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11話 対吸血鬼訓練

 剣を構えるリオンと向き合って、呼吸を整える。彼女の主張は一理ある。奴隷としてリオンに仕える限り、吸血鬼とのゴタゴタに巻き込まれる可能性は大いにあるのだから。その時になって役に立つべきは、奴隷である俺だ。


 そして俺は、そんじょそこらの奴隷ではない。数々の死戦を潜り抜けた奴隷のプロなのだ。


「……行くわよ」


「来い!」


 吸血鬼は一つの動作で、人間の五動作ほどの結果を残す。もうすでにリオンは俺の懐に潜りこんでいた。


 それはあの夜に見た技だ。一度見ていれば、対応も可能になる。俺は右足を振り上げ、膝の関節部をリオンの顔面に強打させた。


 ……だが、手応えに違和感があった。人間の顔面の硬さではなかったのだ。


「〈血操大帝:血盾>」


「血で盾を!?」


 リオンは顔面の前に血で作った盾を張って防御したらしい。


 驚愕したのも束の間、俺の腹に激烈なる一撃が入った。体ごと吹き飛び、リオン邸の石壁に激突する。腹も背も軋むように痛い。内臓もいくつか破裂しただろう。子供が作った出来の悪い綿人形のように、俺の体は歪な造形になってしまった。


 残酷なくらいに早く、俺の体は修復した。苦痛の終わりは、新たな苦痛を迎えるための道程にすぎない。


「まだやれるわよね?」


「……当たり前だ。やられっぱなしで黙っていられるか」


 相手は人外。人間の力で勝てる相手ではない。


 ただし俺だってただの人間ではない。再生能力を持った化け物の一人だ。だから俺は眼光鋭くリオンを捉えた。


「今度は俺から行くぞ」


 草むらを蹴り上げる。加速した体は、勢いそのままに蒼銀へと向かっていく。


「直線的すぎる……」


 リオンは指導したつもりなのだろう。だがこれは、一矢報いるための蛮勇だ。


 人間が化け物に勝つならどうするか。そう尋ねられて素手で戦うと答える愚か者はいないだろう。それは俺も同じだった。


 駆ける途中、俺は銀色に輝くそれを手に取った。


「だあっ!」


「うっっ!」


 振い上げたそれはたくさんの布を連れてリオンの視界を奪う。また鉄でできたその棒は重く、打撃武器としても有効的であった。


 物干し竿。それはどこの家庭にでもあり、化け物に対抗でき得る日用品。


「小賢しいわねっ!」


「でも詰めたぜ」


「なっ!?」


 俺だって踏んできた場数が一般人とは違う。困惑する相手に漬け込んで俺の間合いに入れるのは簡単だった。


 瞬間。俺は拳をリオンの腹に殴り入れた。華奢な体は浮くように吹き飛び、彼女は初めてダメージらしいダメージを負った。


「痛ったぁ!」


「大丈夫か?」


「もう、女の子相手なんだから手加減して欲しいわね」


「そっちこそ、人間相手なんだから手加減してくれよ」


 俺は尻餅をついているリオンに手を伸ばした。彼女は俺の手を取り、ゆっくりと立ち上がる。


「明日からも毎日訓練をするわよ。まずは吸血鬼の速さに慣れること。いいわね?」


「そうだな。正直言って、目で追うことすらできなかった」


 俺とリオンの間にある、圧倒的種族格差。それを埋めるには地味にコツコツと経験を積み上げていくしかないだろう。

 不意にぐぅ、と腹の虫が鳴った。しどけない音はリオンの腹から響いたものだった。


「そろそろ昼飯どきだな。今日はライスをケチャップで炒めてチキンを入れたレストランメニューだぞ」


「もういじわる! 余計にお腹が鳴っちゃうでしょ!」


 リオンは頬を瞳の十分の一くらいの濃さで染め上げた。


「……って、まずは洗濯物を回収しないとだな」


 持ち上げたドレスやガーリーな服には芝がごっそりと付着していた。


 昼食後の仕事が一つ増えたのは言うまでもない。

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