37 女を交換
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「あっつ」
冷房がないからか、体を冷やすのは扇風機のみ。夏の朝に扇風機1台は、さすがに力不足。あまりにも暑すぎる。
忍さんが寝ていた方を見ると、敷布団は放置されているけれど、居ないということは帰ったのだろう。
「とりあえず起きよ」
軽い筋肉痛で痛む体を動かして、寝癖はそのままばあちゃん達のいる2階へ降りる。
「あら、優ちゃんおはよう。遅かったわね」
「昨日はいろいろ疲れたからね」
「梶谷くん、おはようございます」
「あ、忍さんおは…いや、なんでいんの!」
リビングに行くと、完全にばあちゃんちの風景に溶け込んだ忍さんが、お茶をすすっている。
「いやー、おばあちゃんびっくりしたよ。優ちゃん起こそうとしてら、ニヤニヤ顔で雑誌読む忍ちゃんいたんだから。優ちゃんが、不思議な力でTSしちゃったのかと」
「ばちゃん、難しいの知ってるね…」
どうやら俺は、老人の早起き習慣をなめていたらしい。というか忍さん、俺に見るなって言っといて、ちゃっかり1人で雑誌見ようとしてたんだな。
「私、何もしてないよ」
「まだ何言ってないよ」
「にしても優、いい女捕まえたなー。まさか、ここまで来てくれる彼女だなんて。しかも、俺たちが寝てる間に、連れ込むとは」
まて、忍さんは俺との関係をどう説明したんだ。
「しかも忍ちゃん、礼儀もできてるしいい子じゃない。それに可愛いし」
「そんな、私なんて」
礼儀がいいか…ストーカーは礼儀の範囲なのだろうか。
「で、忍さんはいつ帰るの」
時間的に始発は出てるだろうし、次は昼の電車しかない。
「そう邪険にしてやんなよ、彼女なんだろ」
「いや、俺と忍さんは、もういいや。で、どうすんの」
ツッコミというか、誤情報の訂正はもう嫌になってきた。甘んじてこの状況を認めよう。
「そうだねまあ普通に、お昼には帰ろうかな」
「そう、別に優ちゃんがいる間いてくれてかまわないのよ」
「私、ちょっと予定があるので」
そういや、忍さんもおばあちゃんのとこ行こうとしてたんだったな。
「じゃあ、昼食べてけよ」
「ありがとうございます。手伝いましょうか?」
「もう、別にいいのよ。まだ時間あるし、優ちゃんここら辺案内してあげなさいよ」
この2人は俺に偽彼女(2人目)ができて、完全フィーバー状態だ。
「じゃあ、忍さん行こうか」
「う、うんわかった」
彼シャツ状態の忍さんを引っ張って、外に連れ出す。
「「あ」」
外にでると昨日と全く同じ展開、綾ちゃんとであった。
「あ、えっとこれはですねー」
「ごめんなさい!」
一言あやまって、綾ちゃんはどこかに行ってしまった。
「昨日と全く違うねあの子」
「一応あっちの方が、いつも通りに近いんだけど…」
にしたって変わりすぎでは!?もしや、実は綾ちゃんには活発な双子がいて、昨日のはその子の暴走という…それはないか居るなら、気づいてるだろうし。
「そういえば、忍さん服それでよかったの?」
完全部屋着みたいな状態なのは別として、昨日の夜、上の下着付けてなったぽいし。
「別に大丈夫だよ。この服は、梶谷くんのだし、それに上は起きてからつけたしね。さ、触ってみる?」
「別にいいよ!忍さんは、恥ずかしいなら無理して言わないでよ」
忍さんは、青空さんや黒嶺さんみたいに、攻めたことを言うのが苦手みたいだ。まあ、あの人たちはバグの領域だけど。
「とりあえず、面白味のない父さんの地元ツアー始めようか」
「私、梶谷くんの思い出の場所行ってみたい!」
「早いね。いいけど、虫出るかもよ」
思い出といっても、ここの思い出は少年の時の思い出が強いから、基本的に川やら、木々の中になる。
「虫?それは避けてほしいかも」
「おっけ、ほとんど虫が出ないとこにするよ」
忍さんはあまり虫が得意ではないらしい。反応的にめちゃ、といった感じではないみたいだけど。
「ばあちゃんただいま」
「優ちゃんおかえり。ちょうどできたとこよ」
そういわれて食卓の上を見てみると、一般的なそうめんがおかれている。
「忍さんは、電車がくるまで時間がそんなにないから、早めに食べないとね」
「えー」
「さっきも言ったけど、別にいいのよ優ちゃんが帰るまで居ても」
「それなら…」
「忍さん予定あるんでしょ」
ただでさえ、昨日すっぽかしてんのにフルですっぽかすのは、流石にダメだろう。それに、忍さんのおばあちゃんも、忍さんに会いたいだろうし。
「はーい…」
「優ちゃんたら照れちゃって。カッコつけなくていいのよ」
外に出て、疲れはまあまあとれたけど、流石に彼女フィーバー中のばあちゃん達の対応は疲れるな。
「じゃあね、忍さん」
「じゃあね、梶谷くん夏休み明けに」
隠し場所からキャリーバッグを取り出した忍さんが、電車に乗り込み手を振りながら去っていく。
忍さん、夏休み明けも会いに来るのか、別に来るのはいいけどまともな会い方を期待しよう。
「そういえば、服返してもらってないな」
まあ、忍さんとはどこかで会えるだろうし、その時何かしらして返してもらおう。
そんなことよりも、だ。忍さんを見送ったはいいけど、綾ちゃんをどうにかしないとな。まあ、さっきの反応をみると、心配はする必要はないと思うけど。
「失礼します」
「あ、綾ちゃん」
「優…くん」
ゆっくり、家の方に戻るとばあちゃんの家からお辞儀をして出てくる、綾ちゃんと出会った。なんだか、家の前で綾ちゃんとよく合う気がする。
「なんか、持ってきたの?」
「う、うんおばあちゃんが野菜持っててって」
「「…」」
昨日のも相まって、めちゃくちゃ気まずい。
「そ、それじゃあ俺戻るから」
「ちょっとまって!」
「は、はい」
もしやついに、俺を襲う決意を!?しかも外!それに真昼間!
