66 殺人願望少女と愛の告白少女
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「ごめん、黒嶺さん今もど…」
「ねえねえ、無視しないでよ。いいでしょー、1人なんだし俺と回ろうよ〜」
教室を出てから、一旦トイレへ行って戻ってくると、俺を待っていた黒嶺さんがしつこそうなナンパに絡まれている。
「梶谷さん、早かったですね」
「おい、無視すんな。おい!」
しつこく絡むナンパ男を無視して、俺の方へゆっくりと歩いて近づいてくる。
「それでは、行きましょうか」
「おい、俺の話聞け。おい!顔がいいだけで、胸ないくせに調子んのんなよ!」
黒嶺さんに1番聞きそうなことを、捨て台詞として吐かれてから、俺と黒嶺さんは男からどんどん離れていく。
「あの、黒嶺さん。いいの?俺で良ければ、言いに行くけど」
「心配してくれるんですか。でも、別にいいですよ。私は体に関して、コンプレックスは無いので」
そういえば、水着の時もこの細い体を隠すではなく、堂々と着てたっけ。
「それに私は、あなたにさえ見てもらえれば、どうでもいいので」
俺の胸ぐらを掴んで顔をググッと近ずけて、目をじっと見つめる黒嶺さん。
こうまじまじと見ると、やっぱり黒嶺さんの目にはあまり生気というのを感じない。けれども、そんなのがどうでもいいレベルで、顔がいい。
「それに、梶谷さんが私の体について、好みじゃないと言ったとしても、ねじ伏せますから力で」
力ってなんのことなんだろうなー。とりあえず、仮に黒嶺さんと付き合った時は、あまり体の話はしない方がいいとわかった。
「とりあえず、今日のところは帰ります」
「え、何もしないの?」
「はい、ただ梶谷さんを探していただけなので」
本当に黒嶺さんは、ただ俺だけのために文化祭に来たのか。無駄だな。
「そういや、探してたって言えば、よく俺のこと見つけられたね」
俺と黒嶺さんは同じ学校でもないし、黒嶺さんにクラスのこと話したことないのに、見つけたのはすごいと思う。
「それですか、たまたまあの幼馴染さんに会ったので、その時に」
「由乃か」
どうやら黒嶺さんは、由乃から俺のクラスを聞いて、とりあえずクラスの出し物に入ってみたら、俺と出会ったみたということらしい。
「それでは、話はこれくらいにして」
「いや、せっかくなら回っていきなよ」
「遠慮しておきます。一刻も早く帰って、勉強したいので」
そんなに早く帰りたいなら、こっち来なければ良かったのに。
「いや、文化祭だよ!しかも他校の」
「それがなんなんですか?私に関係ないですよね」
なんなんだこの人ほんとに。ストイックの塊過ぎないか?
「それでは、また塾で」
「あ、うん。じゃあね」
本当に帰ってるよ、いままでの時間なんだったんだ。
「ゆうく〜ん」
どこからともなく声が聞こえてきたかと思えば、唐突に俺の背中にすごい勢いで何かがぶつかった。
「青空さん、人多いんだから危ないよ」
後ろから勢いよく飛んできたのは青空さんで、俺の背中に思いっきり抱きついてきた。
それと共に、前にいる黒嶺さんの動きも止まった。
「いいじゃないか〜、僕たちの仲なんだらさ〜。僕たちは、恋人でしょ〜」
「は?」
青空さんが来たと同時に、動きが止まっていた黒嶺さんがものすごい形相で、こっちを見る。
まずい。青空さんの地雷発言のせいで、黒嶺さんの「芽を摘み取る」が発動しそうになってる。
「ちょっと青空さん、それ訂正して」
「そんなに嫌がらなくたって〜、僕たちの仲じゃないか〜」
「なーかー?」
少し離れた位置にいたはずの黒嶺さんが、こっちにじりじりと近づいてくる。
「ほんとに!青空さん、訂正して訂正」
「なにでそんなに焦ってるの〜?もしかして〜、そこのべっぴんさんを、ナンパしてたのかい?も〜、僕という者がいながら〜、ダメじゃないか〜」
事情を知らない青空さんは、冗談を言いながら俺の右頬をつついてくる。
「へー、そうなんですか」
怒り心頭の黒嶺さんが、包丁をしまっている服の中に手を入れ包丁を取り出そうとしている。
「ねえ、青空さん。火に油を注ぐって知ってる?」
「もうバカにしないでよ〜、簡単に言えば怒ってる人をさらに怒らせる的なことだろ〜。まあ、僕たちは愛の油を注いで、火をあげるんだけどね〜」
