18 愛の告白少女と幼馴染
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「母さん行ってきます」
「優!お弁当忘れてる」
残り2週間で夏休みがやってくるこの日、暑い外に嫌気がさしながらも、長ズボンにポロシャツと言った服装で、学校への道を歩き始めた。
「あ、優おはよ」
「おはよ由乃」
たまたま俺が家を出たタイミングで、俺の家の前を通る由乃に出会った。
「にしても、今日ほんとに暑いな」
最近は毎日バグみたいに暑いけど、今日はそれ以上な気がする。
「ニュースによると、今日が夏の最高気温かもだって」
「はー、それは知らなかった」
「あんた朝ニュースとか見ないの?」
「テレビはついてるけど、適当に耳に入れて流すくらいだな」
多分、テレビに流れてるのはニュースなんだろうけど、だいたい朝は眠いから、俺にニュースを聞いてる暇なんてない。
「でも、そんなニュース見ないくらいじゃ、最近はそんな困らないだろ。最低、スマホで調べればいいし」
「あんたは、現代っ子ね」
「逆にお前はテレビっ子なんじゃないか?」
最近はネットニュースでも、テレビと同じくらいの情報が手に入るし。しかもネットなら、真偽を除けば、知りたいものがすぐ知れるから楽だ。
て言っても、ネットニュースも見ないんだけど。
「あ、てかまだブレザー返してもらってない返してもらわないとな…」
「なに、あんた誰かにブレザー貸してんの?」
「ま、まあな前にちょっと色々とあって」
偶然にも思い出したけど、黒嶺さんから前に貸してクリーニングするって言ってた、ブレザー返してもらってなかった。
さすがにクリーニングも終わってるだろうし、今度塾で一言かけておくか。
「て言っても、しばらく着ないんだしいいじゃないブレザーくらい」
「そうなんだけど、人生何があるかわかんないからな」
「何よくわかんないこと言ってんの」
前に黒嶺さんが少し不穏なこと言ってたから、一応早めに返して貰わないと、俺のブレザーが何されてるかわからん。
「やっと見えてきた。俺達の通学路日陰無さすぎ」
由乃と歩いていると、ようやく学校が目視できる距離に入ってきた。俺の通学路は住宅街極めてる関係上、日陰が街灯のほっそい影くらいしかないから、体に紫外線と太陽光がモロに食らって暑い。
「それじゃあ日傘でもさす?私持ってるけど」
「どうせ1本だろ?どっちか暑いだけじゃねえか?」
「そ、それは相合傘をすれば解決というか…」
相合傘という単語を言いながら少し恥ずかしそうにする由乃、
そんなに恥ずかしなら言わなければいいのに。
とは思いつつ、そんな心無いロボットみたいなのは置いといて、由乃の提案した日傘は結構有用性高いかもな。
「相合傘は別としても、日傘は結構いいかもな。明日からやってみるか、日傘作戦」
「そ、そうあんたがやりたいならいいけど」
「それじゃ、早速明日からやってみるか相合傘、よろしくな由乃」
「日傘作戦じゃないの?まあ、あんたが相合傘でもいいならいいけど…」
できる暑さ対策なら、思いついたやつをどんどんやって、試行錯誤すればいつかはいいのにたどり着けるはずだ。
現代は、それでもしないと、生きていけない。
「やあ、ゆうくんおはよ〜」
そんな相合傘、日傘作戦の話をしていたら突如として、この暑い中後ろから抱きつかれた。
「ちょっと、青空さん暑いから離れて」
「え〜酷いな〜僕が暑苦しいみたいに」
「実際暑いんだよ」
後ろから抱きついてきたのは、言葉のやる気のなさからわかる通り青空さんだった。
「しょうがないな〜僕も暑いから離れてあげるよ。にしてもゆうくん体温高いね〜」
「暑いなら最初からしないでよ…てか、体擦らないで」
いくら半袖とは言っても、直に肌が当たると体温が伝わって暑い。ちなみに青空さんの肌はそんなに熱は持っていなかった。
「ねえ優、その子だれ?」
「この人は青空さん、この間たまたま釣りしに行った時隣だったクラスメイトです」
「そうだよ〜ゆうくん大好き青空ちゃんだよ〜」
「だい…」
青空さんの言葉に、なにか食らったように1歩たじろぐ由乃。
「青空さん、だからそれやめてよ誤解生まれるから」
「酷いな〜、誤解だなんて。ほら〜、愛してるよ」
青空さんは釣りの日以降、学校で会う度俺に愛してると言ってからかって来ていた。
最初の数回は少し戸惑ったけど、今となっては完全に慣れた。
「はいはい、俺も愛してますよー」
「もう適当だな〜僕らの愛は真実じゃないのかい?」
「ね、ねえさっきから愛してるって…」
「あー大丈夫。青空さんは俺をからかうために言ってるだけだから」
ほら、青空さんが変な芝居するから、早速誤解してる人が出来ちゃったよ。
「ゆうくんは酷いな〜。僕が嘘で愛を伝えると思ってるんだね」
