68 甘えたがりシスターとヤンキー少女
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「もう、大丈夫…」
「ほんとに大丈夫か?」
さっきまで、トラウマで吐きかけていた優來が、未だ気持ち悪そうな顔で立ち上がる。
「多分、大丈夫…」
「多分か、まあやばかったら言ってくれ。母さん達呼ぶからさ」
心配ではあるけれど、本人が大丈夫なら、大丈夫なのだろう。とりあえず、優來の中学の人に合わないことを願いつつ、回るとしよう。
「お、優じゃねぇか」
「初愛佳さん…」
昨日見たく誰かしら先生にバレないよう、慎重に外階段から校舎内に戻ると、偶然初愛佳さんに出会った。
「なんだよ、そんな辛気臭い顔して」
校舎内に戻って出会った初愛佳さんは、いつも通り上機嫌だ。
「まあ、いろいろとありまして」
優來のことに関しては、初愛佳さんに話すか話さないか迷いどころだな。
なんせ、初愛佳さん優しいから、このこと話すと相手をシメに行くとか言い始めそうだし。
「で、その横にいるちんちくりんは誰だよ」
優來の存在に気づいたらしく、急に威嚇するような目に変化した。
「ちんちくりんって、俺の妹ですよ」
「義理か?」
妹と言うと、何故かキョトンとした顔で、義理かと聞かれた。もちろん答えは…
「実妹ですよ!」
ほんとに、なんでみんな俺と優來のこと義理って言うの?そんなに似てないかな?ねぇ。
「お、おうそうか、ごめんごめん。俺、初愛佳。優の親友?だよな」
軽い紹介をすると、一気に優來に近づいて優來と目線を合わせて話し始める初愛佳さん。
「お兄、アゲられてる」
「んな」
優來に勘違いされると、1発食らったような声を上げる初愛佳さん。
「優來、初愛佳さんはこんな見た目で、ヤンキーだけど、いい人だから」
「お前も酷くないか?」
確かに、こんな、は言いすぎたかもしれないな。この見た目と訂正しておこう。
「そういえば、何故初愛佳さんはここに?」
「それな、ここ俺のサボりスポットなんだよ」
「初愛佳さん、ここでサボってるんだ」
確かにここ、先生もなかなか来ないだろうし、サボる場所としてはうってつけだけど。
「じゃあ、今回もここでサボろうと」
「まあそうだな。まあ、優とたまたまあったし。このまま一緒に回ろうぜ」
フットワークそこそこ軽いな。
「俺は、いいですけど。優來もいいか?」
「大丈夫…」
優來の休憩でたまたまた出会った初愛佳さんと、そのままの流れで文化祭を回ることになった。
「そういえば、佐藤さんとは回んないんですか?」
「佐藤な昨日誘われたけど、昨日はちょっと逃げたな」
佐藤さんの話を持ち出すと、バツが悪いのか目を逸らして話してくれた。
「一緒に回るくらい、いいと思いますけど」
「まあ、こっちにもちょっと事情があるからな」
多分その事情は、佐藤さんがこの間言ってたものなんだろう。ていうか、その場合俺は初愛佳さんの中でどんな扱いなんだ。
「それで、ちんちくりん」
「優來です」
「そうそう、優來はどっか行きたいとこあるか?これ、校内マップ」
また、優來の前にしゃがんだ初愛佳さんが、優來の目の前で校内マップもといパンフレットを広げた。
「とくにない。おすすめでいい」
「おすすめか」
「初愛佳さんは、どのくらい回りました?」
「俺はそんなに回ってないな。クラスの当番はないけど、昨日はほとんど何もしてなかったし」
この当番がないは、初愛佳さんのクラスがそういう当番なし系の出し物なのか、それとも単純に出てないだけなのか。
「優はどっか行きたいとこあるか?」
「俺は半分くらい回ってますし、初愛佳さんの好きなとこでいいですよ」
「俺の好きなとこか、そんなに俺のセンスに期待すんなよ」
「いやー楽しかったな、まさか優來が最後に大勝するとは」
「俺と初愛佳さんは、最後に大負けでしたけどね」
今俺たちが入っていたのは、カジノが出し物のクラス。途中まで負け続きだった優來が、最後のスリーカードポーカーで大勝し、俺たち3人の中で1位になった。
「まあ、楽しけりゃいいんだよ。えっと、次は…」
そんなにカジノが楽しかったのか、ウキウキ顔でパンフレットを開く初愛佳さん。
