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16 隣で釣りをしている青空さんは俺に愛を伝えてくる

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「暑い…」


本格的な夏も始まって強烈な日差しか俺の肌を突き刺すように照らしている。


今日はたまたま、父さんの趣味である釣りに同行して、家から少し離れた堤防に釣りに来ている。


正直、好奇心で父さんに着いてきたのが一番後悔してる。


「暑い!暑すぎるし、全く魚反応しなくて釣れない!」


父さんに着いてきたはいいけど、父さんは俺に魚釣りの大まかなやり方だけ教えて、釣り仲間の人とどっか行っちゃったし、まじで無心で針を投げてるだけだ。


「ちょっときみ〜、さっきから〜暑い暑い大声でうるさいよ〜。魚逃げちゃうでしょ〜」

「あ、すみません」


超絶やる気のない声で注意されて横を見ると、超絶猫背の青みがかった銀髪の、俺と同じくらいの歳に見える女の子が静かに釣っている。


「もしかして君〜、釣り初めてかい?もし良ければ僕が教えてあげようか〜?」

「いいんですか?それなら、是非教えてください」

「て言っても、そんなにコツっていう物はないんだけどね〜」


とゆうかこの人、結構喋るペースが遅いな。言動から見てマイペースな子なのかな。


「じゃあ、え〜っとね〜」


そう言った女の子は、竿をセットしている位置から立ち上がって俺の方に近寄ってくる。


「そもそも君は見てた感じ〜、リールを回しすぎだね。1回投げ入れたら、最低30分は、放置した方がいいよ〜」

「なるほど、お恥ずかしながら、待つのがあまりにも暇で」


やることがないのと、釣れなさすぎてリールを上げたり下げたりをして遊んでいた。まさかそれが、1番のな穴だったとは。


「あとは〜投げ方だね。1回引き上げるね〜」


彼女は俺の放置されている釣竿のリールを巻いて、元のリールの出されていない状態に戻す。


「ほら、投げるから掴んで〜」

「はい」

「でね〜こうやって〜」

「ちょ、ちょっと」


釣竿を渡されて投げる体勢に入ると、突然彼女が後ろからバックハグの様な形で釣竿の投げ方をレクチャーしてくれる。


「どう?わかったかい?」

「なんとなくは、でも突然会ったばかりの人にバックハグするのはどうかと…」

「あ〜ごめんね〜。僕、そこら辺適当でね〜深くは考えてなかったよ〜」


この子心配だな。なにかで吊れば簡単について行きそうなチョロさを感じる。


「ま〜ま〜、そんなのはいいから〜、楽しく釣りでもしておいてね〜。わかんないことあったら僕に聞いてくれて構わないから」

「適当な。まあ、わかんないことあったら聞かせてもらいますよ。ところで、お名前は…」


そういえば名前も知らずに教えを聞いてたな。


「そういえば言ってなかったね。僕の名前は青空(そら)だよ〜」

「青空さんですか。俺は…」

「知ってるよ〜、梶谷優くんでしょ〜」

「そうそう…え、なんで知ってるんですか!?」


名前も知らない初対面のはずなのになぜか青空さんは俺の名前を知っていた。


「酷いな〜僕達同じクラスなのに〜。まあ、接点ないからしょうがないけどね〜」


青空さん、俺と同じクラスだったのか、世界は狭いな。というか、それなら最初から言ってくれればよかったのに。


「逆に青空さんは、よく俺の名前知ってましたね」

「いや〜僕、無駄に記憶力いいから、話さなくてもクラスの半分以上は覚えてるんだよ〜」


ここまで来ると、7月になってもクラスの人の名前覚えてない俺もどうなんだって話なのかもな。


「それはすごい。でも、釣りが趣味なんて珍しいですね」

「そうかな〜、釣りは人によってやってると思うけど〜。まあ、釣りはのんびりできて、僕には持ってこいな趣味なんだよね〜。て言っても〜、これはお父さんに進められて始めたんだけどね〜」


