22 そもそもの出会いって
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「ちょ、ちょっと待って黒嶺さん。俺何もしてないって」
「何言ってるんですか、梶谷さん私言いましたよね別の女の子が居るようなら私、殺さなきゃいけないって」
夕方の街中、包丁を持っている黒嶺さんから逃げつつ説得を試みる。
「てか、俺何もしてないって」
「何言ってるんですか、さっき言ってましたよね学校で女子からお弁当貰ってるって」
どうやら塾内で友達と、初愛佳さんの弁当が不味すぎるという話をしていた会話が、黒嶺さんに聞かれてしまったらしい。
別に美味しくない弁当なんだから、それくらい良くないかな。
「そもそも、黒嶺さん初愛佳さんとは1回話してるよね。この間、俺がブレザー貸した時」
「ああ、あの人ですか。でも関係ないですよ、梶谷さんの近くに女性がいるなら私、殺さないといけないので」
俺の近くに女性がいるからって、殺す必要ないだろ。てか、まだブレザー返してもらってない!
「殺す必要ないって、だからとりあえず矛を収め…」
「あら」
後ろを見てたから気づかなかったけど、どうやら俺は思いっきり階段から落ちてるらしい。どんどん地面が近くなってくるけど、とてもゆっくり。
それに今までの人生のハイライトが頭の中に、刈谷さんの夜這いに…あれおかしいな夜這いしか出てこない、俺の人生の八割夜這いってこと?
「いて」
「梶谷さん、梶谷さん大丈夫ですか」
意識が消えそうな中、黒嶺さんが急いで階段から降りてくるのが見える。もうちょっと意識がはっきりしてれば、何かしら言葉を口にできたのかな…
「あ、優起きた。大丈夫?記憶とか」
「母さん、おはよここどこ」
階段から落ちて、黒嶺さんに名前を呼ばれたあたりから記憶が無い、しかも起きたら知らない天井。
「あんた階段から落ちて、気失ってたんですって。でも良かったわね、近くに人がいたのと階段が低くて」
黒嶺さん、救急隊の人に報告する時、黒嶺さんと俺との関係言わなかったんだな。
「そう、にしてもやけに落ち着てるね」
「まあ最初は動揺したけど、別に大丈夫そうってお医者さんが言ってくれたから。今は比較的、てかなんであんた落ちたのよ」
「前ちゃんと見てなくて」
「前見てないって…まあいいわ」
原因を話すと、若干呆れるような声とともに目頭を抑える母さん。
「お母さん一旦帰るから、あとあんたはしばらく入院だから。学校には言っとく、あと最後にちゃんと前見なさいよ」
「はい、以後気をつけます」
正直今回の怪我に関しては、原因俺だけじゃない気がするんだけど。
「入院か、期間聞かされてないから知らんけど、暇そう。ちょっと出歩くか」
恐らく俺の怪我は、頭に包帯巻かれてることから、頭の怪我だろうし出歩くぐらいなら大丈夫なはずだ。
「こんにちはー」
「あ、こ、こんにちは…」
何も聞こえないから一人部屋だと思ってたけど、俺の部屋相部屋だったんだ。隣にのベットに居たのは、静かに読書しながら、控えめに笑っているた女の子。
彼女のベットには、松葉杖がかけられているからているから、恐らく足の骨折で入院しているのだろう。
やべー、馬鹿みたいに暇だ退院まであと6日もあるのに、馬鹿みたいに暇だ。
スマホを音を出せないから、動画を見るに見れないし、テレビは平日面白い番組やってないしで、めっちゃ暇。
ここまで来ると、隣にちょっかいかけるしか無くなってくるんだけど。
いや、まてよここは勇気を出してお隣の人と話をしよう。1つ前から気になっていた話題はあるし。
「あのー、忍さんすみません」
「え!あ、はい私ですか?」
俺が隣の忍さんの名前をカーテン越しで呼ぶと、たじたじながらも答えてくれた。ていうか、今の俺結構非常識なことしてないか…
「て、ていうか私の名前…」
「あ、ごめんなさい間違えてました?」
「い、いや違くて。な、名前なんで知ってるのかなって」
「そっちですか、看護師さんに名前呼ばれてるのが聞こえてたので、それで」
まじで暇すぎて、周囲の音を聞いていた副産物として、俺は隣の人、忍さんの名前を覚えることが出来ていた。
「そ、そうなんですか。そ、それでなんで私を呼んだんですか」
「そう、それなんですけど。何かおすすめの暇つぶしとかありますか?」
「わ、私にですか?」
「はい、忍さんにです。というかどっちかって言うと、おすすめの本はありますか?」
忍さんは、俺がなんとなく見かけた時いつも本を読んでいて、いつも幸せそうな顔をしていたから、絶対にどこかでこの話をしたいな、と思っていた。
「お、おすすめの本ですか。ちょ、ちょっと待ってください」
そう言われて待っていると、忍さん側のベットからバタバタと慌ただしい音が聞こえ始めた。
「大丈夫ですか、忍さん」
「は、はい。これ、どうぞ」
カーテンの隙間から、忍さんの手が出てきてその手に持っているのは「悪魔の十戒」と書かれた文庫本サイズの本。
