23 本好きな少女と殺人願望少女
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「梶谷さん、お見舞いですよ」
忍さんから貰った本を読んでいると、看護師の人が病室の入口へやってきた。退院まで残り2日というとこで、多分忍さんが来てくれたのだろうか。
「失礼します」
「くろ…ねさん…」
礼儀正しく病室に入ってきたのは、フルーツ籠を持っている黒嶺さんだった。何気にこの人、今までお見舞い来てなかったな、1番の原因レベルの人なのに。
「梶谷さんは…一人部屋なんですね」
「い、今のところはそうなるねー」
危ねー、忍さんがタイミング良く退院してくれてて良かった。お弁当不味いの会話で襲ってくるくらいだし、病室相部屋とかどうなっていたことだろうか。
「でも良かったです、梶谷さんが生きてるようで。私、心配していたんですよ」
「へ、へーありがとう」
俺の事殺そうとしてて、どの口が言うんだとしか思えないけれど。
「でも、勘違いしないで欲しいのは、私この状況ならいつでも梶谷さんを殺せるので。くれぐれも、発言には注意を」
そう言った黒嶺さんは、フルーツ籠の中からフルーナイフを取りだして、俺の首元にフルーツナイフを向ける。
「へ、へーそれは怖い」
まあ、フルーツナイフぐらいの切れ味なら、そこまで殺される心配は無いな。
「信じていませんね、なら見せてあげましょう。こちらに紙が1枚あります」
「準備いいね」
「そして、この紙を上にのせると…」
「は!?」
黒嶺さんの取りだした紙が、フルーツナイフの上に乗っかると綺麗にフルーツナイフに触れた部分が、切れ床に真っ二つの紙が落っこちた。
フルーツナイフって普通、切れ味がそんなにないはずなのにおかしくない!?
「私頑張ったんですよ、フルーツナイフをここ1週間ぐらい、ずっと研ぎ続けてたんですから。だから、言葉には気をつけてくださいね」
ここで俺は、完全に黒嶺さんに生殺与奪の権を持たれていることが確定した。わざわざフルーツナイフ研ぐって、無駄な努力感すごいな。
「そもそも、今私が殺さないのだって、殺すなら梶谷さんを綺麗な状態で殺したい、と思ってるからですから。私の温情に感謝してください」
そういいながら、最高の切れ味を持ったフルーツナイフでりんごの皮を剥き始めた黒嶺さん。
あまりに言ってることが、厚かましすぎるんだけど。
「てか、黒嶺さん今日塾じゃないの?」
「塾にはまだ時間がありますし、大丈夫ですよ」
「黒嶺さん、いつも自習室行ってるよね」
黒嶺さんは塾で授業がある日、毎回塾には早く行って自習をしながら、塾で授業が始まるのを待っているらしい。
「それなら、大丈夫ですよ。私、1週間の間これを研ぎながらも勉強していたので。そもそも、塾で自習してるのは、家よりも静かだからっていうのが理由なだけですから」
フルーツナイフ研ぎながら勉強するって、どんだけ器用なんだよ。マルチタスクの化け物じゃん。
「というか、そういう梶谷さんは私に帰って欲しそうですね。なにか、理由でもあるんですか?」
俺の感情を読み取ったのか、俺の体に黒嶺さんの体を近づけて、俺の首元にナイフの先端を向ける黒嶺さん。
「い、いやそういう訳じゃなくて」
「梶谷くん!本持ってきたよ………あ、ごめんなさい」
「ちょっと待って!」
タイミングよくか、タイミング悪くかいつの間にか病室に来ていた忍さんが、勢いよくカーテンを開き状況を見て即落ち二コマで、カーテンを閉めてこの場から逃げ始めてしまった。
「忍さん、ちょっと待って」
「待ってって、今何してるの…」
「い、いいからこっち来て」
正直俺1人だと心細いから、とりあえず忍さん1人はいて欲しい。
あと、俺の推測だけど意外と黒嶺さんは、言う割に俺と黒嶺さん以外のもう1人いると、俺を殺そうとはしない。
「でも、梶谷くん大変そうだし、とりあえずこの本だけ置いて帰るよ」
多分今の黒嶺さんが俺の体に密着してるのを見て、言っているんだろう。
ある意味大変ではあるけれど。ていうか、黒嶺さんはナイフ引っ込めたなら、早く離れてくれないかな。
「違うから、とりあえず近くにいて。今忍さんが必要なんだよ!」
「っ…」
何とか話を聞き入れてくれたのか、黒嶺さんとは反対の廊下側に椅子を引っ張って座る忍さん。
「で、梶谷さんこの人は」
「この子は、同じ病室だった忍さん」
「さっき、相部屋じゃないって言ってましたよね」
またも即落ち二コマ、俺の話を聞くなり、詰め寄ってくる黒嶺さん。
「俺さっき、今はって言ったから嘘は言ってないって」
普通に忍さんを紹介したら、嘘は言っていないけど嘘がバレて背中にナイフをつきたてられた。
「そうですか、言われればそうかもしれなかったですね」
「なんで、黒嶺さんの許しが必要なの。あ、ごめん忍さん何かわかんないよね」
黒嶺さんと話したあと、忍さんの方を見ると何がなんだか分からず、キョトンとした顔で静かに座っている。
「この人は、黒嶺さん塾で隣の席の子。超頭いい」
「仲良さそうに見えたけど、お付き合いとかしてるんじゃないの?さっきだって、体を近づけて何かしようと…」
「してないしてない。俺と黒嶺さんはただの友達?だからほんとに」
