62 無口少女とストーカー少女
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(優よ、またおすすめしたい本があるのだが、いいか?)
いつも通りスケッチブックをこっちに向けて、話しかけてくる水無口さん。
「全然いいよ、前回のやつ結構面白かったし」
前回、水無口さんが教えてくれた本は、短いながらも内容がいっぱいで、後腐れない終わり方をしている、スッキリした内容だった。
(それじゃあ、探すとしよう)
目の前にある本を探す様のパソコンを使って、本を探し始める水無口さん。
「ん?」
「どうかしたの?水無口さん」
パソコンのタイピング音が消えたかと思へば、何やらパソコンの前で、微妙な表情になる水無口さん。
(探してる本が、どうやら貸出中みたいでな)
「あら、ほんと?」
本の情報欄には、貸出中と書かれている。
(すまない、今回は別の本を紹介しよう)
そう書くと、少しため息をつきながらパソコンで再検索し始めた。
「水無口さん、ないなら買いに行こうよ」
(ほんとか?)
「自分の本を、ゆっくりと読んでみたいし。あ、もしかしてなかなかない?」
借りた本だと、時間を気にして急いで読む必要があるけど、買った本なら好きな時にゆっくりと読めて、内容も掘りやすい。
(そこまで古くは無いし、大丈夫ではあるが)
「そう、それなら放課後買いに行こうか。水無口さん、今日時間ある?」
水無口さんに今日の都合を聞くと、スケッチブックで顔を隠しながら文字を書き始めた。
(だいじょうぶだ)
「そう、それなら。ここら辺の本屋って言うと…」
忍さんと多々あって行きずらい、商店街にあったような気がするな。
(それなら、我のおすすめの場所があるぞ)
「それなら、そこにしようか。商店街は、行きにくいし」
良かった、商店街に行くことは何とか避けることが出来そうだ。
(だか、少し歩くことになるがいいか?)
「全然いいよ」
商店街であのことについて声かけられるより、長い距離歩く方が、断然マシだろうし、水無口さんに着いて歩こう。
「水無口さん行こうか」
帰りのHRが終わってすぐ、水無口さんの席に行って水無口さんを呼ぶと、こくりとだけ頷いて立ち上がった。
そんな水無口さんの反応を見てか、周囲の人達数人が「あの、水無口さんが?」みたいなことを言っている。
そういや、今まで俺は、漫画以外の本を自主的に買ったことがないから、今回自主的に小説を買うのは初めてか。母さんが買ってきて、みたいなのは何度かあるけど。
まあ、自主的に買うとは言っても、水無口さんからの紹介本ではあるんだけど。そでも、普通に楽しみではあるんだけどね。たぶん水無口さんの好み的に、冒険ものだろうけど。
「そういえば、ここからその水無口さんおすすめの本屋さんって、少し歩くんだよね。どれくらいかかるの?」
「ん」
所要時間を聞くと、スケッチブックを使わず、手で20を作って教えてくれた。
「てことは、そんなにだね。ちなみになんだけど、そこって水無口さんの家近くとか?」
「ふんふん」
今度は、首を縦に振って教えてくれた。というか、そこまでして人前で会話したくないのか。
俺たちの今いるところは、部活やら帰りやらの人が入り乱れていて、俺たちの会話なんてほぼ雑音に等しいはずなのに。
♦
「ここが水無口さんおすすめのとこ?」
水無口さんに連れてこられた場所は、比較的住宅地の中にあるひとつのお店。見た感じ、個人開業の本屋だろうか。
(ここは、個人開業ながらも品揃えがとてもいいんだ)
「へー。でも、いっちゃ悪いけど人が…」
時間の問題かもしれないけれど、ここの本屋の中には人が全く見えない。絶妙にその点が、俺の不安を煽る。
(そんなのは、関係ないぞ。店長はとても良い人だしな)
「まあ、確かにお客さんの量とお店の雰囲気は別だもんね」
とりあえず、本を探そう、と店の中に入った。店の中は、外観の割に意外と広く、奥行きがある。
(我は、本を探しておく。優は、その間好きに本を見ているといい)
「それじゃあ、そうさせてもらおうかな」
店に入ってから、一旦水無口さんとは別れて行動することとなった。
俺は適当なところに、水無口さんは小説コーナーへ向かって行った。
漫画やラノベが立ち並ぶコーナーに来てみると、昔見ていた漫画の続編や受験中息抜きに読んでいた、ラノベの新刊が出ている。
「本って表紙見てるだけでも面白いな」
「あっ…」
本棚の前をカニ歩きで移動していたら、その横で本を吟味していたらしい人にぶつかった。
「あ、すみません。俺の不注意で…」
「梶谷、くん…」
俺がぶつかった人は、忍さんだったらしい。そして、俺の事を見た忍さんは、その場で固まって手に持っていた本数冊が地面に落ちた。
「わ、私がここにいるのはな、なんにもないからね!?」
「動揺すると、怪しくなるよ忍さん」
俺の姿を見てから、あからさまに動揺し始める忍さん。
その話以前に忍さんの家からここまで、そこそこの距離があるわけだし、忍さんが動揺しなくとも、そこが疑問になっただろうけど。
「一応聞いとくけど、忍さんは家がそこそこ遠いのにわざわざ、ここに来たの?」
(優よ、本を見つけたのだが、そこの女子は一体誰だ?)
「お、おなご?」
本を見つけたらしい水無口さんが、俺と忍さんの会話にスケッチブックで混ざってきた。
この水無口さんの会話方法と、独特の言い回しのせいか、忍さんは軽く混乱している。
「梶谷くん、一体その子は…」
「この子は、水無口さん。俺と一緒に図書委員やってくれてる子。今日は本をおすすめしてもらうために、ここに来てる」
「私以外の子に!?」
そんな、結婚したのか!?みたいな感じで、驚かなくたっていいのに。
「そんな驚くことじゃないでしょ」
「だって…」
まあ、忍さんにとって俺に本をすすめるというのは、大事な事だったんだろう。
(それで優よ、この女子はなんなんだ?)
「この人は忍さん。俺の…ストーカーだよ」
「友達で良くない!?」
一瞬ストーカー以外のものを言おうかと思ったけど、なかなかにそれ以外思いつかない。友達と言えば、友達なのだけれど。
(優よ、ストーカーの友はどうかと思うぞ)
俺のストーカーという紹介に、忍さんのことを軽い軽蔑の目で見つめる水無口さん。
「そんな、ストーカーだなんて…たしかに今日は、少しだけ梶谷くんをつけようかなって思ってたけど…」
つけようとって、普通にれっきとしたストーカー行為じゃねえか!
(優よ、我はあまりこの女子との交友をおすすめしないぞ)
「なに、おすすめしないって。てか、この子なに!?ずっとスケッチブックで!」
忍さんに指摘されると、少し落ち込み気味になる水無口さん。
「ま、まあ水無口さんそんな気落ちしないで」
「ていうか、本紹介するなら、私もやっていい?」
「まあ、困ることないしいいけど」
(我もいいぞ。そなたのセンスを試したいところだ)
「それなら、ちょっとまっててね」
そう言った忍さんは、既に本が決まっているのか、踵を返して急いで本を探しにいった。




