91 夜這いガールと晩食
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「ごめんね、お母さん手伝うよ」
服を着た刈谷さんが、台所で作業をしている刈谷さんのお母さんの方へ行って、手を洗い始めた。
「あら、早かったわね、お楽しみは終わっ……ああ。梶谷くんちょっと」
「はい?」
何か納得した反応を見せた、お母さんが俺の事を呼んだため、俺も台所の方へ向かう。
「梶谷くん、気持ちよかった?」
「ん?えっと、それは……」
「大丈夫、気にしないで、早く終わっちゃったのは、心にくるかもだけど、まだ人生長いから。テクをみがきなさい、テクを」
俺の両肩を掴んで、謎の励ましの声をかけてくるお母さん。
「は、早く終わる?」
とぼけてる訳じゃないんだけど、全く話のスジが見えない。
「ああ、ごめなさい気にしてた?大丈夫だって、お互いが気持ちいいなら、それで十分なんだから。あ、ちゃんと防御はしたのよね」
「そういうことか……」
つまり、お母さんは俺の力不足で刈谷さんとの、行為が早く終わったと思ったのか。
てか、ほんとにこの人なんなんだよ。さすが、刈谷さんの母と言えばいいのか、よもや人の子の親とは思えんレベルで、性に干渉してくるな。
「だから、落ち込まないでね。がんばって」
「俺は無実なんです……」
一応お母さんは、配慮してくれてるのか、刈谷さんのお父さんには聞こえないぐらいの声で俺を励ましてくれている。
あまりにも、空振りな話しすぎるけど。
「お母さん、もう温め始めていい?」
「ちょっと待って。まあ、梶谷くん今日のことは忘れて、次回がんばって。今日は、美味しくおでんを食べて、ね」
「はい、いただきます……」
この際俺が刈谷さんを襲って、失敗しただとかはもういいや、おでんを待とう。
「さ、梶谷くんは心を休めといて」
お母さんに言われ、俺は台所から離れてリビングの方へ意気消沈で歩いて行く。
「やあ、梶谷くん。俺たちがいない間、娘にはなにもしてないよね?」
「はい、俺からは手を出してないです」
「本当だろうな」
「神に誓って」
俺からは、手を出してないし間違ってないはずだ。
そもそも俺から手を出す前に、刈谷さんが手を出してきたんだから。
「2人ともできましたよ」
熱そうなおでんの鍋が、食卓の真ん中に置かれた。
「ありがとう2人とも」
「ありがとうございます」
お母さんに呼ばれて、俺とお父さんが一緒に食卓へ向かう。お父さんは、お母さんの横に俺は刈谷さんの横に座って、食卓に全員揃った。
「いただきます」
「さ、梶谷くん沢山食べて精をつけてね」
「精?」
「ああ、いえ、なんでもないので。いただきます、あっつ!」
お母さんがとてつもないこと言うから、誤魔化すために急いで鍋から大根を取って口に入れたら、余裕で火傷した。
「優くん、ほら水ですよ」
「ありがと……」
「梶谷くん、急ぎすぎは良くないよ、だから早く終わっちゃうんだよ。あ、ごめん気にしてたんだったね」
もう!なんなんだよこの人。食事中だってのに、セクハラもどきをけしかけてきて。
「もういいや、いただきます。少し風味が違う……」
さっき火傷した原因の大根を口に入れると、普通のおでんに比べて風味が違う。多分だけど、食べた大根にしみた汁から、柑橘系の味がした。
「わかりますか?私の家、おでんに柚入れるんですよ」
そう言った刈谷さんは、鍋から輪切りの柚を取りだして見せてくれた。
「へー、少し変わってるね」
「そうですかね?あと、お好みでからしもどうぞ」
「お、ありがとう」
刈谷さんに渡された、からしをつけておでんを食べてみると、思いのほかからしと、柚の風味は意外とあう。
「おいしいですか?」
「最高」
「なら良かったです」
そもそもの話、刈谷さんの料理は美味しさが担保されてるから、そこまで心配の必要は無い。
「あと、これもどうぞ」
「ありが……んん」
刈谷さんに言われて、刈谷さんの方を向くと、何かを口に突っ込まれた。多分これは、漬物だろうか白菜の。
「おいしいですか?」
「うん、おいしいけど、唐突に突っ込まないで」
「それは、ごめんなさい。この白菜、家で作ってるんです」
「これまた珍しい」
