70 1人でぶらぶらと
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「じゃあ、あとよろしくね」
文化祭3日目、今日のシフト分の時間も終わって、次の人と交代して教室から出る。
今日こそは、1人でゆっくり文化祭を回りたいと願いつつ、廊下を歩く。て言っても、昨日、一昨日でほぼ全て回ってるから、そこまで遊べないんだけど。
「やっほー、梶谷くん1人?」
「1人っちゃ1人だね。佐藤さんも?」
最初にどこ入ろうかと、廊下をぶらぶらと歩いていると、前から1人で歩く佐藤さんと出会った。
「私は、クラスの子達と回ってたんだけど、人混みではぐれちゃって。しかも、人混みのせいで電話繋がんないし」
スマホを右手に持って、ため息を着く佐藤さん。
「それまた面倒な」
「そうだ!私の人探しついでに、一緒に回ってくれない?」
ため息で落ち込んだ顔をしたかと思えば、今度は手を叩いて顔をパァっと明るくした。
「別にいいけど……」
1人でゆっくりとか言った瞬間に、一緒に回る人ができたな。別に佐藤さんが嫌な訳では無いんだけど。
「はい、あ〜ん」
「あの、佐藤さん。模擬店でそういうのは……」
佐藤さんが手に持った、みたらし団子をいつも通り俺に向ける。
「いいでしょ、私が食べさせてあげたいんだから」
「そ子を否定してるんじゃなくて、人目が……」
いつもみたいに、屋上だとかなら人目もないしいいんだけど、ここの和菓子の模擬店は、他生徒や一般の人達の視線が混じって普通に恥ずかしい。
だって、文化祭でこれするとほぼバカップルじゃん!
「それとも、こっちの方がよかった?」
「そういうことじゃなくて」
人目と言ったのに、何故かみたらし団子から三色団子に持ち替え、俺の口の方に団子を押しあててくる。
「ほら、美味しいよ」
「でも、食べかけ……」
「いいじゃん、あ〜ん」
佐藤さんって、羞恥心とかないのかな。
「わかった、食べるよ」
「はいあ〜ん。美味しい?」
「たぶん……」
恥ずかしくて、ほぼ味がわからん。俺の心の割に佐藤さんめっちゃ笑顔だし。
「それなら良かった。はい」
美味しいと返すと、また俺に団子を向け、口の方へ持ってこようとする佐藤さん。
「ちょ、ちょっと待って今度は俺に俺がやってあげるよ」
俺は思いついた、佐藤さんに解らせるには、佐藤さんにもこの気持ちを味わって貰おうと。
「い、いやそんな。梶谷くんからはちょっと……」
作戦は上手くいってるようで、俺のあ〜んという攻撃に佐藤さんは引き気味だ。
「さっきのお礼と思って」
「別にお礼はいいよ」
佐藤さんも人目が気になから、やはり恥ずかしそうにしている。これは勝った。
「佐藤さんもやってるんだし、ほら」
「わ、わかったよぉ……」
俺の勢いに根負けした佐藤さんが、俺の白玉団子を食べてくれた。
「美味しいでしょ」
「美味しいけど……恥ずかしい」
そういう佐藤さんの頬は、真っ赤に染って、今にも爆破しそうだ。
「俺の気持ちわかってくれた?」
「梶谷くん、恥ずかしいかったの!?」
佐藤さんから俺は、全く恥ずかしくもなさそうに見えていたみたい。どうなってるんだ。
「だって、周り見て見てよ」
「周り?人が多いけど」
おい待て、この反応するってことは、さっきの恥ずかしいって言葉は、何に対する恥ずかしいだったんだ。
「わかんないならいいや、ここではそれやめてよね。やるなら俺もやり返すから」
「やり返すの!?」
いつもなら全然いいんだ、佐藤さん可愛いし。でも、今回はダメだ、あまりにもバカップルすぎる。
今思えば、俺がやり返してる時点で、結構バカップルレベル高いな。
「わかった、今回はやめておく……」
「ていうか、なんで俺たち佐藤さんの連れの人達探してるのに、ここ入ってるんだろうね」
「ほら、ここにいるかもだし」
いるかもしれないにしては、決め打ちすぎる気がするけど。
「それに私が……」
「どうかした?」
「い、いやなんでも。そんなことより、これ食べる?」
「だから……」
なぜ、2番目にそれが出てくるんだ。
「佐藤さんの連れの人見つからないね」
「校内いないってことは、外にいるのかな」
団子屋を出たあと、しばらく佐藤さんとぐるぐる校内を回っているけど、全く佐藤さんが探してる子が見つからない。
「とか言ってたら、電話わかかってきた」
「電波届いだんだ」
さっきとあまり人混みの人の人数は、あまり変わっていなあけれど、佐藤さんのスマホに電話が来たみたいだ。
「うん、うん。わかった、今すぐ行くね」
「場所聞けたの?」
「うん、それじゃあね」
手を振ってから、佐藤さんは急いでどこかへ行ってしまった。
「よし、1人文化祭再開しよう」
佐藤さんも連れの人が見つかった見たいだし、俺はゆっくり1人で回ろう。ちょうど行きたいとこも、さっきみつかったし。
「パンケーキ1枚」
「あ、梶くん来てくれたんだ」
「お、石橋さん。ちゃんと当番してたんだ」
