152 甘えたがりシスターとお嬢様
「おじゃまします」
田舎の景色を背中において、そこそこ大きめの扉を開け、家にいるであろうばあちゃんに呼びかける。
「いっらっしゃい。優來ちゃんも」
俺が家に入ると、もちろんことばあちゃんがでむかえてくれた。
「おじゃまします」
「おかえり、ひさしぶり」
「お義母さんこそ、久しぶりです」
前も見たような再会をする2人を尻目に、俺と優來は家へ上がらせてもらう。
「あ、そうだ。2人とも今民泊してる人いるけど、あまり気にしないでね。部屋はいつも通りで」
ばあちゃん民泊とか募集してんだ。まあ確かにここの家、わりと大きいから部屋も何部屋か余ってたっけ。
「にしても暑い。優來気をつけろよ、冷房あるけど弱いから」
「お兄も」
暑い廊下を進んで、いつ俺らが寝泊まりしている部屋の戸を開ける。
「おお、涼しい。冷房ついたままじゃん」
部屋に入ってみると、普通に涼しくよく見ると冷房がついていた。それと一緒に目に入ったのは、おそらく下宿の人の荷物、割と長くいるみたいで荷物の量が多い。てか部屋余ってんのに、ここに泊まってるのか。
「てかじいちゃんいるかな、畑なら畑でよくやるなって感じだけど」
「ま、いったんリビング行こ。お茶飲みたい」
来る時飲み物は買ってもらったけど、既に飲み干して中身はからだ。それもあって、割と喉が渇いている。
「やっぱいいねぇ、恋人とかいないのか?」
優來と一緒にリビングの方に行ってみると、なんだか騒がしい。じいちゃんと民泊の人の話が盛り上がってるんだろう。
「じいちゃ……ん」
「私なんて、ただ言葉が上手いだけですよ。恋人は、秘密でお願いします」
「お、優!こちら、民泊に来てる二月さん、凄くいい人なんだぞ」
「こんにちは、梶谷様」
「こ、こんにちは」
リビングに入ってみると、じいちゃんと仲良く話す二月さんがそこに鎮座していた。俺を目にした二月さんは、俺に笑いかけてきた。とりあえず俺は、他人かのように挨拶をして、お茶を飲むために冷蔵庫の方へ向かう。
「こんにちは、梶谷様」
「二月さんもこんにちは」
お茶を取りに行くと二月さんが後ろから来て、もう一度挨拶をしてきた。正直、聞くのすら嫌だけど聞いておくか。
「なんでここにいるの?」
「普通に民泊ですけが。まあ、民泊とは言っても部屋を借りてる、の方が言葉は正しいですが。法律に抵触してしまいますから」
この人なんでもありだな。まさか、ばあちゃん家にまで乗り込んでくるとは。
「いつからここに?」
「梶谷様と海に行った次の日ぐらいからですね。無理を言って、部屋を貸してもらったんです」
よく分からない人に部屋を貸すってなると、相当な額詰んだ可能性があるな。二月さんならやりかねない。
「メイドさんは?」
「メイドでしたら、今買い出しに行ってますよ。おばあさまにおつかい頼まれたので」
「そこ一緒なんだね」
「私は1人でいいと言ったのに、あの子強く一緒に住むと」
そりゃメイドさんの判断が正しい。二月さん1人だと心配でならないし。何しでかすかわからないし。
「お兄、お茶」
「はいはい。ほれ」
優來にもお茶を渡して、同時にお茶を一気に飲み干す。二月さんのことで動揺したけど、お茶のおかげで少し落ち着けた。
「あ、二月さん一応この子は」
「わかってますよ。梶谷様の妹さんですよね。義理に見えて義理じゃない、本当の妹さん」
「その説明の仕方やめてくれない?で、優來この人は二月さん、どうしようもない金持ち」
「梶谷様も同じような感じじゃないですか」
どうしようもないは、言いすぎたか。心の中で、倫理観の壊れた金持ちに変更しておこう。
「まあ、見ての通りお嬢様」
「ストーカー?」
「ははは、間違ってないよ」
「酷いです。夫の家庭に干渉するのをストーカーだなんて」
「結婚してないからね!?」
やはり二月さんの中で俺は夫なのか。
「ああ!涼しい」
「車の中暑かったもんね」
俺が二月さんのヤバに困惑していたら、母さん達がリビングに入ってきた。
「お義父さんこんにちは」
「おお、元気そうだな」
「そして、そこに居るのが下宿の人ね。こんにちは」
「こんにちは。お義母様」
「お母様だなんて、教育がなってるのね」
二月さんのお母様は、絶対母さんの思うものとはズレてるだろうけどね。
「お名前は?」
「二月さんだよ、すげーいい子なんだ」
「いえいえ、わたくしなんかが滅相もない」
「ん?二月、教育がいきとどいてる」
「どうかしたの父さん」
二月さんの名前を聞いた父さんが、なにやら訝しげな顔をして二月さんのことを見始めた。
「あの、二月さんつかぬ事をお聞きしますが、ご両親は何をされてる人なのかな?」
「普通に働いていますよ。というか、会社やってます」
「てことは、国内2位の」
「すごい。正解です、二月財閥です」
軽くそう言った二月さんの言葉に、部屋の中の優來を除くほぼ全員が、口を大きく開けポカンとした顔をした。
「え、えっと二月さんってお嬢様の中のお嬢様な感じなの?」
「そんな、わたくし普通の女の子ですよ」
「なわけあるかぁ!」
お付きのメイドがいる普通の女の子がいてたまるか。
「お兄、ストーカーすごい?」
「すごいって言うのも、おこがましいレベル」
「規格外」
「2人して、そんなこと言わなくたって。わたくしただの恋する女の子ですよ」
「ただの、は余計だから使わないで」
俺の否定に二月さんはどうも不服そうではあるけれど、まじめに言って二月さんは常人の領域には立っていない。いや、俺が否定しといてなんだけど、恋愛面は割と普通の女の子ぽかったっけ。
「ちょ、ちょっと待ってください。なんでそんな、お嬢様がこんな普通の家庭に?」
「ちょっとした社会勉強ですね」
「社会勉強」
二月さんという存在に父さんは割と焦っているようで、さっきからずっとオドオドしている。
「それで聞くけど、二月さんここ暮らしやすい?」
「そうですね。周りに何も無い、というのは不便ですが、おばあさまや、おじいさまが優しくしてくださるので、普通にいいと思いますよ。なぜ、そのようなことを?もしや、この地をわたくしたちの生活――」
「違うよ。温室育ちのお嬢様は、どう感じるか気になっただけ」
まあ確かにじいちゃん達、割と甘いから田舎だと言うのに退屈はしないけど。
「なんだよ、二月さん嬉しいこと言ってくれちゃって」
「いえいえ、ホントのことですから」
「それじゃ、夜ご飯はBBQだ早速準備するぞ」
「それでしたら、メイ――姉さんにお肉を買うよう言っておきますね」
そういう設定で来てるんだ。