61 水無口さんの気持ち
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「よぉし、出席番号順で自己紹介してってくれ」
4月、生徒達にとってはあたらしい教室で、自己紹介が始まった。
自己紹介には、緊張しているものや全く緊張などなく、平然とした顔で、自己紹介をする者がいる。
「えっと、次は24番」
24番と言われ、水無口が立ち上がる。本人の顔は、真顔そのものであるけれど、心が乱れすぎて倒れる寸前である。
水無口は会話がとても苦手だ。それも、中学からとかそういう訳ではなく、保育園、小学生の時から会話ベタを発揮していた。
そのため、これまでビックリするほど会話をしたこと無かったし、友達もいなかった。
(24番、水無口です。好きなことは読書です。1年間よろしくお願いします)
いつも自己紹介の時は言葉がたじたじになって、まともに喋れなくなってしまうけれど、今回はスケッチブックを使う事によって、それを解消した。
もちろん水無口のスケッチブック自己紹介は特殊極めているもののため、クラスの全員が驚いた顔をして見ている。
「すごいな…水無口に質問あるやついるか?」
「はーい、なんでスケッチブックに書いてるの?」
勢いよく女生徒が手を挙げ、水無口に質問をなげかける。
「……」
水無口はその場で固まった。自己紹介文は書いていたけど、質問の答えは書いてないから、今書かないといけない。
それによく考えてみれば、今の行動は結構目立つ行動をしている。自分は、全くそういうのに慣れていないというのに。
「水無口?おーい、みなくちー」
自分の行動のことを考えたら、体から力が抜けていきそのまま椅子に座り込んだ。
「ま、まあいいか。とりあえず次の番号は…」
力なく座り込んだ水無口をそのままに、新クラスでの自己紹介は進んで行った。
自己紹介の後、水無口は何人かに話しかけられたけれど、全く会話ができずにフル無視。そのまま、時間は過ぎていった。
「図書委員、決まらないなー」
後頭部をかいて、困った顔をする先生。
クラスの、係、委員決めで他のものは埋まったものの、綺麗に図書委員だけが埋まっていない。
「誰かやりたいやつとか、いないのか?係しかやってない奴だと、嬉しいんだけと」
先生が聞いても、手を挙げるものはいない。なぜ、そこまで図書委員を嫌がるのか、分からないが。
「じゃあいないなら、ジャンケンだな。男女1人づつ」
先生の指示で、係のみに入っている男子たちが立ち上がり、上に手を挙げる。
最初のジャンケンで、一気に半分が消え。次のジャンケンが始まった。
「よぉーし、じゃあ図書委員男子は梶谷よろくな」
結果、男子は最後の2人まで行き、1対1の勝負の末、梶谷優となった。
「図書委員女子は、水無口よろしくな」
女子のジャンケンは、あっけなく2回戦で終わり。水無口に確定した。
「水無口さんか。いいんじゃない、読書趣味って書いてたし」
クラスの全員が口々に、そういうようなことを言って、水無口と優に拍手が送られた。
水無口は、最初から優とスケッチブックで会話していた訳では無い。
「水無口さん、これからよろしくね」
最初に話しかけたのは、当然だが優の方からだった。
「……」
そして、水無口は当然のように無視をする。水無口は、突然話しかけられると、頭が真っ白になり何も喋れなくなる。
両親との会話は、何とかなるけれど、ほとんど知らない、仲良くない相手には全くと言っていいほど、喋れない。
「水無口さん。ちょっといいかな」
「……」
その後も何故か優は、根気強く水無口に話しかけて行った。
基本水無口と話そうとした人は、無視されても1、2回はもう一度話しかけるけれど、全て無視され諦める。
水無口自身、そのことはわかっているけれど、本人自体会話を諦めているので、治ることもない。
それでも優は、そんなの関係なく水無口に話しかけていった。
それは、彼の優しさなのか、または別のものなのか。
(何故、優殿は我に話しかける?)
