44 隣で料理をしている石橋さんは俺に薬を盛ろうとしてくる
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「梶くん、久しぶり!」
人が居るかの有無を確認して、静かな調理室に入ると、スマホを見ているロングヘアーの女の子に名前を呼ばれた。
「石橋さんも、受験前以来だよね」
石橋さん、俺と由乃と同じ中学出身の子。つまりは、おな中だ。今日俺が呼ばれたのは、中学の時から定期的に行っている、石橋さんの料理を食べるというイベントのためだ。
「石橋さんは、調理研究部入ったんだね」
「うん、まあ部員少ないし。今日は、私以外誰もいないから私1人なんだけど」
しっかりとは覚えてないけど、たしか部活動紹介の時、2、3年で4人とかって言ってたっけ。
「それで、高校になったわけだけど、いつも通り食べて感想言えばいい感じ?」
「ちょっと違うんだなー、それが」
エプロンを着た石橋さんが、人差し指を左右に振っている。
「今年は、梶くんも一緒に料理してみない?いつも暇だったでしょ」
「いいけど…俺エプロン持ってないよ」
「そこは大丈夫、エプロン持ってきてます」
「用意がいいようで」
これは中学の時からだけど、石橋さんは異様なまでに準備がいい。
「で、今日はなにを作るんですか先生」
石橋さんに渡された、何故が俺にピッタリなエプロンを着て俺と石橋さんがこの会を初めて以来初の、俺が台所に立つ回になった。
「先生だなんて、私なんてまだまだだよ~」
そう言う石橋さんは、まんざらでもなさそうだ。
「で、今日は簡単な肉じゃがでも作ろうかな。味の好みある?」
「好みは特に…あ、甘い感じじゃなくて、しょっぱめで作れる?」
肉じゃがの味で、前回刈谷さんが作ってくれた、肉じゃがを思い出した。結果的にあれは、青空さんがほぼ食べちゃって、俺はたいして食べれなかったから、もう一度食べたいと思っていた。
完全再現は、無理だろうけど。
「あーだしが効いてるとか、そんな感じかな」
「まあ、そんな感じかな?」
「じゃあ作っていこう!」
今回は、趣向を変えた石橋さんとの料理作りが始まった。
「ところで、梶くんの料理経験はどんな感じ?」
「えっと、家庭科の調理実習と夏休みの宿題かな」
「じゃそんなに経験はないのか…」
それも基本大事なとこはやらずに、簡単な包丁作業とかだけという。
「別に邪魔そうならどくけど、別に石橋さんの料理作るとこ見てて飽きないし」
「そう言うことじゃなくて、ただ私が気になっただけだから。でも…そう言ってくれるのは嬉しいかな」
俺がほめたことに、少しばかり気恥ずかしそうにする石橋さん。
「あ、でも梶くんがやめたいなら止めはしないけど。もちろん私は、料理中、できるだけ手伝うけど」
「それならやってみようかな。じゃあ、本格的にお願いします先生」
「任せなさい」
脱線はしたものの、石橋先生との料理がスタートした。
「作り方は、わかる?」
「まあ、なんとなくだけど知ってはいるよ。とりあえず、野菜洗えばいいんでしょ」
「そこは大丈夫、いくつかのはもう下準備済んでるから」
「準備いいね…」
これ俺いらなくね?
セットしていた10分のタイマーの音が、教室中に鳴り響く。
「お、なったね。出来栄えはいかほどに…」
石橋さんが、おいていたアルミホイルの落し蓋を取って中身を確認する。
「おー、見てよ梶くん」
「いい感じだね」
完成した肉じゃがを見ると、そこには家でよく見る肉じゃががある。
まあ俺、野菜炒めただだけでほとんど、何もしてないんだけど。
「それじゃあ、よそっちゃおっか」
2人分の皿を持ってきて、肉じゃがを盛り付ける。匂いからしてめちゃおいしそうで、俺の中の期待値がどんどん上昇していくのが、わかる。
「それじゃあ、いただきまー…石橋さん何してるの?」
「こっちは、私が同時進行で作ってたかぼちゃの煮付けだね」
そういえば、何やらかぼちゃを切っていて何に使うのか疑問だったけど、それだったのか。全く気づかなかった。
「まあ、とりあえずいただきます」
ほぼ石橋さんが作った肉じゃがを口にする。味は刈谷さんの作ったものとは言えないけれど、これはこれで全然美味しい。
「石橋さん美味しいよ。でもこう見ると、ほんとに石橋さん上達したよね」
石橋さんはもともと、初愛佳さん並みの料理下手でこの回も、石橋さんの料理下手を治すために、行っていたものだ。
「昔のは凄かったもんね、途中途中味見してるのに変な味になるから、みんなに味障疑われちゃってたし」
人を味障扱いって、結構ひどいな。まあ、あの味でしかもちゃんと味見してるってなると、わからなくもないか。
