63 変わった人
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「ただいま」
「早かったね」
忍さんが本を取りに行ってから、約3分程で忍さんが戻ってきた。
「まあ、今日は梶谷くんに本をおすすめついでに、つけようとしてたから。て言っても、これは別のやつなんだけどね」
「俺のことストーカーせず、普通に本をおすすめして欲しいんだけど」
別に俺と話すなら、ストーカーする意味ないだろうし。
(それでは、優よ先行を決めてくれ)
「勝負じゃないんだから。まあとりあえず、もともと教えてもらおうと思ってた、水無口さんからで」
水無口さんを先行に指名すると、スケッチブックをペラペラとめくりはじめた。
(この小説は、架空の国の騎士の話で表紙だけ見るとファンタジーなのだが、実はミステリーも含まれていてだな。ただ冒険をするだけではなくて、話を読み進めるほど、その世界で暮らす者たちの思惑もわかってきて、世界観に引き込まれていくぞ)
水無口さんに手渡された物は、前回同様ファンタジー。表紙には、白騎士とレッドドラゴンが、描かれている。
「この見た目で、ミステリー要素あるんだ。忍さんこれ知ってる?」
「私あんまり、ファンタジーって読まないからそんなに知識ないけど、それは知ってるかも」
ということは、そこそこ人気の高い本ということか。
(あらすじとしては、ある日国王に命じられてその表紙の騎士が、ドラゴンを討伐しに行く。という、一般的な感じのあらすじなのだが、そこには色んな者たちの国家レベルの秘密や思惑が…みたいな感じだな)
水無口さんのスケッチブック2ページを使った、本紹介が終わった。
「今回のは、前回とは違う感じなんだね」
前回水無口さんに教えてもらったのは、話の設定は今回のと似ているけれど、騎士と姫との恋愛が書かれたものだった。
(そうだな、前回はわかりやすいストーリーをしていたが、今回はストーリーが凝っていて、少し分かりにくい。その代わりに、しっかり読むことでこの本の面白味がわかるぞ)
俺は今まで、ミステリー?のような本は読んだことないから、しっかり読めるかは不安だけど、この本はおもしろそうではある。
「じゃあ次は、私の番だね。はい、梶谷くん」
忍さんから手渡された本の表紙には、真っ暗な夜に電柱の裏に隠れた女の子と、その先にもう1人男性の後姿が描かれた表紙。
「この本はね、普通のストーカーの女の子と、そのストーカーに気づいるけど、ちょっとした性癖で気付かないふりをしてる男の子のお話なの」
なんか変わった内容の本を持ってきたな。
「一応聞くけど、ジャンルは?」
「恋愛だよ」
忍さんからストーカーの本をすすめられるって、なんか自分の手の内を明かしてるみたいだな。
「それにその本、私がストーカーするのに参考にしてるの」
しっかりと自分の手の内を明かしていたみたいだ。
「それは、それは」
「あ、でも別に梶谷くんに、本に出てくるような性癖になって欲しい訳じゃないからね」
「ならないよ!」
逆にこういう本を読んで、性癖が変わることがあるのか?
「それで、梶谷くんはどっちを買うの?」
「まあ、両方とも面白そうだし、両方買うけどさ…あ」
(どうかしたか?優よ)
現在の俺の所持金を調べるため、財布を開くとまさかの本1冊分のお金しか持ってなかった。
この間、ゲーセンで使いまくったのは間違いだったな。
「金がない」
「貸そうか?」
「いいよ別に。お金の貸し借りは、友情破綻の原因だから」
「すごくいいいこと言うね」
実際それで前例ができちゃうと、このあとも忍さんに気軽にお金を借りに行くなんてことが、起こりかねないし。
(ということは、我か忍殿のどちらかの本を買う、ということか)
「そうなるのかな」
普通に考えて、もともと水無口さんの買おうとしてたし、水無口さんのかな。
「て、ことはなんだけど。その、か、梶谷くんは、どっちを選ぶの?」
「ゆ、優…くん、は、わた…しを選ん、で、くれる、よね」
唐突にハーレムものの主人公に言うような、ことを言い始める2人。
2人ともこういうような言葉を言うのは、苦手だからか、言葉がスラスラと出てこない。
困ったな、そういわれると安易に水無口さんのを選びにくくなった。
1番困るのが、2人の言い方のせいで、正ヒロインを選ぶ、みたいになってることだ。
「梶谷くんはどっちにするの?」「ゆ、優くんは…ど、どうする、の?」