「当たり前でしょ、私をなんだと思ってるの」
俺が今来たのは、調理研究部の模擬店。偶然佐藤さんと歩いていて、ポスターを見つけここに来た。
「にしても、調理研究部結構端に追いやられてるね」
調理研究部の模擬店は、調理室とは別の教室であるけれど、1階のしかも端の方という不遇な位置に模擬店を出店している。
「そのおかげか、人が沢山来て忙しいってこと少ないけどね。だから、ほぼ毎回出来たてを渡せてるの」
「へー、出来たて作るとこ見てもいい?」
「…………全然いいよ」
なにか間があったけど、いいと言うのなら作るとこを見せてもらおう。
「作るって言っても、そこまで凝ったことはしないんだけどね。ただ、敷いて焼くだけだから」
「全然いいよ」
正直これ見に来た理由、別にあるし。
「パンケーキってどう作るの?」
いつも何も考えず食べてたけど、パンケーキの作り方って、何となくしか知らないな。
「そんなに難しくないよ。生地を敷いて、表面にぶつぶつが出たらひっくり返すだけ。やってみる?」
「いいよ、失敗しそうだし」
俺がやると、ひっくり返す時に生地をぶちまけかねないし、ここは慣れてる人にやってもらうのが、得策だろう。
「なかなか失敗しないって。私ができるんだよ?」
「それ、今の石橋さんに言われても」
昔の石橋さんならまだ説得力あったけど、今の超料理の上手い石橋さんに言われても説得力がない。
「とか言ってる間に、出てきたね。ひっくり返す前に、これ隠し味の秘密の粉」
「ちょっと待った」
石橋さんがポッケから取り出したのは、見覚えしかない正方形の薬の袋。
「これ、なに?」
「なにって、味○素」
「なんでパンケーキに味○素入れるの!?」
入れるとしても、甘味料とかだろうに。
「だって……」
だって、通ったあと何故か言い淀む石橋さん。明らかに怪しすぎる。
「だってってなに!?」
「味○素ってかければ、なんでもおいしくなるんでしょ」
「パンケーキは明らか違うでしょ!」
甘みを味わうものに、旨味を加えてどうするんだ。
「味○素っていうなら、舐めてみてよ」
「う、それは……」
やっぱ、いつも通り睡眠薬だ。ほんと、作るとこ見に来てよかった!
「ほら、やっぱ睡眠薬なんじゃん!」
「い、いやこれは睡眠薬じゃなくて……」
「睡眠薬じゃないってなに?」
人にしこめる薬で睡眠薬じゃないって、もしかしてガチの毒か。
「やく……」
「え?」
「び、媚薬……」
「は!?」
媚薬という単語を、目を逸らして少し頬を赤らめながら口から出した。ほんと、なんなんだこの人。
「媚薬って、発情のやつ?」
「か、梶くん、発情って」
なんでこの場面で、照れるんだこの人。
「照れてないでさぁ。とりあえず、これ下ろして」
「はい……」
媚薬を持っている手を離して、媚薬の袋を地面に落とす石橋さん。
「これで、いい?」
「まあ、ていうよくこんなの手に入れたね」
「私、頑張ったから」
「いや、報告されても」
まあ、媚薬を盛られなかったことを良かったとしよう。
ていうか、パンケーキ貰って食べるのってこの場じゃないから、媚薬入ってても石橋さんにメリットなくないか?
「ていうか、媚薬盛るにしても、別の方法なかったの?」
「だって、今日は梶くん見てたし」
「それでなんでゴリ押ししようとするの」
「どうしても、効果が見たくて」
石橋さんは、俺で人体実験でもしたいのか?
「ていうか、さっきから生地から焦げた匂いするんだけど、これアウトじゃない?」
「あー!梶くんが媚薬入れさせてくれないからぁ!」
え、これ俺のせいなのか。たしかに素直に媚薬入れさせてあげれば、媚薬入以外普通のパンケーキができただろうけど。
「もうこれは死んじゃったし、作り直すよ」
「媚薬抜きでね」
「任せてよ。なんなら、そこに作り置きあるけど」
作り置きあったんだ。じゃあ本当に、媚薬入れるためだけに出来たて渡そうとしてたんだ。
「はい、どうぞ。出来たてパンケーキ」
「ありがとう」
ちゃんと石橋さんがパンケーキを作るとこを見て、石橋さんからパンケーキが渡された。
「味は普通に美味しいから、安心してね」
「それはもとから心配してないけど。ていうか、俺たちの茶番の間、ここ放置しててよかったの?」
見た感じ、今の店番は石橋さん1人っぽいから。媚薬の話で、営業ストップしてたってことだよな。
「別に大丈夫だよ、いま休憩で営業ストップしてるし。ほら」
石橋さんの指したとこには、CLOSEと書かれた看板が下げられている。しかもその横に営業時間の書かれた、構内掲示用ポスターもある。
「ほんとだ、確認してなかった」
「そういうこと、私は少し早めに来ただけ。そうしたら梶くん来たから、作ってあげたの。特別なんだから」
つまり薬を盛るのは、俺が特別だからということか。……それはなんか、やだな。
「まあ、パンケーキありがとね。おいしく食べさせてもらうよ」
「それじゃあね」
石橋さんに手を振って、そのまま調理研究部の模擬店から離れていく。