「それが、火に油って言ってんの!」
青空さんを担いだまま、黒嶺さんとは反対方向を向いて、ダッシュで逃げる。
「梶谷さん、待ってください。大丈夫、話を聞くだけですから」
包丁を取りだした黒嶺さんが、逃げる俺達を追ってくる。
運のいいことに、人混みがあるおかげで黒嶺さんは包丁をもって、走りにくそうだ。みんな、黒嶺さんの行動が、そういう演目だとでも思ってるのか、対して反応してないのは文化祭効果なのだろう。
「はぁ、なんとか逃げ切った…」
黒嶺さんから逃げ始めてから、なんとか青空さんを担いだ状態で人気のない外階段まで、逃げ切ることが出来た。
「さっきは、急に走り出して〜どうしたんだい?」
階段上に降ろした青空さんが、さっきの突然の行動について聞いてきた。
「それは、自分で考えて」
正直、人を担いだ状態でのガチダッシュは、帰宅部の俺にはキツすぎる。息が上がって会話どころじゃない。
「僕がかい?人気のない場所、僕と2人っきり…もしかして、文化祭という熱に溺れたゆうくんが、ここで僕と…そんな〜、ゆうくん僕はまだ綺麗なままでいたいよ〜」
「違うからね!?」
何を考えたのか、少し顔を赤らめて身をよじらせはじめた。
「もう、青空さんも一応女の子なんだし、そういうのはあんま、言わない方がいいよ」
「一応って失礼だな〜。まあ、普通に考えてあの美人さん関係だろ〜」
「まあ、そうだけど」
よかった、さすがの青空さんでも詳細までとは行かなくても、黒嶺さん関係だと理解してくれた。
「深くは聞かないけどね〜、面倒だし」
「それは、俺も助かるよ」
結構なレベルで、黒嶺さんのことは話しにくすぎる。
息を落ち着かせてから、青空さんの横に座る。
「にしても〜、ここ穴場だね〜。日当たりよし、人なしなんて〜、見事な昼寝スポットだよ〜」
そのままの調子で、踊り場に寝転び始める青空さん。
「ていうか〜、ゆうくんはよくここ知ってたね〜」
「偶然、さっき見つけただけだけど」
毎回通り過ぎる度に、閉まってると思ってた外階段に繋がる扉が意外なことに開いていて、これはいいと思ってここに逃げて来た次第だ。
「そうかい、それは〜幸運だね〜…」
「あ、寝た」
踊り場の上に寝転んだ青空さんは、暖かい太陽光に照らされながら寝てしまった。
「ここで寝たら、風邪ひくよ」
多分無駄だと思いつつ、一応青空さんを揺さぶって起こそうと試してみる。
こういう時、ブレザーをかけたりしてあげるんだろうけど、あいにく俺のブレザーはいまだに黒嶺さんが所持している。
そろそろ、冬も始まるし返してもらわないと。
「にしてもここ、落ち着くな」
暖かい太陽光、手すりから見える文化祭を楽しむ人達、人混みの音をBGMにしながらゆっくり出来る最高の場所だ。
「こんな落ち着けると、俺も少し眠くなってきたな。とは言いつつ、風邪引きたくないから、寝れないんだけど」
今は、さっきまでの死が近くにある感覚とは真逆の、まったりとした空気でとても落ち着く。
というか、もしかしたら今日の文化祭はずっとここかもな。いつまで黒嶺さんが学校に残るかわかんないし。
「やっと、見つけました」
呑気に今日ここにずっといるとしたらどうしようか、考えていると。俺達が入ってきた、扉が勢いよく開き、包丁を持った黒嶺さんが出てきた。
「まずい…青空さん、起きて」
「…」
「青空さん!」
黒嶺さんがゆっくり、こちらに近づいてくる。急いで、青空さんを起こそうと体を揺らすけれど、深い眠りに入っているのか、起きる様子がない。
「青空さんには、悪いけど俺1人で…あっぶな!」
起きない青空さんを放置して、立ち上がろうとしたら、俺の右頬をすごい速度のスーパーボールがかすめていった。
「梶谷さん、逃がさないですよ。動こうとするなら、次は顔に当てますので」
そういう黒嶺さんの右手には、いくつかのスーパーボールが握られている。恐らく、縁日の出し物で入手したのだろう。
「ちょ、ちょっとまって黒嶺さん。言い訳させて本当に」
スーパーボールを持った、黒嶺さんが俺の目の前にまで来た。
「そんな、見苦しいのはいいので。さあ、早く」
早くって何?潔く死ねってこと!?