「とか言ってる間に、こっちも完成したよ」
少し前のことを思い出してると、石橋さんの方のかぼちゃの煮付けが完成したらしい。
話してる間もずっといい香りがしていて、俺はすごく気になっていた。
「で、最後にこれを入れたら完成」
「それは?」
石橋さんがポッケから取りだしたのは、刑事ドラマでみるような正方形の袋に包まれた白い粉。
「なにって、ただの味〇素だよ」
かぼちゃの煮付の味付けって甘いのに、味〇素入れるのか。
「というか、味〇素ってそんな袋に入ってたっけ?どちらかというと、睡眠薬みたいな見た目だけど…」
「そ、そんなね〜?ただの調味料だよ~」
俺がただ思ったことを言うと、明らかやましいことのある白々しい反応が返ってきた。
なんか、怪しいな。
「ちょっと、待って石橋さんほんとにそれ味〇素なんだよね?」
「そ、そうにに決まってるじゃん。振りかければだいたい美味しくなる、最強調味料だよ」
「へー、じゃあちょっと舐めてみてよ」
そう、やましいことなくて、ただの味〇素なら舐められるはずなんだ。
「そ、それは健康上ちょっと…」
「ほんのちょっとでいいからさ、だってそれ日本人が見つけた味覚をただ濃縮したものなんでしょ?」
「その情報は知らなかったけど」
実際に石橋さんが何を持ってるか、わかんないけどこれは白状させないと危ない気がする。俺の高校に入ってから、培われた勘がそう言っている。
「そんなに、舐めなくないならしょうがないか」
「う、うんじゃあ入れちゃうね」
「じゃあ、誰かに舐めてもらおうか。石橋さんが無理ならしょうがない」
誰かにこれを押し付けるのは、申し訳なさすぎるけどしょうがない舐めてもらおう。さすがに毒とかでは無いと思うし。
「えぇ…で、でも今から呼ぶのはさすがに失礼というか…」
「さすがに、誰か学校残ってるでしょ。それに、呼べば来てくれる人は心当たりあるし」
校内に誰もいなければ、刈谷さんとか由乃は来てくれそう。それに、俺の予想だと初愛佳さんはまだ校内にいると思う。
「とりあえず、まずは初愛佳さんにでも…」
「わかった!話す話すから呼ぶのやめて!」
ただの味〇素のはずなのに、何かを話すと言う石橋さん。
「で、その白い粉はなんなの?」
「えっとこれはー睡眠薬です…」
「えぇ…てか、あってんのかよ」
見た目からしてそれっぽいなとは思ったけど、まさか当たっているとは思ってなかった。
「でも、俺に睡眠薬盛って何するつもりだったの?」
「いやー、それは一身上の都合で言い難いかなー」
「言って」
「はい。梶くんの寝顔撮るなり、そのままどうにかしようかと思ってました」
どうにかって、何しようとしてたんだ。考えるだけで、少し寒気が…
「別に寝顔ぐらいなら、どうにかできるでしょ。そんな危ないことしなくたって」
とは言ったけど、何気に今まで寝顔は撮られたことないかもしれない。
「でも、そういうのって自分で撮るこそ価値があるわけで」
「なにその、謎のプロ意識は」
こんなことでプロ意識出されても、困るんだけど。
「もういいや、石橋さんも食べよ。そのかぼちゃの煮付けも」
「え、いいの?じゃあ入れちゃうね」
「そうじゃなくて」
薬を入れようとする石橋さんを押えつつ、肉じゃが同様にかぼちゃの煮付けも皿に盛り付ける。
「肉じゃがはもう冷めちゃったかもね」
肉じゃがは確かに冷えて生ぬるい感じになっている。それでも、普通に味はそのままで美味しい。
かぼちゃの煮付けも、かぼちゃにしっかりと汁の味がしみていて、しっかり甘いかぼちゃの煮付けになっている。
「で、石橋さん言っとくけど人に薬盛るのはダメだからね」
「梶くんは、私をなんだと思ってるの。そんなのわかってるよ」
「いや、わかってないから言ってるんだよ…」
というか、今思ったけど薬盛りたい相手の目の前で行動するって、大胆なことしたな石橋さん。
「はい、もうこの話終わり。石橋さんが俺の事好きで、薬盛ったのもわかったし」
「うんそうだ…えぇ!」
最近のことで予想してみたけど、俺の思い上がりではなかったみたいだ。
「しょうがないでしょ!私自身ないんだもん…」
「そんなに自分を卑下しなくたって。別に石橋さんは、十分人を惚れさせる力あると思うし」
「そ、そうかな〜」
褒めるとやはり満更てもなさそうに、する石橋さん。
「でも、告白はしっかりしたかったな。こんなバレ方するなんて、少し残念」
「そもそも、俺の前で薬を盛ろうとしなければ良かったのでは?」
「なるほど!じゃあ次回は、わかりにくくするね」
「提案した訳じゃないんだよ」
石橋さんは変なとこ抜けてるのか、自分の手の内を証すぎじゃないか?
逆にそのおかげで助かった訳だけどさ。