「ありがとうございます。ちなみになんですけど、少しだけこの本のこと聞いてもいいですか?」
「は、はい拙いかもしれないですけど、私のでいいなら」
「お願いします」
「まずこの本は、著者 白柳黒丸先生という方が書いていまして、この方はミステリー物書いているんですけど、白柳先生の代表作がこの本なんです。ストーリーとしては、終戦後すぐの日本画舞台でして、主人公が天使と悪魔と名乗る殺人鬼を追う話になっていて、読めば読むほど謎と作品に引き込まれていくんですよ」
「おー」
本の話を始めた途端、今までの緊張気味な感じはなく、饒舌に作品の概要を教えてくれた忍さん。
早口ではあるけれど、しっかり内容も入ってきて思わず拍手が出てきた。
「ご、ごめんない。早口…キモかったですよね」
「いや、キモイだなんて…普通に聞き取れたし、それに説明がうまかったから、これ読みたくなったしね」
「そ、そうですかありがとうございます」
俺自体小説とかは面倒でほとんど読まないけど、忍さんの説明でこの本は結構読みたいと思えた。
「それじゃあ、なるべくすぐ読むんで、感想でも語り合いましょう」
「は、はい頑張ってください」
忍さんが熱弁した本を読んでみると、忍さんの熱量が分かるくらいのおもしろさで、読んでるだけで時間が過ぎていった。
「忍さん本ありがと、結構面白かったよ」
忍さんを呼んでから、またカーテン越しに借りた本を返す。
「そ、そうですかそれなら良かったです」
「特に終盤の犯人特定辺りとかもう」
「わかります!めっちゃいいですよね、そこもいいんですけど、私的には中盤の女将とかキャラが立ってていいと思うんですけど」
「あー確かに結構個性的でしたね」
意外と本は熱中すると、1日で読み切ることができ、このように毎日忍さんから本を借り、感想を言い合うを3日ほど繰り返した。
「忍さんこれありがと。やっぱ忍さんのおすすめする本は面白いよ」
「ありがとうございます。あと、梶谷くんにひとつ言うことがあって」
「言うことって?」
忍さんとは、本という接点で距離自体は近くなったけれど未だに、忍さん側のカーテンは晴れないままだった。
「私、今日退院なんです。だから、しばらく本は貸せないかもって」
「良かったじゃん。おめでとうございます。ちゃんと、歩けるようになったってことでしょ?てか、なんで入院してたの?」
「二宮金次郎みたいに、本を見て歩いてたら階段で足を滑らせちゃって」
まさかの忍さんも俺と同じく、階段からの転落で入院とは、謎の引力を感じる。
「そこじゃなくてね。私、梶谷くんのお見舞い来ていいかな?本のこととか、また話したいし」
「全然いいよ、忍さんが来ない間、本を読み込んでもっと踏み込んだ感想言えるかもだし」
俺個人的な感覚だけど、今まで忍さんと話していた感想は1回読んだ上辺の感想しか言えなかったから、もうちょっと深い感想を言ってみたかった。
「あと、最後にもう1つ聞きたいことがあって」
「最後?別に何個でも聞いていいけど」
何かどデカい質問でも来るのかもしれない、一応覚悟を持っておこう。
「その、なんで私に本のこと聞いたのかなって。正直私の感性なんかより、ネットとかで調べた方が確実性あるのに」
なんだそんなことか、この話については既に俺の中で答えが出ている。というか、考えるまでもなく決定的なものが俺の中にある。
「簡単だよ。初日挨拶した時、読書中の忍さんの顔が、楽しそうというか可愛く見えたから。そこから、相当本が好きなのは読み取れたし、あとは単純にネットの声よりも実際の声の方が熱量はあるからね」
初日見かけた忍さんの顔は、一瞬ではあったものの俺の中では、とても幸せそうな顔をしているように映った。
「そ、そんな…か、可愛いだなんて。私ただ、ニヤけてただけだから…」
「そう?俺の友達はニヤける時もっとすごいから、そのせいかもしれないけど、あれは普通に幸せそうな顔だったと思うけど」
幸せな笑顔と曖昧な感じの言いたかしてるけと、言ってしまえば、綺麗な笑顔だった。
「なんで、梶谷くんはそんな普通に恥ずかしいことが言えるの!」
「あ、カーテン空いた」
何故か少しキレ気味な声で、俺と忍さんを隔てていたカーテンを思いっきりオープンする忍さん。
「ほんとに、なんでそんなこと普通に言えるの…」
「まあ、普通に俺が思ったこと言っただけと言うか」
「だ、だからぁ…」
そんな話をしたら忍さんは、開いたカーテンの隙間に隠れていってしまった。
「それじゃあ、梶谷くんまたどこかで」
「じゃあね忍さん、また本のこと話そうね」
その後忍さんは、何事も無かったかのように退院して行った。
俺は忍さんが消えたことによって、相部屋だった病室は俺の一人部屋へと進化した。
「しばらくは1人か…誰か来ないかな」
1人になった病室のベットの上で、軽い伸びをしてから、忍さんが置いていった本を読み始めた。




