちたような凄まじい音と光が鳴り響いた。
奇しくもそちらは先程の話しがあった南の森であったと思われた。
すぐに異変を感じ取った狩人を南門に呼ぶよう傍に居た部下に命令を下し、もう一人の門兵にも衛兵30名を南門へ向かわせる事とオレの代わりの門兵を手配するように兵舎へ走らせる。
一体何なのだという思いを胸にどうするべきか考えざるを得なかった。
南門から衛兵と狩人を連れて音が落ちたと思われる方へ進んでいく。
衛兵を30名連れているといえど、音の発生源が何かも、明確な場所さえも分からないとは情報が不足過ぎて不安にもなるというものだ。
それも森に近づけば次第に解消されていった。
森の外からも見える黒煙と木々が燃えた臭いがしてきたからである。
「森に入る前に装備の点検をする。狩人殿は黒煙の位置を把握できるか」
聞けば狩人は若いながらもしっかりとしており問題はないとの事だった。
これでただの雷でしたというのであれば始末書を少し書けば良いだけなのだが・・・。
分隊に全周警戒の指示を出し森の中へと入っていく。
そしてついに黒煙が上がる場所まであと一息というところで、雄々しく背筋が伸びるような声が分隊を突き抜けてきた。
「止まれい、それ以上は近寄ることまかりならぬ!」
木々の間から見えたのは身の丈ほどある大剣を手にした甲冑姿の大男であった。
威容は凄まじく思わずオレは身体を硬直させてしまった。
「再度警告を行う。それ以上近寄るならば我が相手となろうぞ」
先程より幾分か落ち着いている分、その本気度は高まるばかりの相手に思わず声が上擦ってしまう。
「ま、待って欲しい。我々は危害を加えるべく行軍していたのではないのです」
思わず敬語になってしまったが誰に咎められようか。
周りの部下なぞ腰が抜けているものも居るのだ。
「こちらで凄まじい音を聞き、住民が不安を感じたので調査に着た次第なのです」
既に陣形は崩れ相手にするにもオレの前に居た部下は及び腰やら尻もちを付いているやらで時間を稼がねばなるまい。
それを置いても到底制圧が出来ないと思わされる相手なのだ。
簡潔に述べよう。
オレはいま非常にビビっている。
「ふむ、凄まじい音とは聞いておらぬがそれはまことか」
「え、あ、はい。間違いなくクアドの街中に響き渡るほどのものかと」
「街中である、か」
呟くように反芻する様は何かを考えているようだった。
部下に早く立ち直れと心の中で念じつつも何とか会話で時間を稼げないかとオレの頭の中はいっぱいだった。
考える素振りを見せる相手とこちらとで硬直を見せる間にまたも別の声が通る。
「バドロス、威圧を収めなさい。その方らと話しをしてみたく思います」
「はっ!」
そしてオレは運命の出会いをしたのだった。