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154 お嬢様と狼少女

「さま……梶谷様」

「お、おお。なんで、二月さん……じゃなくてそうか」


寝ぼけて忘れてたけど、下宿してるんだった。


「今何時?」

「今は、5時ぐらいです」

「え?」


言われた時間に驚いて、スマホの時間を確認すると確かに5時24分となっている。


「じゃ、俺寝るから」

「待ってください」

「何?」


昨日は普通に寝れたけど、朝早いとさすがに眠い。


「なにすんの。こんな朝早い時間から」

「ランニングです」

「ランニングか、言われてみれば」


二月さんの服装は、言われてみるとサンバイザーをつけたランニングするような、動きやすい服装だ。


「走るの?」

「はい。せっかく同居してるのですから、わたくしと同じルーティンしませんか?」

「ほんとに一時的だけどね」


ランニングか二月さん普段から、そんなことしてんのか。さすがお嬢様、何かに対する努力を欠かさない。


「別にいいけど。服ないよ」


俺はただ休暇としてここに来ている。もちろんのこと、運動する服なんてあるはずもなく。


「気にしないでください。用意してあるので。メイド」


二月さんがメイドさんの名前を呼ぶと、メイドさんはスルッと出てきて、ランニング用の服と靴を出した。


「えっと、サイズは……」

「もう、何言ってるんですか。以前同棲した時に、調べてるので知ってて当然ですよ」

「な、なるほど」


いつの間に調べられてたんだ。


「わたくしは、梶谷様の全て丈を知ってますから、身長に身体、足までも。でも、下の大きさは調べてないですからね」

「いわんでええわ!」

「お兄……うるさい」

「ごめん」


俺の大声に優來の睡眠が妨害され、優來が眠そうな声とともに弱々しい力で俺を叩いた。


「梶谷様、妹さんの睡眠時間を妨害するのは良くないですよ」

「誰のせいだと。あと、俺の睡眠時間は妨害していいと!?」


そんな事実に呆れて、ため息がでる。


「まあいいや、一旦着替えるから、2人とも部屋から出て」

「嫌です」

「おい」


二月さんに素肌を見せるとロクなこと無さそうだし、普通に着替えるなら二月さんとの居場所は変えたい。


「いいじゃないですか、いまさら。わたくしたち、夫婦なのですから」

「親しき仲にも礼儀ありって言うし」

「それ以上ですよ、わたくしたち」


これ、何言っても聞かんな。


「部屋変えて着替えてくる」

「それはダメだ」

「メイドさん」


俺が部屋から出ようとすると、メイドさんは扉の前に立ち俺のことを阻む。


「お前はここで着替えろ」

「いや、おたくのお嬢様――」

「着替えろ」

「はい」


メイドさんに押し切られ、俺はこの部屋で着替える羽目になった。


「二月さん、凝視すんのやめてくれない?」


しょうがなく、服を着替えようとするも二月さんは目を輝かせて、俺の体をずっと見ている。


「恥ずかしいというのであれば、わたくしもこの場でき、着替えるのもやぶさかではないですが」

「二月さん苦手でしょ、やんなくていいよ」


ため息混じり上を脱いで、ランニングウェアを着る。ほんとにサイズがあってるみたいで、着心地はいいしブカブカとか言うこともない。ほんとに、サイズ知られてると実感する。


「着替え終わったから、行こうか」

「そ、そうですね。梶谷様、以前よりも綺麗なお身体に……」

「日焼けしたから、そう見えるだけでしょ」


俺は日課で筋トレとかしないから、プロポーションが変化することなんてないはずだ。


「とりあえず行くよ」

「私は妹君を見ておこう。ただし」


扉の前からどいたメイドさんは、俺の耳に口を近づけ口を開いた。


「お嬢様が怪我をした時は、覚悟をしろよ」

「わ、わかりました」


俺の背筋が凍る。ただの楽しいランニングかと思えば、恐怖がついてくることになるとは。


「梶谷様、こちらをどうぞ」

「ありがとう」


二月さんからウエストポーチをもらって、日焼け止めを塗った俺と二月さんは日中に比べて涼しい外へ出た。新しく渡された靴は、いつもの靴とは感覚が違くて慣れない。



「ふ、二月さん待って」


息が上がりまくって、汗もめちゃくちゃ出る。二月さんを止めるために出した声でさえも超絶きつい。そもそも、二月さんランニングと言う割には普通に早い。日課だからなんだろうけど、少し初心者に配慮して欲しい。


「梶谷様、大丈夫ですか?とりあえずお水飲んでください」


俺のウエストポーチに刺したペットボトルを抜いた二月さんは、心配そうな顔で急いでキャップを開け、俺に手渡す。


「ありがとう。少し回復したよ」

「梶谷様、もしかして靴があまり……」

「普通に体力差。少し遅めで走れる?」

「体力ですか。それなら、良かったです。わかりました、遅めですね」


助かった。あの調子続けられたら、俺は後ろから歩いて進むところだった。


「あと半分なので、頑張っていきましょう」

「は、半分」


どれくらい走ったか正確には分からないけど、そこそこな距離走ってるぞ。しかも二月さん、これに加えて畑仕事手伝ってるってどんな体力してるんだ。


「梶谷様、もうゴールですよ」

「や、やっと……あ」


ベースが落ちたとはいえ、俺の体力は既に消えかけていたため、速攻で死にかけ家の近くまで来るとフラフラで倒れかけだ。そんな中、隣の家に車が止まった。

止まった車から出てきたのはもちろん綾ちゃんだった。


「あ!優くん久しぶり!」

「あやちゃ……ぶり……げん……だった?」


呼吸混じりに綾ちゃんに言葉をかける。呼吸とともに喋ったせいで、咳き込んできた。


「だ、大丈夫?とりあえず水飲みなよ」


咳が治まってから急いで、ペットボトルの水を飲み全て飲み干す。


「失礼しました」

「ほんとに大丈夫?汗すごいけど」

「ちょっとランニングしてまして」

「ランニングで!?フルマラソンとかではなく?」


ランニングの言葉に綾ちゃんが、大声で驚く。確かに、今の俺はランニングしたとは思えないぐらい汗をかきゼェハァと息をしている。


「予想以上にペースが早くてね。見ての通り、足もガクガク」

「それであれば、後ほどわたくしがマッサージ致しますね」

「この方は?」


急に出てきた二月さんに、不思議そうな顔をうかべる綾ちゃん。それに対し、二月さんが答える。


「わたくし、二月と申します。梶谷様のつま――」

「ばあちゃん家に下宿してるお嬢様」

「今何か言ってなかっ――」

「何も言ってない。下宿の人です」

「そんな恥ずかしいがらなくたって」


まずい綾ちゃんが、疑いの目でこっちを見てくる。これは綾ちゃんになにか探られる前に、家に戻ろう外も暑くなって来たし。


「とりあえず二月さん、家戻ろうか。俺汗すごくて、風呂入りたいし」

「一緒に入ります?」

「なわけ」


これは手遅れ。

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