57 兄としては
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俺は由乃に優來に関する、知ることほぼ全てを話した。
由乃は、話の途中深刻そうな顔をすることはあったものの、紅茶を飲んだりしてそれを押え、静かに話を聞いてくれた。
「と、まあだいたいこんな感じ。紅茶もなくなったっぽいし、入れ直そうか」
由乃のティーカップを見ると、紅茶が全てなくなっていたため、紅茶を入れ直してあげた。
「どうぞ」
「ありがとう…」
話がそこそこ重かったからか、少し気まずそうな由乃。そして、次に話を出すのにためらっている様子だ。
「なにか、あるなら言っていいぞ」
由乃が話しやすいように促す。
「そう、それなら聞くんだけど。優來ちゃんのこと、助けてあげられなかったの?」
「やっぱ、そうなるか」
聞くことってなると、そういう話になるよな。
「これは言い訳になると思うけど、その時の俺は勉強のストレスで、いろいろとやばかったんだよ」
「なによ、いろいろって」
「そこは、な」
ほあの時の俺は、勉強のストレスでほんとにやばかった。狂ってた、と言ってもいい。しかも、そのせいで1ヵ月、1ヵ月だけ変なことにハマる始末。
「だから、正直俺もあの時の俺を殴りたいぐらいなんだよ」
これもまた言い訳になるけど、今の俺なら優來の異変にも気づけたはずだ。
それに、中学の時は今よりもっと近くにいたはずなのに、気づけなかったのがもっと悔しい。
「逆になんであんたはそこまで、勉強してたのよ」
「学力が足んなかったんだよ!」
俺達の通っている高校は、内申よりも学力を重く見るとこで、その学力が俺は大幅に足りていなかった。
「そこまでして、行く理由でもあったの?」
「かかったから…」
「え?」
「近かったから…」
「しょうもな!」
近いから、というのが理由としては強かったかもだけど、見学に行って楽しそうと思ったのは本当だ。
にしても、距離で大事な高校生活の行先決めるって、終わってるな。まあ、普通に今楽しいからいいけど。
「それに、お前が行くからってのもあったけど」
「は、はぁ?」
俺が行こうと思ったのに、由乃が行くからというのもあった。高校生活で、気軽に話しかけられる人がいるのは、困ったとき、言い方悪いけど便利だから。
「にしても、ほんとに羨ましいよ。たしか、由乃って学力は十分で楽そうだったし」
受験期間の由乃は、俺に比べて気が軽そうに見えた。
本人に勉強の進捗を聞いたときは、安心はできると言っていた。
「まあ、中学の時は勉強ぐらいしか取り柄なかったし…」
「その時、勉強教えてもらえれば、もうちょい楽だったのかな」
受験に向けての勉強は、1人部屋にこもって無限にやってたけど、友達たちと楽しくやるべきだったかも。
「でも、結果合格したんだからいいじゃない」
「まあな、結果優來がこうなっちゃったんだけど」
「それは…」
どちらかとると、もう片方、優來か合格のどちらか失う。完全に二択選択だったのかも。
「てか、そうだ高校。優來ちゃん、今年受験でしょ?どうすんの」
そうか、優來は今年受験なのか。
「このままだと通信かな。今日みたいな日が続いて、くれればいつかは、普通のとこに通えるかもだけど」
「それって…」
「本人次第だな」
そこは、優來の問題で俺は簡単なサポートぐらいしかできない。
「まあ、最低高校はいかなくてもいいかもだけどな」
「ほんとに言ってる?」
由乃が俺を、まともじゃないみたいな目で見てくる。
「これは最近知ったんだけど、高卒自体は高校行かなくても取れるみたいだから」
「そうなの?」
「最近、元不登校系人の動画で見た。ちな、同い年」
「また、変なとこから」
だから、最低優來が精神的に学校に行けなくても、大丈夫ではある。それに…
「俺は優來が、普通に暮らしてくれるなら、何でもいいしな。まあ、今はちょっと普通からずれてるかもだけど」
人生意外とどうにかなるものだし、優來にはとりあえず健康的に過ごしてもらえれば、なんだっていい。
「まあ、私はまだあんたの家族じゃないし、これ以上は言わないけど。いいんじゃない?それでも」
