48 刈谷さんからの情報
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今日刈谷さんを監視、もとい観察してわかったことは1つだけ。
実際観察だけで、相手の好きな物を知るのは無理があった。別に刈谷さんに素直に聞けば、簡単に教えてくれるだろうけど、それは最終の案として使いたかった。
まあ、今日は寝よう。観察したり、いろいろ考えたりでほんとに疲れた。明日のことは明日考えよう。
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重さできしむベッドの音。その音が止まると、俺の足に何かが絡みついた。
「刈谷さ…近っか!」
「この距離だと息が当たっちゃいますね」
いつも通り刈谷さんかと思って、目を開けると刈谷さんが顔を近づけ、俺のでこに刈谷さんのでこを当てられた。
超至近距離な関係上、唇とまではいかないけれど、お互いの息が混ざりあう。
「刈谷さん近いんだけど」
「このまま、チューしますか?」
「そんなのいいから、とりあえず離れて」
刈谷さんに馬乗りされたままではあるけれど、一旦刈谷さんの顔を引きはなす。
「急になに?いつもと違くない?」
いつもは服を脱がそうとするのに、今日は何故か体温を測るような感じだった。
「なんだか今日の優くんは、いつもよりぼーっとしてる事が多かったので心配で」
「あー、ほんとに大丈夫だから。気にしないで」
「体温は、大丈夫でしたし、確かに大丈夫そうではありますね」
なんでおでこ合わせただけで、大まかな体温がわかるんだよ。感覚、鋭すぎない?
「そしたら、なんでそんなにぼーっとしてたんですか?」
「うーん、まあいいか刈谷さんのこと考えてたんだよ」
「優くん…ついに私との交際を真剣に…」
やっぱそうなるよね、だから絶妙に言いたくなかったんだよ。
「交際はまた別として。刈谷さんが好きな物とかを、考えてたの」
「だから、お昼の時間とか授業中に私をチラチラ見てたんですね」
「気づいてたなら、言ってよ…」
気づかれてるのに、俺はバレてないと思って観察してたのがバカみたいじゃん。いやはや、女性の感は恐ろしい。
「それにしても、なんで私の好きな物なんかを?」
「ちょっとね」
田中のことを、勝手に俺が話すのはダメだろうし話さないでおこう。
「そうですか、話すつもりはないんですね」
「まあ、これは俺1人の話じゃないから。でも、刈谷さんの好きな物を知りたいのは、ほんとだから」
「やっぱ、私との交際を?」
「そうじゃない」
本心を言うと、恍惚そうな顔でお付き合いについて、言い始めたためはっきり否定しておく。
「思ったんだよ、俺の情報だけ出まくって、刈谷さんのことなんも知らないなって。この距離感なのに」
「確かに、この距離は恋人並みですね」
「わかるなら、降りてくれないかな」
さっきから俺は、刈谷さんに押し倒されたような状態で話していて、刈谷さんもそれを全く気にせず会話に参加している。
「そもそも、刈谷さんが段階を飛ばしすぎてるってのもあると思うけど」
「そうですか?私はこれが正しいって、見たんですけど」
「何を参考にしたかは知らないけど、たぶそれは間違ってるよ…」
さすがに距離をつめるにしても、夜這い以外の方法はある気がする。
でも実際のとこ、この夜這いで俺と刈谷さんは、前よりもよく話すようになったから、あながち成功とも言えなくはないのか。
「それで、私の好きな物でしたよね」
「降りるつもりは全くないんだね」
「別に私の好きな物ぐらい、聞いてくれればいくらでも言うのに」
刈谷さんは、力ずくじゃないと降りてもらえないっぽいな。
「いや、明日聞こうと思っもてたんだよ。今日は刈谷さんを知ろうと思って」
「だから、私をチラチラと…」
「まあ、結果的にほぼ何も得られなかったんだけどね」
ほんとに今日の俺は、刈谷さんを舐めまわすように見る、ヤバいやつだったと思う。
「それじゃあ私のことですよね。まず、スリーサイズは上から90…」
「違う違う!そんなのじゃなくて、もっとマイルドなやつだから」
スリーサイズは、少し気になりはするけど、俺が求めてるのはそれじゃない。
「ほんとに、ただ好きな物でいいから」
「そうですか、て言ってもわたし好きな物って対してないんですよね」
「そうなの?」
刈谷さんは、できること多いくて器用だから、好きなものとか、ことは、結構あると思ってたんだけど。
「はい、これといって趣味自体も強いて言うなら、優くんへの夜這いですかね」
「それは、趣味にしない方がいいと思うよ」
余裕の笑顔で、トンデモ発言をする刈谷さん。
「なので、好きな物も」
「へー、刈谷さんって意外と普通なんだね」
「意外ってなんですか、意外って」
刈谷さんにしては、珍しく大きめの声で抗議している。
「にしても優くんが、私の事そんなに知ろうとするなんて、珍しいですね」
「確かになんだか、変だったかもね」
刈谷さんに言われて、思ったけどどうして俺は、ここまで刈谷さんに執着してたんだろ。今日のこと考えると、笑えて来るな。
「好きな物そんなにないとは言いましたけど…優くんのことは大好きですよ」
寝た状態の俺の首に腕を回してハグのような形になった後、耳元で「大好き」とささやく刈谷さん。
「と、とりあえず刈谷さん、帰ろうか」
今の激近ボイスは、あまりにもお耳が幸せすぎて、刺激が強かった。
「このまま、続行じゃないんですか?」
「まあ、いいやこのまま」
刈谷さんが俺に抱き着いたまま、重い上半身を起こして、抱っこのような状態で床の上に立ち上がる。
「ほら、刈谷さん帰るよ」
「えー」
「えー、じゃなくて」
なんで急に子守みたいなことしてるんだろう。
「刈谷さん子供じゃないんだから」
「いえ、私の両親から見たら私は子供ですよ」
「まじめに屁理屈言わないでよ」
とりあえず、このまま下に降りよう。刈谷さんが抱き着いてて、動きにくいけど。
「お茶でも飲んでから、帰ろうか。今日は刈谷さんに、相談聞いてもらったし」
あれを相談と言っていいのかは、微妙かもしれないけど。
「よしよし、してください」
「したら降りてよ」
そういって刈谷さんの頭をなでると、嬉しそうな声を出している。
1階に降りると、珍しく約束を守ってくれてあっさり降りてくれた。その後は、刈谷さんにお茶を入れてもらって、刈谷さんを家まで送った。
*
廊下の方から、男女の会話する声が聞こえる。
菫色の髪の少女が、真っ暗な部屋の壁際でスマホを見ている。
彼女が見ているのは、検索アプリ。検索内容は「深夜 隣の部屋うるさい 何してる 知恵のカバン」。
今日たまたまいつもしているイヤホンを外してゲームをしていて、耳に入ったのは会話の断片。「交際」や「夜這い」といった単語の数々。
そしてその声は、男の声だけではなく、普通はいないはずの女性の声も混ざっていた。
彼女は一通り検索結果を見た後、検索アプリからソシャゲに切り替えて、壁際に座ったままゲームを始めた。
「まぶし…」