始めたきっかけは、俺と同じような感じなんだな。でも、この慣れ方結構やってる気がするけど何歳からやってるんだ。


「とか言ってる間に〜、僕の竿に引っかかったみたいだね〜」


そう言うと走るわけでも急ぐわけでもなく、とぼとぼと歩いて、自身の固定されている釣竿の方へ歩いていく青空さん。


「見ててよ、僕の釣り技術ってやつをさ!」


青空さんが釣竿のとこにたどり着くと、今までのマイペースから一変急に一般的な喋る速度に変わってリールを巻き始めた。


「よいしょ!ほらどう上手いでしょ」

「おー凄い」


俺との技術に差がありすぎて、思わず拍手が青空さんに向けられる。


「まあ、青空ちゃんは歴が長いからね〜」

「凄いですね、ほんとに」

「て言っても、釣った魚達は基本逃がすんだけど」


釣った魚をフックから外して、そのまま釣った魚をリリースする青空さん。


「そうなんですかもったいない」

「僕はただ釣るのが楽しいだけだし。クーラーボックス持ってくるにしても、重いからね」

「あー」


確かに青空さんの体はあまり力がありそうな感じでは無いし、1人でここに来るのだとしたら、クーラーボックスは大変だろう。


まあ、持ってこれてもこの人の性格的に持ってこなそうだけど。


「て言ってもお父さん時た時は、たまに持ち帰るんだけどね」

「青空さんのお父さんは結構魚好きなんですか?」

「そうなんじゃないかな、漁師やってるし」

「漁師ですか、凄いですね」


仕事でも魚釣って、趣味でも魚釣るって結構な釣り好きだな、青空さんのお父さん。


「なんだい?もしかして興味あったりするかい?」

「いや、そういう訳では。それに漁師が気になるにしても、まだ俺は釣りの楽しさの核心的なとこはわかってないですから」


まだ1匹も釣れてなくて、釣りの何が楽しいんだって感じだけど。さっきの青空さんのものを見るに、魚が釣れた時は結構嬉しいんだろう。


「それもそうだったねー。じゃあまずは1匹釣るとこか〜」


ゆっくりとノーマルペースから、マイペースな語り口調に戻っていく青空さん。


「まあさ、僕も暇だから何かあったら聞いてよ」

「わかりました、よろしくお願いします青空さん」


気を取り直して、釣りを再スタート青空さんに教えて貰ったことを念頭に釣竿を待つ。



「やっぱ釣れねー!」


青空さんに言われた通りの事をやり続けているけれど、全く成果は得られず時間は3時間も経過している。


「いや〜ゆうくんも運がないね〜」


俺が悩んでいる間にも、青空さんは何度も魚を釣り上げてはリリースを繰り返していた。


「もしかして青空さんのとこが、絶好の釣りスポットとか…」

「いや違うよ〜、だって僕は適当に気持ちよさそうなとこに座って空見てるだけだし。今日はなんか運がいいだけださ〜」


俺は釣れないから、青空さん周辺で釣る位置を変えたりしていたけれど全く釣れない。一方青空さんは、ずっとボケーっとしているのに魚がよく引っかかる。


「て言っても、夕日も傾いてきたしそろそろ帰る時間かな〜」

「俺もさっき父さんからそろそろ帰るって連絡来ましたし。全く釣りの楽しさが理解出来なかった…」


今日俺がやったととしては、暑いのと釣れないのでキレて隣の青空さんに怒られ、魚を釣った訳ではなく新しく友達が出来たくらい。


魚は釣れなかったけど、女子は釣れたのか。なんか複雑。


「まあまあ、人生はまだ長いんだしさ〜気長にやってればいいんじゃないかな〜」

「やっぱ青空さんはマイペースです…お!きたきたきたー!」


軽くため息をついていたら、ついに俺の投げていた釣竿に魚が引っかったのか釣竿に反応が来た。


「ところで青空さん」

「どうしたんだい?こんないいタイミングで悪いんですけど、どうやって魚取ればいいんですか?」

