153 お嬢様と晩御飯
「おじょ――妹様、お肉が焼けました」
「お姉様、別にそんな敬語使わなくたっていいのに」
「いえ、こうさせてください」
ばあちゃん家の割と広い庭で、1箇所だけ雰囲気が違う。とはいえ、だ。そんなことよりヨダレが止まらん。やはり、肉というのは細胞単位で人間が求めているのであろう。
「優來、野菜食えよ」
「わかってる。お兄、もお皿肉だらけ」
「おっと、痛いとこついたな。しょうがない、俺も食おう」
「梶谷様、お野菜食べないとダメですからね」
俺が優來に野菜と肉を取り分けていると、あの華やかな雰囲気から抜けてきた二月さんが、こっちへやってきた。
「お嬢様は、楽しめてますか?」
「そうですね、こういうような豪快なお肉の焼き方、というのは初めてなので新鮮で飽きませんね」
「それは何より」
お上品なお嬢様は、お気に召してくれてるようで、割と美味しそうに肉を食べている。
「二月さ〜ん、食べてるか?」
「じいちゃん」
二月さんがこっちに来たのに合わせて、酒に酔ったじいちゃんがだる絡みにやってきた。
「はい。美味しく食べさせてもらってます」
「そうかー、良かった良かった。ほら、これも食いなって」
「ありがとうございます」
「おじい様お酒、お注ぎしましょうか?」
「おお、本当か?お姉さんにお酌されると、どうもたくさん飲んじゃうんだよな」
「ではこちらへ」
二月さんにだる絡みするじいちゃんの間に入って、メイドさんはじいちゃんを言葉で釣り二月さんから引き剥がした。
「さあ、梶谷様楽しい食事に致しましょう」
「そ、そうだね〜」
二月さんに対する不安というのは、こういう系統にはないけど、何かを含んだような二月さんの笑みは少し身構えてしまう。
「妹さんはよく食べますね」
「そうだね、優來は割と食べるけど。二月さんは、あんま食べない感じ?」
俺と同じ量食べる優來に比べると、二月さんはあまり食べないのか、先程からあまり箸が動いていない。俺と暮らしてた時は、割と普通に食べてた気がするし、風邪にでもなってなちか少し心配だ。
「あ、すみません心配させてしまって。そういう訳じゃないんです。梶谷様につい、見とれてしまいまして」
「へ〜、優來野菜食えよ」
心配して損した、二月さんは二月さんだった。そもそも、過保護に育てられてるお嬢様が風邪を引くわけないか(偏見)。
「急に淡白じゃないですか?」
「きのせいきのせい」
「お兄、野菜押し付けすぎ」
「ははは」
笑って誤魔化しつつ、優來へ野菜を分配する。決して、俺は野菜が嫌いという訳では無い。ただ、焼かれた状態からの冷えた野菜はあまり美味しくないからだ。
「急に話変わるけど、二月さんここ割といたっぽいけど、暇じゃなかったの?」
「暇だなんて、そんな。あまりいつもと変わらない生活を送れたので、大丈夫でしたよ」
「二月さんは普段、どんな生活してんの?」
俺が言うのもなんだけど、ここ田舎の極みだからやることってしかも1人ってなると、相当やること限られる。
「そんな大層なことはしてないですよ。たまにメイドと買い物行ったり、勉強したりです。そこに、おじい様の畑を手伝ったりとかですね」
「よくやるよ」
この暑さで畑仕事となると、相当疲れるし暑さに耐える必要がある。
「梶谷様もやりませんか?楽しいですよ」
「少しならね、俺は歳だから」
「まだ結婚もしてないじゃないですか」
「シャレだよ。てか、いい歳の基準を結婚にしないで」
畑仕事はやるとしても、気温が少しでもいいから暑い日より低い時にやりたい。
「妹さんはどうですか?」
「パス」
「そうですか。お2人とも、畑仕事はお嫌いで?」
「「暑いから」」
俺と優來の意見が丸かぶりした。優來は、インドアだし根っから暑いのは嫌いだろう。
「逆に二月さんは、暑いの好きなの?」
「すごく好き、というほどでは無いですが、運動日和感あるので好きですよ。まあ、日差しで肌が焼けてしまうので、日焼け止めを塗る手間はありますが」
「二月さん肌すごいもんね」
二月さんの肌は、とても白く逆に外出てないんじゃって、くらい肌が真っ白だ。
「まあ、外に出たら基本メイドが、傘を指してくれますから、日焼け止めに加えてですね。あの子、畑の時はいいと言っているのに、さしちゃうんですよ」
畑仕事中に日傘は、普通に邪魔だろうな。やっぱ、メイドさん過保護だ。それにしたって、畑仕事中は……
「梶谷様、なぜ笑っているんですか?」
「いや、ごめん。畑仕事中の絵面考えたら、どうもおかしくって」
考えてみれば、普通逆じゃねというやつだ。主の仕事は、メイドが引き受けやる。そのはずなのに、メイドさんが、二月さんの横で棒立ちで二月さんが仕事をする、考えれば考えるほどその絵面のシュールさに笑いが込み上げてくる。
「そんなおかしいですかね?」
「ま、まあツボは人それぞれだからね。ちょっとそれみたいし、畑仕事手伝うよ」
「ほんとですか!?であれば、おじい様にと考えていた、重機のプレゼント致しましょうか」
「それはやめて。じいちゃん困惑するだろうから」
二月さんの金持ち発言に、笑いの熱は冷め一気に素に戻った。
「であれば、妹さんなにか欲しいものがあれば、言ってください。家まで……個人ジェットまでなら良いですのよ」
「外堀から埋めようとしないでよ。怖い。ほら、優來若干引いてるよ」
「詐欺師、ぽい」
「詐欺師だなんて、わたくしの家は代々で大きくしていった、由緒ある家系ですよ」
いくら金持ちと知ってるとはいえ、急に規模のでかいプレゼントの話されると、そりゃなにかあるじゃないかって、疑って当然だ。
「しょうがないですね。じゃあ梶谷様、なにかありますか?」
「え、じゃあ美女100人」
「お兄」
「冗談だって」
冗談だから、そんな蔑むような目で見ないでくれ。
「美女、ですか。判断を下しにくいですが、わたくしを1番とするのであれば、やぶさかではないです」
「嘘だから、いらない」
割と周りの人美女と言って差し支えない人達ばっかだから、今更美女100人と言われてもいらない。
「ですよね、梶谷様はわたくし一筋ですから」
「どの点が!?」