現代の家で漬物を作るってのは、あまり見られないように思う。最近は、韓国ブームとかでキムチ作る人はいるけど。
漬物といい、おでんといい、刈谷さんの家は少し変わっているというか、いろんなものを作ってるんだな。
「これに関しては、私がやりたいって言ったからですけどね。ささ、沢山食べてください」
刈谷さん作らしい白菜の漬物が、俺の取り皿にどんどん置かれていく。
「こんなに、漬物いらないんだけど」
「いいじゃないですか、私の愛の結晶ですよ」
「それは、俺へのじゃないのか?」
「私の愛は優くんへのだよ」
「そんな……」
愛の方向が違うと聞いて、しょんぼりするお父さん。愛娘に面と向かって言われると、相当きついだろう。
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「そういえばなんですけど、なんで俺今日呼ばれたんですか?」
おでんを食べ始めて、中盤くらいのタイミングでお父さんに今日の要件を聞いてみた。
お父さんは、そこそこ俺の事嫌ってるし、わざわざ俺を家に呼ぶなんて、大層な理由がないとありえないわけだし。
「忘れてたよ、そうだったそうだった、いやー娘も交えて話をしたくてね、この間君が浮気をしていたことについて」
「え?いや、その話はこの間終わらせたはずじゃ……」
文化祭の時の話が、ここで蒸し返されるのか。
「いやね、俺は思うんだよ、この間の口約束程度じゃ、信用出来なくてね」
少しまずいな、別にこの話し合いで刈谷さんと別れることになるのは別にいい、刈谷さんと付き合ってる訳じゃないから。
一番の問題は、俺の命刈り取り、話し合いゲームが、始まったということだ。
というかお父さん、わざわざ娘の彼氏呼び付けて、別れさせるために夜ご飯食べるって、そこそこ陰湿だな。
「優くん浮気してたんですか?」
「うん?ま、まあ?」
どうも反応に困るな、浮気したかしてないかと言われると、してないんだけど、付き合ってる設定とするならめちゃくちゃしてることになる。
「で、でもそれは前の話で今はしてないから」
「それって、証拠あるのかな?」
「証拠と言われると……」
出せるとしても、トーク履歴とかだろうけど、出したところでそこそこ直近で、初愛佳さんと会話してたしな。
「出せないんだな、やっぱ浮気してるんじゃないか?」
「出せなかっただけで、浮気と断定するのはどうかと……」
「だからさ、こんな男とは早く別れようか」
やはりお父さん的には、俺と刈谷さんは別れて欲しい、というか刈谷さんにはどの男とも付き合って欲しくないからか、刈谷さんに俺との関係切断を促している。
「私は別にいいですよ」
「え?こいつ、浮気してるんだよいいの?」
「うん、だって優くんがモテてるのは、私も嬉しいから。でも、もう浮気はしないでくださいね」
「あ、はい……」
俺が安心できるという証拠がないという、攻撃に対して度量の大きさで対抗する刈谷さん。
「なので、もうこの話はおしまいで。ちなみに、浮気って誰としてたんですか?」
「誰って、初愛佳さんだけど。というかそもそも、俺ほんとに浮気はしてないからね」
まじであれは、ただ初愛佳さんと優來と一緒に歩いてただけだし。
「初愛佳さんですね、わかりました」
「なにもしないでよ」
「何もしませんよ」
まあ、刈谷さんはそういうタイプじゃないか。そもそも、初愛佳さんと戦おうとしても、さすがの刈谷さんでも返り討ちにあいそうだし。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「別にいいのよ、元気でた?」
「メイビー……」
浮気どうこうの話を乗り越え、おなかいっぱいまでおでんを食べる事が出来た。
今日の話で、お父さんから鉄拳が飛んでこなかったのは、運がよかった。
「食べてすぐで申し訳ないですけど、俺はそろそろ帰ります」
「もう帰っちゃうんですか?」
「時間がね」
時計を見ると、時間は意外にも21時30分ぐらい。刈谷さんの家から俺の家まで、30分ぐらいかかるし帰るなら今の時間ぐらいだろう。
「遅くなるなら、泊まっていってもいいんですよ」
「いや、さすがにそこまでは悪いし」
「いいのよ、梶谷くん。それに、リベンジしたいでしょ?」
リンベンジって、食欲ついでにそっちの食欲もみたせってことか?
