1-2 オレはボクで
オレは気が付いたら森の中に居た。
他にも二人居たもののお互いに混乱しているようだ。
そこで自己紹介を兼ねて名前を交換することになったのだった。
「あのそれであればお互いに名前を交換しませんか。話し合うにも不便ですし」
後にして思えばあの一言が良かった。
人生とは何がきっかけになるか本当に分からないものである。
「そうですね。わたしもそれに賛同します」
男性も続いてくれた事で女性の方もゆっくりと頷いて貰えたようだった。
しかし、オレは本名を言う気はない。
目の前のは二人は曲がりなりにも”いまのわたし”であるオレを知ってるようなのだ。
それならば本名ではなくその時の名前を伝えれば何か反応を引き出せると思ったからである。
だから、オレはこの名前を出した。
「「「わたしの名前は〇〇〇です」」」
は?
は??
「「「そんなはず・・・っ」」」
ええーーー?
被るはずがない!
だってあなた達のキャラクター名は!!!
「かのえ、バドロスでは!?」
「ミズキ、かのえでは!?」
「ミズキ、バドロスでは!?」
三人がそれぞれ二人の名前を叫んだ。
その瞬間にフラッシュバックするように記憶の奔流に意識が飲まれそうになった。
小さな頃からバドロスに護衛されていたこと。
物心ついた頃にはかのえと草原で遊びまわっていたこと。
父王と母上に愛され、自由を許されて冒険を繰り返していたこと。
そして・・・そして・・・国を滅ぼさんとする黒い軍勢から逃げ出したこと。
意識がはっきりしてきた頃に二人を見ると安心を感じられるようになっていたのだ。
ああ、ああ、そうだ。
オレは〇〇〇で、ボクはミズキで、あのイベントが、襲撃から民を守る事ができなくて・・・。
ボクは最後まで戦って皆と死にたかった。
だけど周りは許してくれなくて魔法で逃げたんだ。
オレはイベントがクリア出来なくて仲間達とリスポーン地点に戻ろうと話してたんだ。
そしたら意識がふっと途切れる感じがあったんだ。
そしてオレは、ボクは、泣き出した。
そこからの展開は早かった。
ボクの記憶は戻ったし、”オレ”の意識はちゃんとある。
目の前の二人はボクの絶対的な味方である。
かのえは龍人と言えば伝わりやすいだろうか。
見た目は”オレ”の良く知る人間の女性なのだけど実際は大きな龍なのだ。
そしてボクの友達なのだから。
バドロスは人狼と言えばいいだろうか。
こちらも本来は二足歩行の大きな狼なのだけど人間にもなれる。
そしてボクの護衛騎士なのである。
二人とも同じように記憶を取り戻しているようで、話しをまとめていくとやはり同じところで意識が途切れていた事が分かった。
つまりボク達は無事に逃げ切れてしまったのであろう。
守りたい民を残し、愛した家族を置いて、三人だけでどこか分からない場所に。
泣きたい気持ちはまだある。
ボクだけならきっと立ち直れなかったはずだから二人が居てくれる事が本当に嬉しかった。
でも、それでも・・・。
なんで”オレ”まで引っ張られているの!?
これが分からない!
しかも”オレ”の意識は他の二人にもあるようで名前を呼ばれるまでは自身こそが”オレ”だと思ってたとのこと。
という事は”オレ”はボクで、かのえで、バドロスなのだ。
・・・うん、訳が分からない。
ちなみにボクの容姿は”オレ”が娘にするとしたらこんな子が良いという属性もりもりになっているので、金髪セミロングで碧眼、身長は平均よりちょい低め、胸は・・・うん、平均よりあるんじゃないかな?
さらにエルフが大好きって事で耳も細長く横に伸びているらしい。
ボクは知りたくなかったよ、そんな事実・・・。
ずっとエルフというかボク達の特徴とばかりに思ってたからね。
ある意味創造主の意図が見えて驚きというか、生みの親って父様と母上じゃなかったのかって悩みたいところであるんだけど!
かのえもバドロスもこっちを見て判断を待ってくれてる。
三人とも”オレ”のままだったらどうなったのか分からないけれど、ボク達はボク達なのだから現状唯一の王族で主人でもあるボクが方向性を決めなければならないからだ。
”オレ”の得意技は棚上げ、楽観主義。
ボクが出来る事は出来る人に頼ること。
もうどうしようもなくなったゲームの結果より今を生きよう。
だったらどうするか。
うん、二人ともどうしよっか?