「なんで、ハテナが入るんですか」
黒嶺さんに関しては、告白されてるとはいえ俺を殺そうとする人を、友達として判定していいのかが、人生経験的にないもので、なんとも言えない。
「ほんとに友達?なんだよね」
「そう、ほんとにただの友達だから」
「そうなんだ、よかったまさか病室で背徳感のある…じゃなかった。と、とりあえず今日は日が悪そうだからまた来るね」
なにか、不穏なことを言いかけたあと、笑顔で席を立ち上がって、そのまま本だけ置いて帰ろうとする忍さん。
「ちょっとまって、ほんとに待って忍さんお願いここにて。いや、お願いしますここにいてください!」
「そ、そんなにすがらなくても…」
ここで忍さんに帰られると、俺の命が危うくなるから忍さんには絶対にいて欲しい。そんなガチになってキモイと思われてもいいから、とにかくここにいて欲しい。
「ほんとに、俺忍さんが居ないと死んじゃうから!」
「だ、だからぁ…そんなに言うなら、今日何も予定ないし、しばらくいるけど」
俺の言い方が悪かったかもだけど、顔を少し赤らめた忍さんがここに残ってくれると言って、再度椅子に腰掛けてくれた。
助かった、神は俺に味方してくれているみたいだ。
「なんですか、私を見て」
「私もフルーツ食べたい」
椅子に腰掛けて黒嶺さんを見ていると思ったら、口から出した言葉は、フルーツ食べたい。
まあ、俺もフルーツ好きだからわかるけど。
「そんなことですか、いいですよそれくらい」
「で、でも黒嶺さんそろそろ塾行かないと間に合わないんじゃ…」
「いえ、大丈夫です予習自体はしてますし、先生にも遅れるかも、とは伝えているので」
くそ!めっちゃ用意周到すぎる。これだから、計画性のある頭いい人は困るんだ。
「どれ食べたいですか。りんごならもう向き終わってますけど」
「じゃありんごで」
「でわ」
紙皿の上に置かれたりんごを爪楊枝と共に、忍さんに手渡す黒嶺さん。
「はい、梶谷くんあ〜ん」
「い、いやいいよ俺手は使えるし。それに、忍さんも食べたいんでしょ」
忍さんが俺にあ〜んをしようとすると、黒嶺さんの気配が一気に殺気立った。
「まあまあ、これは梶谷くんへのお見舞いなんだからはい、あ〜ん」
そう、忍さんは黒嶺さんのこも知らないからあ〜んをするのは分かる。なんで、あ〜んなのかは分からないけど。でも、黒嶺さんの前でこれは死に値するからどうしてもできない。
横目で黒嶺さんの方を見ると、桃にフルーツナイフを突き刺してるから、多分食べたら殺すということなんだろう。
「いや、ほんとに大丈夫だから」
「まあまあ、梶谷くんほらほら」
そう言って俺にりんごを押しつけながなら、多量の言葉をどんどん掛けてくる忍さん。
「ちょ、ちょっと待って」
「どうかしたの?」
「このフルーツ持ってきたのは、黒嶺さんだから最初に食べるのは黒嶺さんじゃない?」
「確かに、そうかもじゃあ黒嶺ちゃんあ〜ん」
良かった、なんとかターゲットを俺から、黒嶺さんに回すことが出来た。
黒嶺さん手見ると、桃の果汁で手がめっちゃ濡れてるよほんとに良かった!
「いや、別に私は」
「まあまあ」
て言うか今思ったけど、忍さん会話苦手とか言ってた割に、結構押し強いな。
「めんどうですね」
忍さんの押しに負けて、一口で爪楊枝に刺さったりんごを食べる黒嶺さん。手からは果汁が滴っている。
「美味しい?」
「そりゃ、美味しいですけど」
「ちょっと照れてる?」
確かにそう言われると、黒嶺さんの頬が少し赤く…なってないな真っ白だ。
「なに馬鹿なこと言ってるんでか。私は、疲れたので一旦帰ります。それでは、梶谷さんまた今度。フルーツナイフだけ持ち帰るので、そのフルーツはお好きに。あと、お2人は健全な関係をここがけてくださいね」
「う、うん?」
フルーツナイフ持ち帰っちゃうのか。まあ、あの切れ味だから、置いとくと普通に危ないだろうし、当然なんだろうけど。
「やっと帰ってくれた」
「私も疲れた」
俺が気を緩めると、一緒になって忍さんも気を緩め俺のベットにうつ伏せになった。
「忍さんも疲れたの?」
「だって、私初対面の人無理」
やっぱ、無理なんだ。てなると、相当無理したな忍さん。
「それじゃあ、なんで」
「だって、梶谷くんが困ってたように見えたんだもん。普通、居なくなれの催促は、なかなかしないし」
どうやら忍さんは、俺が黒嶺さんに対して塾早く行ったら的な話から、俺が黒嶺さんにはやく帰って欲しいと思っていることを読み取ったらしい。
「それはすごいね」
「それと、私今日思ったことがあるの。梶谷くんが変なことに巻き込まれないよう、私が見守らないとなって」
その言い方はどちらかと言えば、推しだとか親目線的な言い方な気がするし、なんだから不穏だ。
この言い方に何故か少しばかりの恐怖を感じる。
「ま、まあとりあえず、本も読み終わったし、話でもしようよ」
正直、忍さんがどこを見て、俺を見守ろうと思ったのかは分からない。けどそんなことよりも、退院後黒嶺さんに会った時何されるか分からないのが1番怖い。
とりあえず、そのことは考えず、その時の俺に任せるとして、今は忍さんと本の話をしよう。
もう1話は、22時ぐらいに上がると思います。