「さっきのが真実の愛って言うなら、俺もこうしないといけないからね」
青空さんに言われて、対抗策として、体を青空さんの耳の位置にまで下げ青空さんの耳元で口を開く。
「俺も愛してますよ」
「…!?」
俺の囁きボイスが気持ち悪かったのか、俺の言葉を聞くなり、囁かれた耳を抑えながら俺の近くから一気に体を引き離す青空さん。
「も、もうなんだよ〜。そ、そんな愛の告白を僕にして〜」
声的には照れてる感じだけど、如何せん顔を俺とは反対方向に向けられてて、笑いなのか照れなのかわからん。
「まあ、こんな感じだから。さっきの愛の告白とかは、全部ネタだよネタ。で、由乃はどうして、青空さんを睨んでるの?」
「いやなんでもない」
軽い説明を終えて由乃の方を見ると、猫が睨む的な感じで青空さんのことを目を細めて睨んでいた。
「てゆうか〜、くんがそんなに僕のこと好きなら、キスくらいならいつでもしていいよ」
「だからいいって、そう言うのはちゃんと心から愛する人に言って」
「え〜僕が愛するのはゆうくんだけだよ〜」
説明のためとはいえ、青空さんに愛してるって言ったのは間違いだったかもしれない。青空さんの言葉がどんどん加速してる。
「ていうか聞いてなかったけど、さっきからゆうくんの隣を歩く子は誰だい?」
「そういえば言ってなかったっけ。別になんでもいいような気がするけど」
「あんた、私のこと適当すぎない?」
別に青空さんも由乃も、俺が2人とどうゆう関係かなんて、2人にとってどうでもいい情報だろ。
「まあいいか、この方は幼馴染の由乃さんです。あまり怒らせない方がいいです」
「ちょっと!」
「いて」
そこそこちゃんとしたことを言ったら由乃に軽く叩かれた。
「へ〜幼馴染…2人はそれだけの関係かい?」
「まあそうなるのかな。由乃は俺に貰い手がいなかったら結婚してくれるらしいけど」
「んな…」
前に母さんと話してる時に言っていたことを言うと、由乃がなにか食らったかのような声を発した。
「じゃあその心配はないね〜。なんせ僕と言う未来のダラ嫁が居るんだから」
「その自覚はあるんだ」
そもそも、自分からダラ嫁宣言する人って、いない気がするんだけど。
「む、酷いな〜そこは、俺はくんがいるだけで十分だから、好きなだけダラけてくれよマイハニー、ぐらい言って欲しいな〜」
「それ誰」
イケボ風な声で多分俺(空想)、の真似を即興でする青空さん。
「だ、ダメよ!優は私が貰うんだから!」
急に話に乗っかってきた由乃は、青空さんに一言言うなり俺の左腕に腕組みをしてきた。
「でも〜くんはゆうくんのキープなんでしょ〜」
確かにあれが本当なら、キープみたいな状況ではあるけど、なんか人聞きが悪いな。
「キープって…で、でもどうせ優なんて、誰とも結婚できない運命なんだから」
え、普通に酷くないですか由乃さん。誰とも結婚出来ないって…
「だから、僕がいるじゃないか。ゆうくんには、僕が必要なんだよ」
そう言った青空さんは、由乃と同じように俺の右腕に腕組みを始めた。
「でも、あんたと結婚したら優が不幸になる可能性だってあるじゃない!」
「いや〜それはどうかな〜、僕には癒しの力があるからね〜。それさえあれば、ゆうくんの負担なんて無いに等しいよ〜」
言葉から考えるに青空さんは、夫に何もかも任せるつもりなのだろうか。
「あのー、2人とも茶番に白熱してるとこ悪いんだけど…暑いから離れて」
「「ごめん」」
一言注意を入れると、あっさりと腕組みを解いてくれた。もうちょっと、涼しければ2人に腕組まれてドキドキ、みたいな感じになってたかもだけど、今日は暑すぎてそんなの言ってられん。
「というか、茶番だなんて酷いな〜、いつも言って通り僕の愛は真実なのに」
「はいはい、愛してますよー。とりあえず早く行こうか、このままだと暑すぎて死ねる」
2人の茶番に付き合ってたから、本当なら今頃学校には着いていたのに、歩くスピードが遅くなって青空さんと会った距離からあまり進んでいない。
「じゃあな、由乃」
由乃とはクラスが違うため、階段で別れて涼しい冷房の効いたクラスまで急ぐ。
「あ〜涼しい。この世の場所とは思えない」
「そこまで言うんだ。じゃあはい」
「え、なに急に?」
涼しい教室に入ってから、青空さんの方を見ると目を瞑って何かを待っている。
「いや〜僕とくんの席遠いだろ〜。だから僕寂しくて、だから行ってらっしゃいのチュー、的なさ。ほら〜、早く〜」
「いや、やんないよ。恥ずかしい」
「じゃあ、誰もいなければ…」
「それでもやんないよ!」
今日の青空さんはいつにも増して、フルスロットルすぎるな。今度から青空さんとは登校時間被らないよう調節しようかな。
残りの2話の登校時間は、そこそこ遅くなるかもしれないです。