「マジで、これだけは言い訳したい。これで殺されるのは、腑に落ちないから」
そう、黒嶺さんに青空さんは俺をからかってるだけと、なんとか証明すればいいんだ。
「はぁ、しょうがないですね。聞いてあげましょう。一応言っておきますけど、言葉を間違えたらこれが前に出ますから」
「は、はひ。わかってます…」
黒嶺さんに体を押され、足での床ドン状態で包丁を目の前に向けられている。
「その、青空さんは本当に俺をからかってるだけで」
「それが、どうかしましたか?証明できるものもない」
「本当なんだよ、会う度にあんな感じのことを俺に言ってくるし」
「へ〜、毎日のように」
おっと、さっきのは蛇足すぎたかもしれない。
「違う違う、いや違わないんだけど!本当に青空さんは、俺をからかってるだけで…」
「もう話は終わりましたか?」
あ、これ黒嶺さんもとから話聞く気なかったな。
「言いたいことがあると言えば、あるけど」
「もういいですよね、こんな無駄な時間勿体ないですし。私は死の世界は信じないタイプですが、すぐに会えますよあっちで」
黒嶺さんが本格的に怖いこと言い始めたんだけど。
「それでは梶谷さん。また、あとで会いましょう」
「おい!おまえらここで何してんだ、ここ立ち入り禁止だろ」
黒嶺さんが包丁を振りかぶったタイミングで、また扉の方から声がした。
「張り紙あっただろ。何してんだここで」
黒嶺さんで被って上手く見えないけど、多分生活指導の先生だろうか。
「すみません。何かあった時のために、避難経路を確認しておきたくて」
こっちに近づいてきた先生に対して、包丁を目に見えないレベルの速度でしまった黒嶺さんが、言い訳を話す。
「お、おう。とりあえず、ここは立ち入り禁止だから、早く出てってくれ」
「そうですか、じゃあ行きましょうか、梶谷さん」
黒嶺さんが倒れた俺に向かって、早く起き上がって来い、というようなアイコンタクトを送ってくる。
「は、はい。行くよ青空さん」
仰向けで寝た状態の青空さんを背中に乗せ、黒嶺さんの後ろについて行く。
「残念でしたね、梶谷さん。心中できなくて」
「俺自殺願望ないよ」
でも、マジで命拾った。グッジョブ先生。
「ん…あれ?なんで僕担がれて。ていうか〜、さっきの美人さん…」
今頃、本当に今頃になって眠っていた青空さんが目を覚ました。
「青空さん、もっと早く起きようよ」
「そう言われてもね〜、あそこ気持ちよかったから、しょうがないよ〜」
まあ、あそこは季節的にも風と暖かさがいい塩梅で、気持ちが良かったけど。
「まあ〜、ゆうくんもおうちだけじゃなくさ〜、ああいうとこで寝てみればわかるって〜。今なら、ゆうくん大好き僕との添い寝付きだよ〜」
「は?」
どうにかして、青空さんを黙らせないと、今日中に俺の命は消えるかもしれない。




