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16話 vsラングレット:中

「ッ、あっ……」


 口から多量の血を吐き出すリオンは、苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。


「愚か者め。この程度で俺が死ぬとでも思ったか」


「その、力……あなた稀血(まれち)を……」


「略奪者と語ることはない」


 刹那、俺は考えるより早くラングレットの腕を掴んだ。


「ん?」


「その薄汚い手を離せっ!」


「不調法者が。誰の許しを得て俺の腕に触れている」


 次いで、意識が覚醒したのはラングレットに蹴りを入れられて、吹き飛んだ痛みを感じた時だった。瓦礫に衝突した際、手元に何かが触れたので拾い上げると、それはカラス色のローブの切れ端と、人体構造上の腕と呼ばれるものだった。リオンを刺し不敵に笑うラングレットは、ついさっきまで存在していたはずの左腕の先が喪失していた。


 瓦礫に埋もれる俺を、カラス色の男が睨んだ。


「羽虫も無限に湧けば厄介だ。喜べ〈血皇再生〉のガキ。お前の心が壊れるまで、俺がお前と遊んでやる」


 言い終えて、ラングレットはリオンを足蹴りした。


 闇色の剣が腹に突き刺さったままのリオンは床に伏し、紅蓮の瞳を救難信号のように明滅させている。


 一歩。また一歩。ラングレットが俺に近づく。


 やがて再生を終えた俺を見下したラングレットは、腕と対照的にまだ二本生えている脚の片方を振り上げた。


「がっ、あ!?」


 胃か、肝臓か、肺か。ともかく臓器が潰れた感覚を味わった。


 すぐに再生するも、見計らっていたかのようにラングレットが口角を上げる。そして二発目。三発目。四発目。


 無限に続くようにも思える地獄に、俺は意識が遠のいていった。


 ……死なないのに、死ぬより辛い。それならもう、消えてしまいたい。


 意識が遠のく。意思が綻ぶ。俺が俺として成り立っていた何かが崩れ去る。


 薄い意識の中、まるで白馬の王子を待つ少女のような妄想が頭に広がった。


 ……もし奴隷のプロでも手に負えない問題を、解決すべく颯爽と現れるヒーローがいたのなら。まぁ、俺はそいつに生涯を捧げるよう検討するだろうな。


 そして、七発目。心が壊れるほどの一撃を覚悟するが、一向にあの脚が振り上げられることはなかった。


「〈血操大帝:血縄〉」


「リオンっ! お前……」


 リオンは蒼銀の川を湾曲させ、また紅蓮の瞳を虚ろに灯していた。とうに限界を超えている。それは火を見るよりも明らかだった。それでもリオンは立っている。暗黒の剣に刺された腹から溢れる血を縄にして、ラングレットの脚を絡め取っている。


「ラーズから、離れなさい、こ、この愚か者……」


「…………」


 ラングレットは口をつぐんだまま、血の縄を黒い風で切り裂いた。次いで、足早にリオンの元へと駆け寄っていく。まだ再生が終わっていない俺は立ち上がることすらできない。


「動けよ、くそっ!」


 刹那、視界の端に血飛沫が映った。


 出所は、リオンの腹。原因は、ラングレットが闇色の剣をさらに深く押し込んだことによる大量失血。


「リオンっ!」


 再生しきっていない身体で、ふらつく足で、主人の元へ駆け寄る。俺とリオンの間に立つカラス色の男が邪魔だ。ならば、どかせるのみ。


「喚くなウジ虫」


「どけクソ野郎がっ!」


「むっ!?」


 黒い風が射出されるのはカラス色のコートから。ならばラングレットの正面に立てば、至近距離では風の弾丸も刃も当たることはない。


「だあっ!」


 全体重を乗せたタックルはラングレットを瓦礫と死体の山へと突き飛ばした。だがそんなことはどうだっていい。とにかく今は、主人の手当が先だ。


「リオン、おいリオンしっかりしろ!」


 リオンの体を持ち上げ、意識の覚醒を期待して揺らす。その時ハッと気がついた。彼女の体が、異常なまでに軽いことに。


 まるで命が、魂が、リオンの体から抜き取られたように。


 焦る俺の手に、淑やかな指が重ねられた。


「だ、大丈夫よ、ラーズ。吸血鬼は、この程度で、は、し、死なないわ」


「どこがだよ! 声が震えているじゃないか!」


「ねぇラーズ、わがままな主人のお願い、聴いてくれる?」


「なんでも言ってくれ。主人に救われた奴隷の命だ。ここで返さなくて、奴隷のプロなんて名乗れるかよ」


 俺の言葉にリオンは優しく微笑んだ。その笑みが最後のような気がして、腹の奥から切なさが捩れるような不快さを伴って登ってくる。しかし、リオンの言葉ひとつひとつを逃さないために、喉元へしまい込んだ。


「この剣、を、抜いてくれる?」

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