84 ヤンキー少女の買い物
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「そういえば、本屋行くって言ってましたけど、何買うんですか?」
半強制的に着いて来させられた、忍さんと初愛佳さんの後ろを歩きながら、初愛佳さんに今日の目的を聞いてみる。
「それが、ノートとシャー芯切らしちまって」
はたして、その買い物に俺は必要だったのだろうか。
「それで、折角だし優におすすめのノートとか教えてやろうかなって」
「それは、ありがたい」
正直、文房具でペン以外のおすすめとか、あるのかよ、てかんじでよくわかんないけど。
「あと、忍になにか詫び入れねえとな。本屋行くし、なんか本買ってやろうか」
「いや、それはいいです。自分で読む本は、自分で買いたいので。あ、でも梶谷くんからのプレゼントは、その……だ、大歓迎だよ」
最後に恥ずかしがりながらも、付け足す忍さん。
にしても、忍さんそんないい考え持ってたんだな。
「あと、物が残ると思い出しそうだし……」
いや、さっきの考えもあるんだろうけど、今回のは今のが本音に近いな。
「ん?そうか、じゃあ別にするか。気になるものがあったら言えよ、値段にもよるけど買ってやるから」
「綺麗なお金、だよね?」
こう見ると、忍さんの中の初愛佳さんへの評価が、バカみたいに悪いな。
「えっと……おお、あったあった」
探していたらしいノートを見つけ初愛佳さんは、5冊セットノートを3つ手に取った。
「結構買うんですね」
「まあな、1つだと自習学習ですぐなくなるから、これくらいあるといいんだよ」
自主学習だけで、すぐなくなるってどんな量やったらそうなるんだ。
いくら予習復習、応用をやるって言ったって相当早いペースだと思うんだけど。
「え、この人、勉強出来なくて留年ギリギリじゃないの?」
いくら初愛佳さんに聞こえない声とはいえ、忍さんの口から出る初愛佳さんの印象は、完全にヤンキーそのもののの、悪い印象だ。
まあ、さっきみたいなことをされたら、そういうことになっても仕方ないけど。
「忍さん、初愛佳さん普通に勉強出来るからね」
「うっそー」
忍さんの考えを訂正すると、失礼なくらい笑い出す忍さん。
「どうせあれでしょ、上辺だけ勉強してるアピみたいな」
「それは言い過ぎだよ。あと、補足すると初愛佳さん、俺より学年順位高いからね」
「梶谷くん、勉強苦手なの?私、教えてあげようか?」
とことん煽るな、この人。
「初愛佳さん、前回のテストの結果持ってますか?」
「結果?唐突だな、ちょっと待てよ」
初愛佳さんに、前回のテスト結果を持ってるか聞くと、肩にかけたスクールカバンを漁り始めた。
「あった、ほら」
初愛佳さんの出したテスト結果の紙には、「5科目合計397点」と書かれている。
「あと少しで、400だったんだけど、漢字の辺ミスっちまってな」
「へ、へ〜。ちなみに、梶谷くんは?」
「俺?ちょっと待って」
確か、俺もファイルに入れたまま、放置してた気がするから。
「あった、はい334」
「梶谷くん、ほんとに勉強教えようか?」
「優……」
やめて、2人してそんな目で俺を見ないで。てか、俺の点数初愛佳さんに比べれば、低いけどそこまで悪くは無いでしょ。実際ほぼ全ての教科が、平均ぐらいだし。
「で、でも、わかったでしょ、初愛佳さんは普通に勉強ができるって」
「うん、意外だけど」
初愛佳さんの証明のために、俺の精神が磨り減ったことはこの際どうでもいいや。ここは、初愛佳さんのイメージ回復ができたと割り切っておこう。
「優、ほんとに大丈夫か?もしあれなら、お、俺の家で、教えてやろうか?」
「今より下がったらお願いします」
「初愛佳さんが怖かったら、私が教えてあげるからね。もちろん、私の家で……」
この2人は、自分から攻める系の言葉が苦手だからか、少し恥ずかしそうにしている。
「と、とりあえずこれ買うか」
初愛佳さんが話に区切りをつけて、俺におすすめらしいノートをレジへ持っていった。
「いやー、ごめんな。優、これやるよ」
「いいんですか?」
買い物から出てきた初愛佳さんから、俺へさっきのノートが渡された。
「おう、買い物に付き合わせちまったからな。それに、それをお前が使うなら、ぺ、ペアだしな……」
「ありがとうございます」
ノートでペアって、普通文房具系はペンとか筆箱が一般的じゃないか。
というか、さっきからの初愛佳さん、何故かいつにも増して攻めた感じの言葉が多いな。
「じゃ、あとは忍の詫びの品だな。なんか、あるか?」
「梶谷くんが選んでよ」
「俺?」
「そう、お願い」
忍さんへの物なのに、俺が選んでいいのか。まあ、本人が言うんだしいいか。形に残るのは、いやなんだったよな。
「とりあえず、思いつかないから、このまま歩きませんか?」
いまいちピント来るものなかっから、歩いて時間を稼ぎつつ考えよう。
というか、こういう時のお詫びの品って何だろう。
「おう、いいぞ。じゃあ、しばらく散歩だな」
初愛佳さんからもらったノートを、バックにしまって、商店街のまっすぐな道を進む。
「お、猫。かわいいなー」
商店街を進んでいると、電柱の裏から首輪をした猫が出てきた。