「あ〜そういえば何も言ってなかったね〜」


簡単に言えば、リールをめっちゃ巻けばいいんだろうけど青空さんの動きを見るに、多分コツがあるはず。


「本当は初めてだから、1人で頑張ってとか言いたいとこだけど。初めてでいい経験したいだろうし、青空ちゃん先輩が教えてしんぜよ〜う」

「そんなのいいので、早く教えてください!」

「も〜、ゆうくんはせっかちだな〜」


俺が急かすと青空さんが立ち上がって、再度俺の方に寄ってきてまた、バックハグの様な形で俺の竿を掴み魚の取り方を教えてくれる。


「いや、だから」

「こっちの方が楽でしょ〜。体にも覚えてもらいやすいだろうし」

「わかりました。このまま教えてください」


こうなりゃヤケという訳では無いけど、青空さんの言うことは一理あるしこのまま続けてもらおう。


「て言っても、こうやって…」


そのまま青空さんが俺の竿を掴みながら、魚を引っ張る。


「こうすれば!」

「おおー!釣れた」


青空さんが、いい感じに動くと、魚が海から空中へ出てきた。


「青空ちゃんにかかれば、こんなもんですよー」

「流石ですね、青空先輩にはかなわないっすよ。それにいいですね釣り」


バックハグから離れた青空さんに「とったどー!」的な感じで、ルアーに掛かった魚を向けて笑う。


「じゃあ、釣りは楽しいってことかい?」

「そうですねー、釣れない時はどうしてって感じでイライラしますけど、このさっきみたいに魚が釣れた時は今までのイライラが全部吹き飛ぶぐらいの脳汁が…」


何となく、父さんとかが、釣りにハマる理由はわかった気がする。


「良かったよ、ゆうくんが釣りに目覚めてくれて。ところでゆうくん」

「え、どうしたんですか急にまた近づいて…」


青空さんが釣竿の方に戻っていくと思ったら、また近寄ってきて今度は対面で背伸びして俺の耳元で囁き始めた。


()()()だよ」

「は?え?」


唐突に囁かれた大好き、これは俺への好意でいいのかそれとも別なのか…


「大好きだよ、釣り。ゆうくんは?」

「あ、釣り。釣りでしたかまあそうですよねー」


青空さんの大好きは、俺の自意識過剰だったらしい、安心していいのかは知らないけど、とりあえず恥ずかしい。


「なんだい?もしかして〜僕からの愛の告白とでも思ったのかい?」


すっごい図星。逆に青空さん、これを意図して言っただろ、


「い、いやー違いますよーはは…でも、釣りに関してはもうちょっと積んでみないとわかんないですね、まだ1匹しか釣れてないですし」

「そんなものか〜。ま、ゆうくんはゆうくんなりのペースで好きになるといいよ」


そう言って俺の元から離れて、こんどこそ釣竿の方へ戻っていく青空さん。


「あ、父さんから電話」


そんな中父さんから、電話がかかってきた。電話を取ると、そろそろ帰るから戻ってこい的な内容の電話だった。


「青空さん、俺そろそろ帰るので。それじゃあまた学校で」

「そうかじゃあね〜ゆうくん。大好きだよ〜」

「そう言うからかいはいいから!それではまた」


青空さんは意外といたずらごころがあるのか、帰り際俺を軽くからかってきた。



「おう、優どうだった釣りは楽しかったか?」

「1匹しか釣れなかったけど、そこそこだったよ」

「そうかそうか、ならいいんだ。また、来たくなったら着いてきてもいいからな」

「時間があったらね」


時間があったらとは言ったけど、今回の無念を晴らすために次も絶対ついて行こう。


夏の真っ赤な夕日の中、父さんの運転する車に揺られて家へ帰る。途中そんなに疲れた訳では無いのに、眠気に襲われてそのまま助っ席で眠りについた。

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