少しふざけたけど、俺の腕を掴む綾ちゃんの力はそんなに強くは無いんだよな。なんなら、優しい握り方。
「そ、その、また夜に優くんの部屋に行ってもいいかな?昨日のこともちゃんと話したいし…」
「まあ、いいけど」
今の態度を見るに、昨日のようなことにはならなそうだし。それに、毎年気まずい顔して綾ちゃんに会うのも嫌だしね。
綾ちゃんと約束してからは、特段変わったことはなく。じいちゃんの畑を少し手伝ったり、おばあちゃんちにありがちな変わったお菓子を食べたりして、過ごした。
昨日と全く同じ時間に、家のインターホンが鳴り響く。家の中で起きているのは俺のみ。俺は1人静かにスイカに塩を振って食べている。
「あやひゃん、どうぞどうぞ」
「ちゃんと、飲み込んでから来なよ」
スイカを咀嚼しながら出迎えると、至って普通、至極真っ当なことを言われた。
「とりあえずどうぞ、昨日と同じ感じで」
綾ちゃんを2階へ行くのを促して、俺は昨日と同じようにコップにお茶を注いで2階へ上がる。
「お待たせしました」
「おかえり」
部屋に入ると、綾ちゃんは昨日と違ってつかれたようすはなく、静かに窓の外を見ている。
「なんで、外見てんの?今日満月じゃないのに」
「そんなに、昨日と変わった感じしないけどね。逆に優くんはよく、昨日満月だってわかったね」
「こっち来る時、たまたま何かで見たんだよ。でも、そうだね見分けつかないかも」
綾ちゃんの言う通り、月の形は昨日からほとんど欠けていない。昨日満月と知らなかったら、今日満月と言ってもおかしくは無い。
「それで聞きたいんだけど、綾ちゃん俺の事好き?」
「え、ええ!?」
俺もこんなナルシストなこと言いたくなかったけど、今までの綾ちゃんの行動には、とてつもない既視感があった。
「そ、そんななんで…」
「今までの行動から考えればだいたい。それに、あれを好意じゃないとすると、綾ちゃんがヤレれば誰でもいいってことになるし」
「私そんな人じゃないよ!」
「でしょ?」
正直自分から聞くのは、とてつもなくやりにくかったけど、話を手っ取り早く終わらせるなら、これが一番の手だと思う。
「うん私、優くんが好き。ずっと、小さい頃から。優くんは私の初恋」
人の初恋の人になれるなんて、光栄なものだ。とは言っても、今までの人生でそんな綾ちゃんに見初められることなんてあったっけ。
「でも、答えは返さなくていいから。ほんとに、私はこれだけで満足だし、それに私が優くんと付き合えるわけないし」
「別に綾ちゃんだって、可愛いのに」
「かわ…」
率直な感想を言うと、面食らったのか一気に顔を赤く染めあげる。
「でも、私なんて無駄に体が大きいし、それに足だって太いし」
「最近は、ムチムチ最高!って人多いらしいけど」
「そ、そんなに…」
俺の中では、ムチムチ最高!という意見は分かるような、分からないようなという中間を漂っている。
「そ、それで優くんは昨日のことが知りたいんだよね」
「まあ、そうだけど」
もうちょい綾ちゃんの可愛いとこ、を言いたいけれども本人が今にも倒れそうだし、切り替えていこう。
「私ね実は…」
昨日よりも優しい力で、ベッドの上に押し倒され、昨日と同じように四つん這いで覆い被さられる形となった。
「私、オオカミ女なの」
「おおかみ女?」




