96 初詣へ
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「月の自転は……」
ド深夜、という程では無いけど夜。俺のばあちゃんちで白狼家と年越しそばを食べたあと、綾ちゃんが優來に勉強を教えてくれている。
「綾ちゃん教えるの上手いね」
「私、天体の話は得意だから」
「さすが狼女」
「褒め言葉に聞こえないなー」
というか、何故俺たちはここに残されているんだろう。父さん達に、しばらく勉強するなりして待ってろと、言われてここにいるけど、なんのために残されてるんだ。
「やあ、君たちまたせたな、いや待たせすぎたかもしれない」
襖を勢いよく開けた綾ちゃんのお父さんが、テレビの司会のような感じで部屋に入ってきた。
「お父さん、なに?胡散臭いセリフ言って」
「今のは冗談だ、よし行くぞ皆の衆」
「冗談じゃなかったの?で、行くってどこに?」
絶妙に胡散臭い言い回しが抜けない綾ちゃんのお父さんに、何をしに行くのか尋ねる綾ちゃん。
「決まってるだろ、初詣だ。さあ、行こう」
行こうとだけ言って、速攻で踵を返すお父さん。
「ちょ、ちょっとまって急すぎない?」
「急も何も、優來ちゃん今年受験なんだから、当たり前だろ」
多分綾ちゃんの言いたい、急は、唐突すぎる的な話だと思うんだけど。
「じゃあなんで、今からなの?」
「俺とあいつが、初日の出が見たいから」
「しょうもない……」
お父さんの口から出た理由に、綾ちゃんはあきれ声とともに頭を抱えた。
つまりは、父さんと綾ちゃんのお父さんの都合で、この遅い時間から、そこそこ遠いであろう神社に行くってことか。
「というか、女性陣は早く来なよ、浴衣あるから」
「え?浴衣あんの?いつの間に」
「娘のいい姿は見たいからな、用意周到さ」
その、娘を溺愛してるとこは、父さんも綾ちゃんのお父さんも同じなんだな。さすが、幼馴染と言ったとこか。
「だから、2人は早く着替えに行った、行った」
「はいはい、じゃあ行こうか優來ちゃん」
渋々と言った感じで綾ちゃんは、立ち上がって優來を連れていった。
「それじゃあ、俺もリビングの方に」
「ちょっと待ってくれよ、優くん。おじさんと、話をしようじゃないか」
「は、はあ……」
俺もリビングで少し準備をしようと、立ち上がろうとしたら、綾ちゃんのお父さんに止められた。
そして、綾ちゃんのお父さんは、俺の前にそのまま座り込んだ。
「それで、話というのは……」
「ほんとにすぐ終わる事だ。君に、許可を与えようと思ってね」
「きょ、許可?」
なんだ、思ってたよりすぐ終わりそうだし、面倒でもなさそうだな。
「そう、君に娘と付き合う許可をさずけよう」
「おっふ……」
やっぱ綾ちゃんのお父さんも、刈谷さんのお父さん同様許可制なのか。にしても、タイミングが唐突すぎるけど。
「君なら、あいつの息子だし任せられる。まあ、これはただの許可だから、付き合うか付き合わないかは、君の自由だ」
「そ、そうですか……」
なんか、綾ちゃんのお父さん、刈谷さんのお父さんと、黒嶺さんのお父さんの悪いとこを良くして足したみたいな感じだな。
「ま、それだけだから。さ、リビングに行こう」
よもや、付き合う許可をだしたとは思えなくらい、軽い感じで部屋を出ていく綾ちゃんのお父さん。
俺は、唐突すぎて頭の中の考えがうまくまとまらない。
「お、きたきた」
「どうかな?優くん、似合ってる?」
「似合ってるんじゃないかな」
防寒着を上に来て、車の前で待っていると、浴衣に着替えた優來と、綾ちゃんがやってきた。
そして俺は、さっきのお付き合い許可の言葉が絶妙に引っかかって、綾ちゃんが絶妙に気になる。もしや、それが狙いか、お義父さん。
「私、わ?」
「優來も似合ってるぞ、寒くないか?」
「大丈夫」
「それなら良かった」
そういや、浴衣で思い出したけど、俺あと4人(+1人可能性有)から、浴衣の写真送れてくるんだった。
今、目の前にいる2人の浴衣はめっちゃ、2人に似合ってるし、他4人(+1人可能性有)がさらに楽しみになるな。
「じゃあ、全員揃ったし移動するか。運転は俺がするから」
そう言ってうちの車ではなく、綾ちゃんちの車の前に立つ父さん。
「うちの車なのに、お父さんは運転しないの?」
「俺は酒飲んだから、できるわけが無いだろー」
ははは、と声を出しながら笑ったお父さんは、そのまま車の助っ席に乗り込んで行った。
おいまて、さっきの唐突な許可は心からの話じゃない可能性が出てきたぞ。
「さあ、行くぞー」
「母さんは?」
「眠くなるからパスだって」
「こっちもそんな感じだ」
綾ちゃんのお母さんは、わかんないけど、母さんに関しては、意外だなウッキウキで着いてく気そうなものなのに。
「そういう事だから、早く乗りな寒いだろ」
「はい、運転お願いします」
父さん達は前の席、俺や綾ちゃん、優來は後ろの席に座って、ついに神社へ向かう車が動き出した。
「優來、眠いのか?」
「うん……」
車が動きたじてすぐ、優來がうとうとし始めた、本人に聞くと実際眠いみたいで、声が超小さい。
「寝てていいぞ、着いたら起こすし。俺も寝るかもだけど」
「わかった……」
そういった優來は、力尽きた騎士のように体から一気に力が抜け、寝る体勢に入った。
「早いな」
「そういや、神社ってどのくらいで着くの?」
優來が眠る姿を見届けた綾ちゃんが、前の席に顔を出して父さん達に尋ねる。
「えっとな、だいたい1時間ぐらい?」
「いや、1時間半じゃないか?」
「どっちでもいいよ……」
どっちにしろ、そこそこ遠いって事だ。俺も寝ようかな。
「でも、わざわざ行くってことは、学業の神社なんでしょ?」
「いや、普通に農業とか、漁業のだった気がするぞ」
「じゃあなんで行くの」
「だから言ったろ、俺たちが見に行きたいからだって」
そう言って、前の席に座る父さん達は、ケタケタ笑っている。
そこは建前で、みたいな感じだったらどれほど良かったことか。
「て言っても、俺達もそこで受験の願掛けしに行ったからな」
「おお、懐かしいな」
「あの時は……」
一応、2人にとっても思い出の場所ではあるみたいで、急に昔の笑い話を始めた前席2人。
「優くんのお父さん、お酒飲んでないんだよね?」
「多分、実際酒飲むとこれより酷くなるし」
「えぇ……」
綾ちゃんがそう聞くのは分からなくは無い。なんせ、2人とも会話がシラフっぽくない。
父さんに関しては、酒を飲んでいる綾ちゃんのお父さんにつられてる、のだと信じたい。
「まあ、2人とも楽しそうだしいいんじゃない?」
「そうかなぁ」
前席2人の笑い話をラジオのように聞きながら、目的の神社まで静かに待つこととなった。