「それに服もないですし」
「お兄ちゃんの服がありますよ」
「えっと、部屋が……」
「それも、お兄ちゃんの部屋あるし、なんならこの子の部屋で寝てもいいのよ」
「母さん!?」
お母さんがそんなこと言うとは思ってなかったのからか、飲んでいたお茶を吹き出しかけるお父さん。
「ほんとにいいですよ、迷惑でしょうから」
「別に迷惑だなんてね。あ、そこの引き出しに一応防御用のモノは入ってるし。声は少し抑えてね」
何か変な察し方をされ、耳元とで軽いセクハラの言葉を囁かれた。
ほんとに、刈谷さんのお母さんはムッツリなの?と、問いたい。
あまりにも、娘彼氏(嘘)、しかも高校生にかける言葉では無さすぎる。
「厚さは、0.01mmだから、すぐ終わらないよう気をつけてね」
「いらないですよ……」
お母さんの中で、なんで俺は超短距離走者扱いを食らってるんだ、勘違いだと言うのに。まあ、弁明しない俺も俺かもだけど。
「とりあえず、俺は帰ります」
正直、予想以上に刈谷さんのお母さんは、お父さんと別ベクトルでぶっ飛んでてつかれた。
「そうですか、残念です」
「刈谷さんはいつでも会えるでしょ」
「そこじゃないんですよ」
俗に言う、好きな人とずっと居たい的な願望だろうか。
「とりあえず、俺は帰ります。おでん美味しかったです」
「それはどうも」
「私は、途中まで優くん送りますね」
リビングから玄関の方へ出ると、刈谷さんも着いてきて、一緒に外へ出た。
さすがは12月というか、息を吐くと白い煙がでる。そし、手袋なしの俺の上着のみ装備にはこの寒さはきつい。
「寒いね」
「そうですね、私もそこそこきついです
外へ出た刈谷さんの装備は、特段準備をしていなかったから、部屋着にマフラーをしただけの、俺より紙装備で、その寒さは俺以上だろう。
「それにしても、もうすぐ1年終わりですね」
「そうか、もう早かったな」
感覚的で気づかなかったけど、もう1年経つのか。考えてみると、入学式の頃と比べ、結構身の回りが変化したと思う。
「刈谷さんは、今年やろうとしてたことはできた?」
「やろうとしたことですか?半分くらいですね」
「結構残ってるね」
「まあ、この残りはあとから追加したものですから。ちなみに1番難しいのは、優くんに完全な夜這いをするって言うのですね」
「そういう系なんだ」
ということは、やり残した残り半分はだいたいが、そういう類のものなんだな。
「てか、1年ってことはもうクラス替え近いのか」
今のクラスにとてつもない未練がある訳では無いけど、今のクラスがバラバラになると考えると、少し寂しさを感じる。
「そうですね、もしたら私達来年は会えないかもですね」
「会えないって、俺が不用心する限り会えるんでしょ」
たしか、前に刈谷さん本人がこんな感じのことを、言っていたような気がする。
「それもそうですね、来年こそはしっかり夜這いするので、優くんも頑張りましょ」
「俺は何を頑張ればいいの」
俺は夜這いを頑張ると言うより、自分の家の不用心に気をつけることを頑張らないといけないと思う。
「それもそうですね、それじゃあ私は優くんに夜這いできるようまい進します。なので、優くんはずっとこのままでいてくださいね」
「絶対に成長しよ」
「私に会いたくないんですか?」
「そういう訳じゃないんだけど」
会いたくないかと言われると、会いたいの部類だけど、もうちょいちゃんとした会い方をしたいという話だ。
「それでは、優くん気をつけて帰ってくださいね」
「刈谷さんもね、じゃあまた来週」
俺と刈谷さんの家の中間ぐらいの位置で、刈谷さんに手を振って別れる。
とりあえず今日思ったのは、刈谷さんの両親はベクトルは違うけど、そこそこぶっ飛んでるってことだ。そして、刈谷さんのお母さんがめちゃくちゃ、セクハラをしてくるということだ。
セクハラに関しては、どこかで弁明をして、減らそう。正直、別の勘違いされる気もするけど。




