19 お昼の時間
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「優、お昼食べない?」
4時間目終わりそうそうに、由乃が俺の教室に入ってきて、弁当を俺の前に突き出す。
「別にいいけど。ここで食べるのか?」
「私はどこでもいいけど、折角だし外で食べる?」
「暑いだろ」
「それもそうね、じゃあ中庭で食べよう」
中庭は、教室のように冷房は無いけれどほとんどの確率で全体が日陰になるし、選択肢としてはありか。
「じゃあ、中庭にするか」
「それじゃあ早速行きましょ!」
バッグから弁当と水筒を取りだして、由乃と一緒に中庭方面へ向かうことになった。
「ちょっと〜、ゆうくんたち僕を置いてくなんてひどいじゃないか〜」
「なんで、私に抱きつくのよ!」
由乃と移動を開始し教室を出てすぐのところで、青空さんが由乃に後ろから抱きついた。
「優ゆうくんは、僕と言う妻がいながら他の子と食べると言うんだね。まあ、僕は1回や2回の浮気はゆるすけど」
「はいはい、ありがたいです。どうもどうも」
「そんな、適当に言わなくたっていいじゃないかー」
もうちょっと話に乗ってくれ、みたいなことを話している青空さんは、俺達同様弁当を持っている。
「青空さん、弁当持ってるってことは…」
「そうだね、僕も食べるよ一緒にいいかい由乃ちゃん?」
「ま、まあいいけど。こいつと2人きりなんて、暇つぶしぐらいにしかならないだろうし」
え、そこまで言うか?俺も自分がそこまで面白い人間だとは思わないけど、暇つぶしぐらいにしかならないって…
「で、どこで食べるんだい?」
「中庭よ」
「中庭ね〜、いくら日陰だからと言っても暑くないかい?だって、あそこ空気の通り道ほとんどないだろ〜」
俺は日陰という部分しか見てなかったけど、確かに青空さんの言う通り空気を冷やす手段がないから、普通に暑い可能性はあるのか。
「別に、私は構わないわよ。青空は暑いのが無理なら一緒に食べるの辞めれば?」
「いや〜僕はそこまで言ってる訳じゃなくて〜」
「あ、じゃあ俺リタイアしていい?」
「優はダメ」「ゆうくんはダメだよー」
どうやら暑いという環境で、俺には拒否権がないならしい。
「いや〜暑いね〜、でも思ってたほどでは無いかな〜」
2人の言い合いを軽く見届けながら、中庭へ到着すると、そこに人気はなく完全貸切状態。心配していた暑さは思っていたほどではなく、風も幾分か入ってくれているおかげで、普通に居れるくらいの温度感。
「でも人気ないわねー」
「みんな暑いから、教室で食べてるんじゃないか?刈谷さんもそんな事言ってたし」
「なんでそこで出てくんのよ」
前に俺が初愛佳さんと食べる時、刈谷さんを誘ったのだけれど、刈谷さんは暑いの無理と言って誘いを拒否していた。ある意味で夏は刈谷さん特攻とも言える。
「まあいいじゃないの〜、僕とゆうくん2人きりで、この広い空間でイチャイチャできるんだから」
「なんで私居ないことになってんのよ」
うちの学校の中庭には、テラス部分があり中庭内にいくつかパラソル付きの、ガーデンテーブルが設置されている。
「それじゃあいただきまーす」
それぞれが弁当を展開して昼食を取り始めた、ちなみに俺の今日の弁当の中身は、唐揚げにその他いくつかのおかずに米の普通な感じの弁当だ。
「はい、ゆうくんあ〜ん」
「なに、口開けて」
俺が食べ始めようとしたら、俺の方を向いて大きく口を開ける青空さん。
「鈍感だな〜、僕に食べさせてくれよ〜、僕はゆうくんのお嫁さんなんだからさ」
「嫁は1回抜きにして、普通逆では?」
こういう時一般的に女性が男性にするのでは無いだろうか、まあ最近の考えではこの話は怒られるかもしれないけど。
「あ、ゆうくんは僕にあ〜んして欲しかったのか」
「いや違うけど」
「そうよね、優は私か、尺だけど刈谷さんにだけあ〜んして欲しいんだもんね」
「そういう訳でもないんだけど…」
確かに今までの人生で、家族以外でされたのは2人だけかもしれないけど。
「む、なんだいゆうくんは僕にはあ〜んじゃなくて、口移しがいいのかい」
「そんなこと言ってないって、じゃあはい」
「わーいゆうくん大好き」
このままだとグダる気がしたため、青空さんの箸を持って青空さんの弁当にある煮魚を摘み、青空さんの口に入れる。
「うーん、ゆうくんから貰ったから、味が53万倍美味しいよ」
「そりゃ〜ようござんした」
なんだ53万倍って、宇宙の帝王じゃないんだから。
「はい、じゃあ次」
「え、完食までやるの?」
終わったと思って、橋を元の場所に戻したのに、青空さんがまた口を開けて待機し始めた。
「そうに決まってるじゃないか〜」
「自分で食べてよ」
「いや〜僕今日両腕とも筋肉痛で、箸もてないんだよ〜」
「なわけないでしょ、弁当ここまで持ってきてるんだから」