その猫が出てきた瞬間、初愛佳さんは真っ先に撫でに行った。
「初愛佳さん猫好きなんですか?」
「というか、動物全般好きだぞ。こう、行動が愛らしいというか」
初愛佳さんがこういう行動をすると、やっぱ心優しい系ヤンキーいしか見えない。実際、心優しいヤンキーではあるんだけど。
「忍さんは、動物いける?」
「うーん、犬とか一般的なのなら」
ということは、忍さんも普通に動物は大丈夫なのか。ちなみに俺も、忍さんと同じ感じだ。
「お、その後ろ姿この間の兄ちゃんたちじゃねぇか」
「「げ……」」
名前、ではないけど明らか俺を呼ぶ声だったので、後ろを振り向くと、告白の時の野次馬の八百屋さんが、たっている。
「で、その後はどうだい。一緒にいるってことは、告白は上手くいったのかな?」
「ま、まあ?」
上手くも何も、まだ返答できてない。なんなら、前より保留が増えて、6件保留状態だ。
「なら良かった、あの時嬢ちゃん逃げちまったからな」
ケタケタと笑いながら話す八百屋さんに対して、俺と忍さんは苦笑いしか返せない。
「それじゃあお2人さん、仲良く末永くお幸せになー」
「あ、ありがとうございます」
八百屋さんの話を否定すると、気まづくなるから否定できないまま、八百屋さんはどこかへ行ってしまった。
そういや、あの人全く俺たちの後ろで猫を撫でる、初愛佳さんの存在に気づいてなかったな。
「そ、それじゃあ初愛佳さんそろそろ、移動しましょう……か?」
話が終わって、初愛佳さんの方を振り返ると、初愛佳さんは既に猫撫でをやめていて、俺達をすごい赤い顔で見ている。
「お、お前たち付き合ってたのか?」
「あ、いや忍さんが告白したのは本当なんですけど、付き合ってるかと言われると……」
どうも人に告白を保留にしている間柄、みたいなことは言い難いな。
「あ!何言ってるの、梶谷くん。私たちの仲じゃん」
「え、なに急に?」
何かを閃いた忍さんが、突然俺の腕に忍さんの腕を絡めた。
この行動をする忍さんの腕は少し震えていて、鼓動もすごい早い。ちなみに、俺の腕に柔らかい感触はそこまで大きくは無いものの、多少は感じる。
「お、おい。優?」
「いや、俺達は付き合ってなくて……まだ」
「まだ!?」
ただ告白を保留にしてるだけだから、忍さんと付き合う可能性は全然ある。
「そ、そうかよまだ付き合ってないのか。じゃ、じゃあいいよな」
「初愛佳さん!?」
何故か初愛佳さんは、忍さんに対抗してか俺の腕に忍さん同様、抱きついた。
初愛佳さんも、心臓の鼓動は早い。そして、俺の腕にはとても柔らかい感触がある。
「い、いいよなまだ付き合ってないんだろ?」
「そうですけど、初愛佳さん鼓動が……」
初愛佳さんの鼓動の速度は、忍さんよりも早い。
それはつまり、初愛佳さんは忍さんより、こういうことへの耐性が低いということだ。
というか、本人が1番わかってるだろうに、よくやろうと思ったな。
「そんなのは、いいんだよ。で、詫びの品はどうすんなだよ」
「え、今ですか?」
この変な状況に人目が集まっているというのに、今忍さんへのお詫びの品を決めるのか。
正直恥ずかしさで、上手く頭回んないんだけど。
「このままだと、手袋になるぞ」
初愛佳さんは忍さんに、決闘を申し込もうとしてるのか。
「えっと……じゃあ、あれで」
周囲を見渡して、即興で決め指を指す。俺が指を刺したのは、和菓子屋。適当に指したとはいえ、意外といい選択だ。
「わ、和菓子屋か、まあいいぞ」
「それじゃあ」
2人の拘束をといてもらってから、和菓子屋の方へ近づく。
「忍、どれがいい」
「えっとじゃあ、これでお願いします」
忍さんが選んだ菓子折は、小分けの羊羹が入った菓子折。
「そうか、じゃあこれにするか」
何故か少し残念がったあと、羊羹を持ってレジへ向かっていった。
「ほら、忍さっきは悪かったな」
「いやいや、私も悪かったですし」
正直、今回のことに関しては、話を聞かず突っ走った初愛佳さんと、俺のストーカーをする忍さんお互いに非があると思う。
「んじゃ、帰るか」
「そうですね、やることはもうやりきった感じしますし」
逆に今日の2人は、やりすぎなくらいな気もするけど。
「それじゃあ、私こっちだから」
「そうか、じゃあね忍さん」
「じゃあな忍」
「あ、はいさよなら」
そこそこ時間一緒にいて、悪い人じゃないとわかってるはずだけど、どうも忍さんの初愛佳さんへの、印象が抜けないみたいだ。
第一印象が、強烈すぎたから、そのせいで抜けないんだろうな。
「じゃあ、俺達も行くか。つっても、すぐそこで別れるけどな」
初愛佳さんは、電車を使って登校しているから、駅の位置的に俺とは反対方向になる。
「それにしても、初愛佳さん珍しかったですね。俺の腕に……」
「それ以上言うんじゃあねぇ!」
さっきの両腕ハーレムの話をしようとしたら、顔を真っ赤にした初愛佳さんに止められた。
「その、話をだすなよ。恥ずかし……」
ほんとに、この人忍さんをつめた時みたいな、ヤンキーの面はかっこいいのに、こういうとこはどうも年頃っぽい反応なんだよな。
そもそも、なんで初愛佳さんはあんな行動したんだろう。