忍さん、水無口さんが同時に迫ってくる。
正直、2人のおすすめしてくれた本は、両方とも気になるから決めがたい。
「やあ、少年この本はどうかな」
2人に迫られ、困り果てていると、後ろから突如、若そうな女性の声が聞こえた。
「はい?」
「これ、どうだい?」
後ろを振り向くと、本をすぐに手渡された。
俺と同じくらいの身長、短い黒の髪。ボーイッシュぽい見た目のこのお姉さんは、エプロンをしているということはここの書店員さんなのだろう。
「えっと、あなたは…」
「私かい?そこの子が知ってるんじゃない」
不敵な笑みを浮かべた書店員さんは、水無口さんを指さした。
(この方は、ここの店長だ。そして、我のこの会話方法を、考えてくれた方でもある)
水無口さんのこの特殊な会話方法の、出処はこの人だったのか。
「そうなの。で、少年その本はどうかな?」
店長さんに手渡された本。タイトルは「隣の悪魔は天使のように甘い」、明らかにラノベだ。
「ラノベ、ですか…」
「そうそう、少年みたいなのはこっち系の方が好きかなって」
めっちゃ決めつけられてるけど、間違いではない。
「そうかもですが。ちなみになぜ急に?」
「まあ、私基本暇だし。あと、面白そうな会話が聞こえたから」
どうやら、2人の声は店中に聞こえていたようで、それに面白さを見出した店長がこっちに来たらしい。
「ちなみになんですが、これは店長の趣味ですか?」
「違うよ、どっちかと言うと君にあいそうだから選んだの。私、人の相談に乗るのが得意でね、その延長の能力でその人に、今あいそうな本がだいたい分かるの」
何その能力詳しく聞きたい。それにしても、この店長めっちゃ若そうな見た目の割に、話しの内容といい、能力が年相応じゃない。
「まあまあ、ちょっと読んでみなって」
店長に言われて、本を開いてみる。
ラノベ特有の、最初のフルカラー3ページから分かるのは、時代は現代で人間×悪魔の恋愛だということ。
次に裏表紙を読んでみると、大まかさっき俺が予想したことと変わりはないみたいだ。
「どうだい?よさそうでしょ」
「たしかに…」
何となくでしかないけれど、この本は何か惹かれるものがある。
「それで、聞こうか。この3つの中で、どれを選ぶんだい?」
もう1冊本が加わってから、選択の時がやってきた。
「俺が選ぶのは、これでお願いします」
「お、毎度ありー」
俺が選んだのは、店長さんがおすすめしてくれた本。
本自体気になったのもあるけど、もう1つ2人のヒロイン選択感がなかったからというのもある。
「ありがとうございます」
「なんのことかな」
2人には先に店の外に出てもらって、店長に会計してもらっている途中で、さっきのお礼をした。
「俺が困ってる中、これで助けて貰っちゃって」
「その話か、まあいいんだよ。私って、相談とかの困り話好きだからさ。その一貫」
「そうですか…」
てか、今思ったけどなぜ俺はあそこまでして、ヒロイン選択に頭を悩ませてたんだろう。
♦
(優よ、戻ってきたか)
店長に本をブックカバーに包んでもらってから、2人のいる所へ、合流した。
「にしても、あの店長変わった人だったね」
(そうなんだ。我もここには、何度も来ているのだか、あの人は人物像のようなものが全く掴めない)
ここの店長さんは、大人の余裕のような、けれどもそれとはまた別のような、特殊な何かがあるように思った。
「てか、あの店長さん。何歳?」
(たしか、20代と言っていたぞ)
親から受け継いだとかなのかな、それにしてもここの店は綺麗な気がする。ほんとにあの店長さんは、何者なんだ。
「あ、そうだ梶谷くん。この本」
「本?」
「そうそう、もともと梶谷くんにすすめようと思ってた本」
そういえば、今日はその目的で来たんだったな。
「ありがとう。でも、いつ返せば…」
「いつでもいいけど、連絡とれないからね」
「それなら、連絡先交換しようよ」
連絡とれないから、ストーカーになるんだし、連絡とれればストーカーされないだろう。たぶん。
「ほんとに?」
「はい、俺の連絡先のQRコード。ついでに、水無口さんも交換しよ」
(我もいいのか?)
「何かしらで、委員出れない時とか連絡出来た方が楽でしょ」
水無口さんと忍さんと、連絡先を交換して。俺は同時に女子の連絡先を入手した。
私は、忍さんか水無口さんの本のどちらを選べと聞かれると、忍さんの方を選びますね。普通に面白そうなので。




