67 甘えたがりシスターと文化祭
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今日は文化祭3日あるうちの2日目。昨日は青空さんの言動によって、何度も黒嶺さんの怒りを買っていたけど、なんとかやり過ごすことが出来た。
今日、俺は特にクラスの仕事もなく暇なので、1人気ままに回れるはずだ。
「あ、優いた」
「ああ、母さん」
昨日黒嶺さんと青空さんと回ったけど、もう1回食べたい、行きたい場所があったから行こうとした矢先、文化祭に来たらしい母さんと父さんに出会った。
「てか、2人きたってことは、優來は…」
「そこは大丈夫!なんたって、今日は」
母さんが後ろの方を向くと、母さんの後ろから私服姿の優來がひょこっと出てきた。
「おう!優來、外に出れたのか」
「うん、頑張った…」
家に完全に引きこもっていた優來が、頑張って外に出てきたのは他大なる進歩と言えるだろう。
「そうかそうか、ほんとに頑張ったな」
頑張った優來の頭を撫でてあげると、とても嬉しそうな顔をしてくれた。
「まあ、3人とも文化祭楽しんできなよ」
この文化祭を気に、優來が気兼ねなく外に出れるようになってくれると嬉しいし。
「何言ってんの。私たちは2人で楽しんむんだから」
「え?」
あたりまえでしょ、みたいな顔をして、俺の事を見る母さん。
「優來は、あんたに任せた。私たちは、文化祭デートにでも、行ってくるから。それじゃあ」
優來を俺にほっぽって、そのまま2人はどこかに行ってしまった。
なんであの2人は、あんな歳(42)にまでなって文化祭デートとか言ってるんだ。逆にあの歳で仲がいいのは、いい事なんだろうけど。
「まあ、いいか。じゃあどうする優來。どこか、行きたいとこあるか?」
「お兄のクラス、行きたい…」
「俺のクラスか、お化け屋敷だけどいいか?」
今の優來は、刈谷さんにおどかされたせいで、幽霊というのが怖くなっているみたいだし。
「たぶん、大丈夫…」
不安そうな顔ではあるけれど、自信満々にサムズアップをしている。
「そうか、じゃあ行くか」
何気に俺は、お化け屋敷制作したり、お化け役で入ったりしてたけど、客として入ったことはなかった。
なんとなく、何があどこにあるか知ってるけど、まあ楽しめはするだろう。
「おう、梶谷くん…とその横にいるのは」
「俺の妹」
「義理?」
「実妹だよ!」
刈谷さんにも言われたけど、俺と優來ってそんなに似てないのかな。
「あぁ、ごめんごめん。とりあえず来たってことは、入ってくってことでしょ。どうぞどうぞ、今空いてるから。梶谷くん入りまーす!」
受付の子が、入口となる扉を開け、中にいるお化け役の人達に周知する。
「じゃあ、入るか。優來、怖かったらお兄ちゃんに抱きついてもいいからな」
「うわ、シスコンだ」
「別にいいでしょ、シスコンぐらい」
俺がシスコンどうこうは置いておいて、ここのお化け屋敷を全く知らない優來を先頭にして、俺達はお化け屋敷へ入った。
「大丈夫か、優來」
「た、たぶん…」
こうして客として入ると、結構雰囲気あるように感じるな。
薄暗い雰囲気に、ホラー系のBGM。雰囲気だけでも、普通のお化け屋敷ぐらいは出てると思う。
「わあ〜。愛で呪ってやる〜」
入口から少し進んだところで、青空さんが出てきた。出てきた青空さんは、怖いお面を付けていて、そして俺に抱きついている。
「なに、愛で呪うって」
「永遠の愛を誓わないと、大変なことになるよ〜」
「よーし、優來行くぞ」
「ちょっと〜、無視しないでくれよ〜」
愛の呪いとか言ってる、青空さんを無視してそのまま前へ進む。
歩き始めたはいいけど、何故か青空さんがしがみついたまま離れてくれなくて体が重い。
「わあ!」
「ん!?」
俺は位置把握のせいで、そこまでびっくりはしないけど、優來は普通にびっくりしてくれてるようで、何よりって感じだ。
そういえば、次は俺が昨日隠れてた場所か。優來どんくらいおどろくんだろ。大声上げたら、ちょっと面白いんだけど。
(わあ)
ここのお化け屋敷内で、1番びっくりするであろう場所の前に来ると、出てきたのは人ではなく、文字の書かれたスケッチブック。
「お兄、これなに」
「多分なんだけど、水無口さんだよね」
このスケッチブックに書かれた文字に見覚えあるし、そもそもスケッチブックに文字書いて会話は、水無口さんの専売特許だし。
ていうか、なんで最後の砦を水無口さんに任せてるんだ。
多分水無口さんだろうと思って、メタいけど隠れ場所を開けると、案の定水無口さんが隠れている。
「び、びっくり…した?」