考え方的には、少し普通じゃないかもだけど、これが1番いいような気がする。
てか、いま由乃「まだ」って言わなかった?気のせいだよな。
「お兄、ごめん…寝てた?」
「別にいいぞ」
話に一区切り着いたタイミングで、ちょうど俺に寄りかかっていた優來の目が覚めた。
「あと、お兄ありがと…」
「なんの事だ?まあ、どういたしまして」
起き上がり、何故かお礼を言われたので、頭を撫でてあげた。
「じゃ、私もそろそろ帰ろうかしら」
「いやー、ほんとに今日はまじで、ありがとうございます。お礼に頭でも撫でましょうか?」
「い、いいわよ別に。まあ、あんたがやりたいならいいけど」
「いや、そこまでじゃないんで」
「なんでちょっと、引くのよ!」
由乃が来てから既に、5時間ほど経過していて外は少し日が傾いてきている。予想以上に、重い1日だった。
「それじゃあ、またどっかで」
「ただいまー」
由乃を見送るため、優來を置いて玄関に行くと、予想より速いタイミングで、母さんが帰ってきた。
「あら、由乃ちゃん来てたの?男女2人っきりで何してたの?」
母さんが、軽くニヤニヤしながら俺たちに聞いてくる。
「いや、今日は2人っきりじゃなくて…」
「お母さん、おかえり…」
気まずそうにしている優來が、リビングの方からひょこっと顔をこちらに見せる。
「優來!出てきてくれたの!?」
優來の顔を見た途端、その場に靴を脱ぎ散らかして、優來に抱き着く母さん。
「く、苦しい…」
「ああ、ごめん嬉しくてつい」
優來に言われて、優來の拘束をほどいて、顔をまじまじと見る母さん。
「ほんとに、優來なのよね?」
「ほんと、幽霊…じゃない」
優來が出てきたことが、ほんとに信じられないのか、何度も確認を取り始める母さん。
「母さん、そろそろ解放してあげなよ。にしても、帰ってくるの早かったね」
「意外とスムーズに終わったの。そんなことより、買い物行かなくちゃ」
「そこにある袋は?」
現在玄関のカーペットの上には、買い物袋と思われるものがほっぽり出されている。
「何言ってんの、お赤飯を買いに行くのよ」
「そんなに?」
「そうに決まってるでしょ?こんないい日に食べなくてどうすんの」
ただ優來が部屋から出てきただけでこれって、完全に復帰した時はどうなる事やら。
「だから、そこのやつ冷蔵にしまっといて」
そういうと母さんは、急いで玄関へ向かう。
「ただいま。母さん、どうしたの?」
「優來が部屋から出てきたのよ」
「え、ほんと?優來が、でてきたのか!?」
母さん同様に、父さんも優來を見ようと、慌ただしくなり始めた。
「そうなの、だからお赤飯買いに行きましょ」
「それはいいんだけど、せめて1目だけでも…」
「いいから、はやくはやく」
母さんに押されて、2人は家の外に出ていってしまった。
父さんと母さん昔から、優來には少し甘いとこがある。正直今の反応は、甘いとかのレベルでは無いとも思うけど。
「凄かったわね」
「まあ、あの2人は優來のこと溺愛してるから。まあ、良かったな優來」
「うん、少し楽になった…」
思っていた事とは裏腹に、母さん達の反応が良かったからか、少し気恥しそうな優來だ。
「とりあえず、今度こそ私は帰るわね」
「じゃあな、また学校で」
「それじゃあね」
いろいろ重なって少し遅れていたけれど、由乃がようやく家へ帰ることとなった。ほんとに今日を思い返してみると、由乃様様としか言いようがない。
「あ!由乃ちゃん。今日、ご飯食べてかない?」
「いや、悪いですよ。こんないい日なのに」
「いいのよ、そっちのお母さんには私が言っとくから。なんなら、このまま買い物行きましょ」
「えぇ…」
外から上機嫌な母さんの声と、若干引いた声の由乃との会話が聞こえる。
「これは、また由乃が来そうだな…とりあえず、これはしまうか。優來手伝って貰っていい?」
「うん、まかせて」
母さんの置いていった、食材たちを台所にまで運んで、優來と一緒にしまうことになった。
今の優來は、今日最初にあった時に比べて、少し笑顔が戻ったと思う。




