1-3 過去はもう振り返らない
三人の素性が発覚。
ミズキとしての意識を取り戻して今後の方策を練っていく。
三人寄れば文殊の知恵とは良く言ったものである。
全員中の人が同じ部分があるというのは基本的な方針を決める際には非常にやりやすいという稀有な経験も得た。
普通に生活して居れば自己が三人も居るなんてあり得ないからね!
まず一つ、何が出来るのか。
ボク達にとっての過去、つまるところゲーム内で出来てた事は全て出来た。
大型魔法とかは怖いので使わなかったけれどもこの身体が覚えているようだ。
その辺りは必要があれば都度確認していけば良いのではないかというのが基本的なスタンスである。
次に現実として感じていたボクとゲームとして動かしていた”オレ”の差異についても少しだけ分かった事がある。
例えば女性としての振る舞い。
当然”オレ”にそんな経験はないし、勉強したこともない。
それでもボクはボクである。
16年間過ごしてきた記憶がある身としては女性としての動きは当然出来る。
その中に男性としての感性が少し混じっている感覚になるのだろうか。
大雑把ではあるけれど、目標というか何を主体として動くか。
これは非常に悩んだ。
ボクとしては戻りたい。
ただ”オレ”の中ではゲームのひとつのイベントが終わった程度の感覚だからである。
だからこそ選ぶ必要があった。
ボクとして生きるか、”オレ”を受け入れてボクとして生きるか。
結論から言えば”オレ”を受け入れてボクとして生きる事にした。
同じ魔法を使えたとして、戻ったところで何が出来るのかというのが一番大きな課題だった。
だってそうだろう?
ボク達より凄い人達が大勢居て、それでも『何も出来なくなったから逃げるしかなかった』そんな状況でボク達が戻っても何が出来るというのか。
過去にするにはまだ辛い事実ではあるけれど、過去にしなければどこかでその重みに潰されるとバドロスから言われたのはボクが未熟だからだろうか。
かのえにもバドロスにも大切な人が居るのに、そんな事を言わせてしまうボクが情けなかった。
少し卑怯かもしれないけれど”オレ”のせいにして楽観的に前を向いて行く事に決めた。
そして最後にいまからをどうするか。
これについてはボクの意見を押し通した感じだった。
もうあんな辛い思いを誰かにさせたくない。
この世界が同じ世界なのかも分からないけれど、争いや悲劇はきっとどこにでも生まれてくるんだ。
だからこそボク達が手を伸ばせる範囲で解決していきたい!!!
傲慢かもしれないけれど二人には賛同して貰えた。
”オレ”の意識がまだ強く残ってるから気恥ずかしい発言だったと思うけれど受け入れて貰えて本当に嬉しかったんだ。
というわけで、直前の問題というかこれが本当にどうするかっていうことなのだけど・・・。
この世界、そして森ってどうなってるんだろう。
二人と話してた時間は割りと経ってるはずだ。
それでも明るいってことはまだ昼間か、物語的にたまにある夜が無い世界なのか。
うん、いまは昼間という事にしておこう。
だってお腹が空いてきてるんだもの!
「ねえ、かのえ。何か食べられるもの準備できないかな?」
「そうですね。クラフト系はわたくしの倉庫に幾つか入っていたので取り出してみましょうか」
そう言ってかのえが空中を触れる動きをする。
ほどなくして見慣れた料理がお皿に乗った状態で空中から出てくる。
これってボクにとっては当たり前なのだけれど、”オレ”の感覚からすれば魔法だ!インベントリだ!と騒ぎだしたくなる。
「やっぱり味も変わらないね。すっごく美味しい!」
「ふふ、姫ちゃんの事は良く分かってるもの」
可愛らしくウィンクをするかのえは本当に様になってて羨ましい!
これでボクの少し上だっていうのだから、色気というものはまだ良く分からない。
ちなみにバドロスは黙って食べてる。
ボクとかのえがわいわいと話しながら食べ終えたのを見計らっていたのかバドロスから声が上がった。
「姫様、少しだけ目を瞑っていて下さい。かのえ頼むぞ」
いうが早いかバドロスはさっと茂みの中に飛び込んでいく。
ボクはと言えば言われた通りに目を瞑って大人しくしている。
そうしているうちに小さな、本当に小さな動物の声が聞こえたと思ったらバドロスが戻ってきていた。
「ただの狼だったようです。これだけを見れば我らと同じか同等の世界なのかもしれません」
何気なく話してるけどバドロスの中の”オレ”ってどうなってるの?
そこのところめっちゃ知りたいんですけど!
前のことを考えれば一戸建てくらいある魔獣を一人で倒してたから分かるんだけど・・・。
ボクにも出来るのかな?
ま、いっか!
むそーとかも興味あるけれど、いまこの状況をどうしようかと考えようとしたところで今度はかのえが声を掛けてくる。
「姫ちゃん、今後の動きについて少し試したい事があるの」