「と、殿?」
ある時、勇気を振り絞って、優にスケッチブックを向け、聞いてみた。
何故が強い水無口の語気に、若干驚いた様子の優。
(我は、いつも優殿を無視をしているのに、よく話しかける気になるな、という話だ)
「そういう話しね。にしても、口調すごいなー」
水無口のスケッチブック会話に出てくるこの話し方は、昔から読んでいる本にに出てくる、キャラの口調を真似たものになる。
「それで、話しかける理由だったよね。別にそんな大層な感じじゃないんだけど」
水無口に聞かれたことについて、優が話し始めた。
「俺、そんなに読書って好きじゃないから、こういう時結構暇だからさ、水無口さんと会話出来たらいいなってのと、あと単純に喋れた方が何かあった時助けられるしね」
この時の優は、本は読む気など毛頭ないため、図書委員中の暇つぶしは、スマホを見るか、頑張って水無口に話しかけるかだった。
「あ…ぺ……」
「ペンのこと?はい」
スケッチブックに、返答を返そうとしたけれど、ペンの持ち合わせがなかった。
ペンを貰ってから、急いで言葉を書き込む。
(それにしたって、無視は心にくるであろう?)
「まあ、こないと言えば嘘になるけど。でも、水無口さんと話してみたかったから」
水無口にとって、それは初めてのことだった。
今まで、水無口に興味を持ったとしても、無視され去っていく、を繰り返してきた人生で、初の人種だった。
(優殿は、そんなことを日常的に?)
「なんのこと?」
水無口には口説き文句のように聞こえた言葉について、少し顔を赤くしながら聞いていた。
「ていうか、水無口さん普通に会話?できるんだね」
スケッチブックを介しているとはいえ、水無口は優との会話を意外とすんなりこなせている。
(それは、我にもよくわからん。でも、優殿は何故か少しだけ話しやすいぞ)
「それは、それは光栄の至り」
水無口に軽い礼をして、喜びを表す優。
その後2人は、少しづつ話すようになっていった。
「そ、そそその…優、くんは…か、かか彼女とか…」(いるの?)
「唐突…だね」
声を少し裏返しながら、過呼吸気味になりながら、唐突なことを優に聞く水無口。
わざわざ、声を出したのは、一応重要な事だから、それをスケッチブックで聞くのは失礼だから、という考えだった。
「水無口さんって、喋れたんだ」
(流石に我にも、声帯ぐらいはあるに決まってるだろう)
声を出したかと思えば、スケッチブックの方に戻った。
「彼女でしょ?まあ、まだ居ないかな」
(まだということは、予定でもあるのか)
「いやいや、そんなのは…」
ちなみに、この時点で優は2人から告白されている。
「逆になぜ水無口さんは、そんなことを?まさか、非モテの俺を煽るために…」
(我がそんな風に見えるか?)
「そういわれると、考えものだな。水無口さん、普通に会話出来れば、数人からは告白されそうだけど」
水無口は、周りの女子の身長に比べると、比較的低い身長をしている。そして、顔つきは美人と言うより、可愛いといった感じになっている。
(なぜお前はそんなことを簡単に言えるんだ)
顔を完全にスケッチブックの後ろに隠して、優の顔を見ないようにする水無口。
「水無口さんが、可愛いから?」
(わかったから、もう言うな)
完全に優の顔が見れなくなるほど、顔を赤くしてそっぽを向く。
(でも)
「ありが…とう」
恥ずかしいながらも、優に向けて一言お礼を述べる。
「あ、あと…」
もう1つ聞きたいことができたため、スケッチブックに文字を書き込む。
「っ……!」
「ど、どうしたの!?急いで文字消し始めて」
スケッチブックに書き込んだ3文字を、近くにあった消しゴムで、急いで消す。
自分が聞こうとしたことが、どれだけ恥ずかしかったかに気づいた水無口は、改めて同じページに文字を書き始めた。
(なんでもない、きにするな)
急いでいたからか、書いた文字の下には「好」の字の跡のようなものが見える。
この日以降も、2人仲はどんどん深まって行った。水無口の、優殿という呼び方は、「殿」という漢字が画数多くて大変、ということで呼び方は優になった。
良くストックのパート数見たら、1話ズレていて絶賛修正中です。