「さすがにスケッチブックじゃ…」
「そうだよ〜、こうでもしないと〜ね!」
「んん!?」
俺に抱きついていた青空さんが立ち上がって、あの怖いお面をつけたまま、水無口さんの顔すぐ前に姿を出した。
「どうだ〜い、怖かったでしょ〜」
そう青空さんに聞かれた水無口さんは、答えることなくその場で萎縮して震えている。
「あらら〜、固まっちゃった〜。まあ、行こうか〜ゆうくん」
「このまま放置してくの?」
「アフターケアは、僕がやるから〜」
震える水無口さんは無視して、そのまま出口方向へ歩かされる。
「ほんとに大丈夫なの?水無口さんめっちゃ震えてたけど」
「大丈夫大丈夫。僕は包容力には、定評があるから〜」
「それどこ情報?」
ソースの分からない評判の話を聞いていると、俺のズボンの裾が引っ張られた。
「ん?水無口さん。トラウマにでもなった?」
俺のズボンを引っ張ったのは、水無口さん。聞いてみると、涙目でこくりと頷いた。
「水無口ちゃんは、臆病だな〜」
「ていうか、青空さんは配置に戻りなよ」
何故か青空さんは、序盤の方に出てくるはずなのに、ゴール付近にまで来ている。
「え〜、いいじゃないか〜。それにもう、出口前だしさ〜」
青空さんに押され、幽霊2人を引き連れた状態で教室からでてきた。
「お、戻ってきた。長かったねー」
「いろいろとあって…」
青空さんと話したり、水無口さんをびっくりさせたりで、普通に回る時間より少し長い時間がかかった。
「まあ、それはいいんだけどさぁ。一応設定でも幽霊なんだから、その幽霊に触れた状態で戻ってこないでよ」
今の状況を見て、俺に対する呆れたというような視線が向けられている。
「それは、俺に言われても。苦情なら青空さんに」
「なんで僕なんだよー」
そもそも、干渉してきたのは青空さんだし。水無口さんの恐怖の原因も、青空さんだ。
「あと、水無口さんが青空さんに脅かされて、怖いみたいなんだけど」
「それはいいよ〜、僕が水無口さんのとこ入るからさ〜。それでもいいよね〜」
「まあ、いいんじゃない?」
そんな話をしていると、水無口さんがまた俺のズボンを引っ張った。
水無口さんの方を見ると、耳を貸せ的なジェスチャーをしている。
「一応、私の時間、だか…ら私、もはい、る…」
「水無口さんも、一応入るって」
「ほんとかい?大丈夫?」
青空さんがそう聞くと、少しためらってはいるけれど、頷く水無口さん。
「とりあえず話もまとまったぽいし。次行くか、優來」
「わかった」
「お化け屋敷は、楽しかったか?」
「楽しいより、怖かった…」
まあ、お化け屋敷の本質を、楽しんでくれたみたいで よかった。
「なんか行きたいとこあるか?」
「特にない。から、お兄のおすすめ、でいい…」
「おすすめか、任せろ」
て言っても、俺が行きたいとこに行くだけな気がするけど。
♦
「みよ!我が奥義!」
体育館のステージ上で、勇者の衣装を着た生徒が、厨二病的技名を言い放つ。
「ぐはぁ、やられた」
「勇者シロは魔王を倒し、世界は平和を迎えました。そして勇者は、姫と結ばれとてもとても、愛し合う生活をしているとか」
最後にテンプレートのような、ナレーションで締められ、役でできた生徒全員がステージに立ち、カーテンが閉まって劇は終わった。
劇が終わると、体育館内は拍手の音で包まれた。
「そこそこ面白かったな。正直、ところどころ厨二病セリフっぽいのがあったのが、ちょっとって感じだけど。どうした、優來」
劇が終わってから、優來の方を見ると。口を押えて、なにかに耐えている。劇に感動した、という感じではない。
「あれ…」
震えている優來の指先を見ると、とてつもなく見覚えのある制服。
「そういう事か、とりあえず早く離れるぞ」
優來が見つけた制服とは、俺が通っていた中学の制服を着た人だった。
とりあえず、早くここから離れるために、優來をおんぶして急いで体育館から逃げる。
「人がないとこに来たけど、ここは大丈夫だろうか…」
まだ、この学校に中学の制服を着た人がいるかもしれないから、とりあえず人気のない外階段に逃げてきた。
「優來、大丈夫か?吐きたいなら、吐いてもいいけど。にしても、来るのかあそこの中学の人」
まあ、ここの高校、あの中学の人からしたら、偏差値的にも距離的にも申し分ないし、来てもおかしくはないか。
「どうする?帰るか?帰るなら、母さん達召喚するけど」
「大丈夫、少し休憩、すれば」
さっきの制服のことを考えると、吐き気がぶり返すのか、優來はさっきから嗚咽を繰り返している。
やっぱというか、当然というか優來は中学のトラウマが抜けきらないみたいだ。