「次ですね、体調大丈夫そうか優來。あれ?優來」
優來の体調を気にして、優來の方に目をやるといなくなっている。
「優來、優來!」
周囲を見渡しながら、優來の名前を呼ぶ。
「お…兄、ここ」
優來の声の方向的に、俺と初愛佳さんの後ろにいるみたいだ。多分、人混みに流されたのだろう。
「優來がどうかしたのか?」
「優來が流されちゃったんですよ」
まずい、とどこかで優來が同中の人見かけたら。
そう考えると、身体中から一気に冷や汗がでてきて、頭の中で上手く考えが練れなくなってきた。
「そういう事か、方向わかるか?」
「あっちですけど」
「そうか、ちょっと待ってろ」
優來の声がする方向を指さすと、初愛佳さんはかっこよく優來を探しに人混みへ突っ込んで行った。
「捕まえたぞ。大丈夫か?」
魚を取ったかのように、初愛佳さんが優來の腕を掴んで俺の所へ戻ってきた。
「なんとか…ありがとう…」
「初愛佳さん、ありがとうございます」
「どうってことはねぇよ」
お礼を言われた初愛佳さんは、少し照れくさそうだ。
「また、こうなると面倒だし手でも繋ぐか?」
「そうする…」
心配と冗談半々で言ったんだけど、ほんとに手を繋ぐことになるとは。
「なあ優來、俺も繋いでいいか?そっちの方が、安全性上がるだろうしさ」
「いい」
初愛佳さんが、手を出すと優來が了承して、俺と初愛佳さんで、優來を挟む形になった。
「なんか、こうしてると。その、ふ、夫婦っぽいな…」
「そうかもですね」
実際優來の身長的に、優來が子供に見えなくもない。
それに、失礼だけど初愛佳さんの見た目的に、若気の至りでこうなった感は出てるかもしれない。
「とりあえず、しばらくはこれで移動だな。さて、次はどこに行くか…」
誰もかけることがない状態で、初愛佳さんが再度パンフレットを見始めた。
「私も、見てみたい」
「お、そうか。ほら…どうした!」
優來がパンフレットを見たいと言って、初愛佳さんがパンフレットを渡そうとした時だった。
また、優來がその場に口を押えて縮こまった。
「ということは…」
優來の反応から、周囲を見渡すと確かにいる優來と同じ中学の制服を着た生徒がいる。
「おい、優どういうことだこれ」
「とりあえず、また人のないとこに…」
「やあ、梶谷くんじゃないか」
縮こまった優來をどうにかしようとしたタイミングで、俺の肩が叩かれた。
「いま、そういう場合じゃ……お、お久しぶりです。お義父さん…」
「はは、まだそんな関係性じゃないだろう」
肩を叩かれて、半ギレで後ろを振り返ると、刈谷さんのご両親がいる。刈谷さんのお父さんは怒っているのか、それを見て俺の半ギレは一気に冷めた。
「話を聞こうじゃないか、うちの娘がいながら他の女性しかも、子持ちとは」
「それは、誤解なんですが…」
誤解と言えば、刈谷さんと付き合ってるとこから壮大な誤解があるんだけど。
「おい、優。どうすんだよ」
「えっと、とりあえず初愛佳さんは、さっきのとこに優來を連れてってください。俺は後で合流するので」
俺は一旦刈谷さんのお父さんの、誤解を何とかして解いて、俺に来るかもしれない拳を避けなければ。
「そうか、わかった。じゃあ後でな」
そう言った初愛佳さんは、急いで優來を抱えて初愛佳さんのサボりスポットへ向かった。
「まあ、ここじゃあなんだしどこかに行こうか、そうだなぁほんとは娘がいるとこが望ましいが、それはやめておこうか。それじゃあ、ここで話そうか」
刈谷さんのお父さんが指さしたのは、すぐ近くにあったメイド喫茶。あまりにも話の内容と、店の雰囲気が一致しないけど、ここで話すらしい。
「私はどうしましょうか」
「母さんは、好きにしてて構わないが」
まて、刈谷さんのお母さんには、緩衝材として居てもらわないと困る。
「それなら、私も一緒に行こうかしら」
助かった、刈谷さんのお母さんが居れば、多少はお父さんの方の怒りも減る…はずだ。
「それじゃあ行こうか。じっくり話をするためにね」
「は、はいら喜んで…」
軽い怒りの籠った言葉を発した、刈谷さんのお父さんの後ろをどういう言い訳をしようか、考えながらついて行く。




