155 魚でご相伴
「いや〜、すみません。ご相伴に預かっちゃって」
食卓に並べられた沢山の魚料理を見て、見てるだけなのに舌鼓を鳴らしたくなってくる。
「別に気にしないでよ。おじいちゃん、お魚沢山貰ってきちゃったから」
「優くん、いい魚ばっかだから、沢山食べるんだぞ」
たしかにこの魚中心どころか、魚オンリーの食卓にある刺身は、何となく鮮度がいいような気がする。
「でも、わたくしも来てよろしかったんですか?」
「優くんと優來ちゃん呼んでも、食べきれなさそうだったし、それなら人を増やした方がいいかなって」
「その割に父さん達は、来なかったけどね」
綾ちゃんが家に来た時、父さん達も呼ばれていたけれど、綾ちゃん両親含めた父さん達は、飲みに行くだかなんだかで出かけていった。
「しょうがないよ。いつもの事だし」
呆れてるのか、どうでもいいのか席に座った綾ちゃんは、席に座って「はやく食べよ」と切り替え箸を持った。
「いただきます。うま!」
いただきます、と言って早速手をつけたのは、マグロの刺身。食べてみると、これまた鮮度がいいのかいつも食べるマグロとは、ひと味違う。マグロの味を堪能してから、次に手をつけたのはサバの味噌煮。サバの味噌煮も、マグロ同様美味しく。こちらは、煮られた魚の身にしっかり味噌、しょうがのアクセントが効いていて次々と手が伸びる。
「優くん急ぎすぎ」
「ごめん。美味しくって」
「梶谷様は、お魚お好きなんですか?」
「好きかと聞かれると、普通なんだけど。これは、なんか箸が進むんだよ」
「二月さん食べてみなよ」おすすめると、二月さんはサバの味噌煮をとり口に入れる。二月さんがサバの味噌煮を口に入れるた瞬間、二月さんは口元を抑えびっくりした顔をした。
「たしかに、これは美味しいですね」
「お、お嬢様のお眼鏡にかなった」
「大絶賛だな。嬉しいよ、貰ってきた甲斐あって」
「これの作り方、教えていただいてよろしいでしょうか」
「いいよ。あとで教えてあげる」
このサバの味噌煮、綾ちゃんが作ったのか。器用なことで。
「二月さん料理出来ないじゃん」
「苦手でも、練習すればできるようになりますから。任せてください、わたくし梶谷様と結婚した時家事上手になるので」
「え、ええ!?」
二月さんの言葉に綾ちゃんは、飲んでいたお茶を吹き出し咳き込み始めた。
「ちょっと、二月さんそれ言わないでって」
咳き込む綾ちゃんには聞こえないよう、二月さんに耳打ちをする。
「別にいいじゃないですか。決まってることなんですから」
俺が許可してないのに、決まってるとはこれ如何に。
「恥ずかしがらないでください」
「そういうんじゃないんだよ」
二月さんがそんなことを言うと、驚かれて説明を求められるから面倒なんだよな。それに、結婚はしてないし。
「ゆ、優くん!?それほんと!?」
「ほんともなにも、事実ですよ。実際、わたくしたち一時的ではありましたが、同棲してましたから」
「へ、へ〜そ、そうなんだ〜」
平静を装ってコップを持つ綾ちゃんだけど、すごい手が震えて隠せていない。
「綾ちゃん大丈夫?」
「大丈夫もなにも、どういうこと優くん!」
状況を呑み込め無さそうな綾ちゃんに声をかけると、机に思いっきり手を付いてち上がり、すごい剣幕で俺に聞いてきた。
「ここだけの話さ、ただ監禁されてただけなんだよ」
隠すのが面倒で、ありのままを綾ちゃんに伝える。そうすると綾ちゃんは、小さく「え」と言って力が抜けるように席に着いた。
「この話はさ、後でしよ。今は、ご飯食べよ」
綾ちゃんの耳元で小さく、あとの約束を取り付け、俺も席に座り食事を再開する。この話の元凶となる二月さんは、いつも通りの顔で平然と刺身を食べている。
「メイド、これ美味しいですよ」
料理が美味しいからか、二月さんは素でメイドさんのことを呼んでいる。
「いえ、私は1口づつでいいので」
「別にいいのに。今は、休暇なのよ」
「仕事は仕事なので」
ため息が出る。
♦
「ごちそうさまでした」
大量の魚を食べて疲れてきた。とはいえ、料理は美味しくって食べたい欲が凄かったな。この後のことを考えると、億劫にはなるけど。
「綾ちゃん美味しかったよ」
「良かった。て言っても、私1人でやった訳じゃないけどね。おばあちゃん監修です」
「そうなんですね。では、早速ですが作り方を――」
「やだ」
二月さんがさっきの約束通り、綾ちゃんに作り方を教えてもらおうとすると、綾ちゃんは食い気味にそれを拒否。
「教えてくださるという話は……」
「そんなのなかった。イー」
あ、まずい。
「貴様、おじょ――妹との約束を違えるとはどういうことだ」
「い、いつの間に後ろに」
いつも見たくナイフを突き立てるわけではないけれど、綾ちゃんの後ろに回って耳元で囁いている。
「お姉様、ストップ。別にいいのよ。綾さん、妬いてしまったんですね。わかります」
「妬いた、かと言われるとそうかもだけど。教えないからね」
「わかってます」
「は〜い。これどうぞ、畑で取れたスイカ」
綾ちゃんと二月さんがちょっとした言い合い?をしてる中、蚊帳の外の俺と優來の前にスイカが置かれた。
「ありがとうございます。じゃあ、早速。うま!」
目の前に置かれたスイカを2人の会話片手間に勝ちにすると、こりゃ驚いた。このスイカみずみずしいだけではなく、しっかり甘いおなかいっぱいだったはずなのに、手が止まらない。
「優來うまくね、これ」
「おいしい」
「そう?嬉しいこと言ってくれちゃって。まだまだあるよ」
「「遠慮しときます」」
いくら美味しいとはいえ、もう食えない。
「それじゃあ、ご飯ありがとうございました」
「気にすんなよ。こっちも見てて気分良かったから」
スイカも食べ終わり一段落したところで、俺、優來、二月さんは、ばあちゃんの家に戻ることにした。
「優くん」
俺の名前を呼んだ綾ちゃんが、俺の元に近寄ってきて、耳元で話し始めた。
「後でそっち行くからね」
「いいけど。気をつけてね」
約束を取り付けてきた綾ちゃんにそう返すと、綾ちゃんは不思議そうな顔をうかべ首を傾げた。
「今日、満月だからさ」
「そういえば。大丈夫だって、見なければいいだけの話だから」
「一応ね」
仮に綾ちゃんが暴走したとしたら、メイドさんが止めに入るだろうし。その時、2人とも大きな怪我に繋がりかねない。
「それでは、ご夕飯ありがとうございました」
「おいしかった」
「うん。じゃあね」
俺達は綾ちゃん達に手を振りながら別れ、すぐ横の家に帰った。