嘘にしたって、あまりにもわかりやすすぎる。
「いや俺も食べなきゃだから。それに、いちいち箸変えるのは面倒だし」
「変える必要ないだろ〜?僕の箸を流用して、永遠の関節キスを…」
まあ関節キスぐらいなら、初愛佳さんとしたしいいけど、青空さんに餌やりするのは単純に面倒だしな。
「それじゃあ、私やろうか?私、箸は両利きだし。ほら」
そう言って俺から青空さんの箸を持っていった由乃が、器用に両手で箸をパチパチ鳴らす。
「「おー」」
「逆にお前、両利きだったんだな」
「小学校の時、たまたま両利きは育てられるって知って、それで自由研究ついでにね」
特殊な自由研究だけど、マンネリ化しがちな自由研究には持ってこいな研究だな。
「さすが由乃様、じゃあ青空さんの餌やりお願いします」
「餌やりって僕は、動物じゃないんだぞ」
「はいはい、ステステイ」
「もう!」
さすがの青空さんも動物扱いには少し怒っている。
ちなみに、青空さんを動物に例えるなら、キツネかナマケモノかネコだろうか。
「はい、あ〜ん」
「うーわ美味しさ等倍。ゆうくんの方が、美味しかったなー」
「等倍ならいいでしょ、別に半減とかしてる訳じゃないんだし」
にしてもほんとに由乃器用だな、青空さんの口に食べ物入れながら自分も食事してる。
「というか、青空さんの弁当、煮魚入ってるんだね珍しい」
「しょうかい、ぼふのじゃふふうだへど」
「飲み込んでから喋りなさい」
「いへ」
由乃に食べさせてもらったものを口に含んで喋っいると、軽く由乃から青空さんへ、チョップが飛んだ。
「僕にとっては、普通だけど。僕のお弁当、高確率で魚入ってるし」
「さすが漁師の娘」
「そういう訳じゃないと思うんだけどね〜」
俺の記憶する限り、俺の弁当に魚が入ったことはない気がするから、青空さんの弁当はレアに見えた。
「それで言うと、由乃ちゃんはなんか綺麗だね」
そう言われてから、由乃の弁当の中身を見ると、茶色すぎず緑も入っていて簡単に言えば、彩り弁当というやつだろうか。
「そうでしょ、なんせ今日のお弁当は私が作ったんだから」
「それはすごい、僕なんて料理とか家事全般からっきしでね〜。だから、将来の旦那さんは家事できる人がいいかな〜」
そう言った青空さんは、あからさまに俺の方をちらちら見てくる。
「じゃあ俺家事そんなにできないんで、青空さんとは無理そうっすねー」
「別に最初からとは僕も言ってないよ〜、そういうのは、ゆっくり覚えていけばいいんだよ」
自分が家事を学習するつもりは、毛頭ないんだな青空さん。
「そんなのに比べたら私は家事全般できますから優良物件ってやつよね」
「な、いや僕には癒し担当という物が…」
「それなら私にだってできますー、どうせ優は添い寝してあげれば大満足だろうし」
「おいまて、それは俺を低く見すぎだろ」
添い寝をしてくれるなら、それ以上も欲しいというものだろう。
「だって優は、刈谷さんと寝て気持ちよさそうだったもんね」
「ゆ、ゆうくんもしかして…」
「ちがうちがう、絶対誤解だって」
いつぞやの刈谷さんの件が、関係ない青空さんに飛び火してる。相手が青空さんだけど、幼馴染が見てる目の前で別の女と…みたいな変なやつと思われるのは嫌だ。
「刈谷さんはちょっと特殊なんだよ。それに俺は添い寝だけじゃ、満足しないかもしれない」
「じゃあ何が欲しいのよ」
「えっとなー……エッ…わかんない」
「ほらやっぱそうじゃない」
あるにはあるんだけど、言いにくいし。それ以外だと、案外思いつかないな。
「ほらだから、優には家事出来る奥さんで十分なの」
「ぐぬぬ…ところで由乃ちゃん、僕癒し担当とは言ったけど、ゆうくんなんて一言も言ってないよ」
無理があるような気がするけど、言われてみればいつの間にか架空の旦那さんから、何故か存在しない旦那さんこと俺の話に変わってる。
「あ、いやそれは違くて。手前まで優の話してたから…」
「いや〜、僕はゆうくんが大好きだけど、思考実験する時だってあるよ〜」
そう言われて由乃の顔が熱を帯びていき、それと同時に顔を下に向けていく。
「そんな俯いてないで、はいあ〜ん」
「ん…」
そう言った由乃は下を向きながら、狂うことなく青空さんの口に箸を入れ込んだ。普通に神業レベルの凄さだな。
「ごちそうさまでした」
「なんだい由乃ちゃんそんなにイライラして、もしかしてせい…」
「違うから!ただ、自分の行動とかにイライラしてるだけ!早く戻ろ暑いから」
とんでもセクハラをしようとした、青空さんの口を無理矢理抑えて、否定する由乃。
「そうだな、そろそろチャイムもなるだろうし」
「え〜残りの時間は、僕とゆうくんの、イチャイチャタイムじゃないのかい?」
「そんなわけないでしょ、早く戻るよ」
少し、学校内でのイチャイチャタイムは気になるけど、そんなこと言い始めると青空さんが何しだすかわかんないし、好奇心を抑えつつ教室へ戻っていく。